Campaign Asia-Pacific
2017年2月22日

アジア市場から見る、日本の広告代理店の評価 − エージェンシー・レポートカード2016

Campaignが毎年発表している、アジア太平洋地域を代表する広告代理店やメディア、デジタルエージェンシー40社を総合的に査定する「エージェンシー・レポートカード」。日本企業への昨年度の評価は、どのようなものだったのだろうか。

アジア市場から見る、日本の広告代理店の評価 − エージェンシー・レポートカード2016

過去14年間にわたり、Campaign Asia-Pacificではアジア太平洋地域における優れた広告代理店やメディアエージェンシーなどの実績を査定してきた。今回調査対象となった広告代理店は22社で、その中には日本の3大代理店である電通と博報堂、そしてアサツーディ・ケイ(ADK)が含まれる。2016年、これら各社の活動は日本を含めたアジア太平洋地域の市場でどのような評価を得たのか。賛否を含め、その概括をご紹介する。

対象となったのは2016年1月1日から11月18日までの期間で、等級はAからEまで。評価基準の詳細は文末をご覧いただきたい。

アサツーディ・ケイ(ADK)
社長:植野伸一
評価:C
前年の評価:Cマイナス

ADKは年初に「ADKグローバルセクター」を創設、海外事業拡大への強い意気込みを表した。同セクターの拠点はシンガポールで、日本国外にあるADK支社間の連携と協業の促進を使命とする。牽引するのはロブ・シャーロック、中里宏、大森健一郎の3氏。日本の本社と各支社の意向を調整しながら海外事業を進めて行くのが重要な課題だ。この展開は理にかなったもので、ADKが海外でより信頼されるプレイヤーへと進化するためには欠かせぬプロセスだろう。

海外拠点で最も力を発揮しているのは、今も台湾。他国の支社は台湾をベンチマークとしている。ADK台湾が手がけた統一企業公司(Uni-President)の「House of Little Moments(小時光麺館)」はカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルで金賞と銀賞を獲得、クリエイティブ面での最も輝かしい成果に挙げられる。この作品はスパイクスアジアとワンショー(One show)でも受賞を果たした。

新規クライアントの数は増えてはいるものの、その大半は国内企業だ。WPPとの提携は限定的だが、それでも効果は着実に現われている。昨年はオグリヴィー・アンド・メイザーと共同でプレゼンテーションを行い、大手ファストフード・ブランドの受注につながった。

国内では、採用プロセスの刷新を図っている。学生が職業を選択する際に直面する問題に着目、新たに導入したのが「相棒採用」。応募者は一緒に働いてみたい社員を選ぶことができ、その「相棒」を通じて会社を理解し、自分に向いているかどうか判断できるシステムだ。日本の一般的な新卒採用のプロセスでは、入社するまで企業の実態はなかなか見えにくい。こうした課題克服には有意義な試みと言える。

また、脳科学のマーケティングへの応用に取り組んできた「ADKニューロ研究会」を新たに「ニューロマーケティング・プロジェクト」と改編、クリエイティブや制作、コンサルティングをワンストップで提供するクラウドサービス「アブソルートワン」を立ち上げた。まだ大規模な展開には至ってないが、テクノロジーの「脈動」を捉え、主力サービスとして適切に取り込んでいく試みだ。更に、アニメ制作会社「ゴンゾ」も買収。ADKはかつてアニメ制作で名を馳せていた時期があったが、この買収でより大人向けのコンテンツを求める国内外の顧客に対応できるようになった。

加えてプロボノ(専門家が知識やスキルを活かして社会貢献するボランティア活動)にも取り組み、影響力の拡大を狙っている。「ブレーンタル」という名称のこのプロジェクトは、ADKのクライアントとなる予算がない企業を対象に、社員がボランティアでスキルやノウハウを提供、社会的貢献を行うというもの。日本では広告業界に限らずまだどの分野でもプロボノは普及していないので、注目に値する取り組みだ。

電通
社長:山本敏博(2016年は石井直氏)
評価:Cプラス
前年の評価:Bマイナス

海外事業の業績が好調な1年だったが、日本での醜聞が暗い影を落とした。過剰請求問題ではデジタル分野の多くのクライアントに悪影響を及ぼし、新入社員の自殺は過重労働によるものとして労災認定。いずれも極めて深刻な事態で、電通への信用は著しく損なわれた。こうした要因から、同社の評価は前年から1ランク下がった。

この2つの不祥事は、同一部署で生じた。従って電通全体の体質を表すものでないことは、きちんと認識する必要がある。とは言うものの、同じような事態が繰り返されぬよう同社には厳格な対策が求められている。再発防止策の可否は、7月に独立会社として発足した「電通デジタル」の行方を左右することにもなろう。透明性の向上こそ、同社立ち上げの主たる要因だからだ。クライアントの信頼を回復し、専門性を備えた人材にとって魅力ある企業になるためにも、電通は最高レベルの規範に則って事業を継続していく必要がある。

不祥事に見舞われた1年ではあったが、電通が日本のマーケティング業界で最大手として君臨し続けていることは間違いない。同社には高度なイノベーションを生み出し、テクノロジーの活用で業界をリードしている部署が複数ある。こうした先端的な取り組みを、いまだテレビ広告中心の土壌でどのように広げていくか。自他共に認める長期的な課題だ。

海外事業は、1月に「電通ブランド・エージェンシーズ」のCEOに就任した日比野貴樹氏のリーダーシップの下、引き続き堅調だった。第3四半期までの累計で、総利益における海外事業の割合は51%以上。今年は55%まで引き上げる目標を立てている。アジア太平洋地域全体では147の案件を受注、収益にして2,600万米ドルになる換算だ。

買収に関しては2015年が特に活発だったこともあり、昨年は動きが鈍ったが、ニュージーランドで評価の高い総合広告代理店「バーンズ・キャトマー・アンド・フレンズ」などを買収。イノベーションの面では中国とインドに力を入れた。中国では北京から上海にコミュニケーションデザインセンターを拡大、最先端のデジタルソリューションを提供するとともに、多くのエンジニアを現地採用した。インドではイノベーションラボを設立、比較的ローテクな市場でテクノロジーの効果的活用を目指す。

クリエイティブの面では、カンヌライオンズでグランプリ1つと30の賞を獲得。スパイクスアジアでも36の受賞を果たした。

博報堂
社長:戸田裕一
評価:Cプラス
前年の評価:Cプラス

博報堂が他社と大きく異なる点は、同社が「生活者」と呼ぶ、消費者を理解するための努力を国内外で徹底していることだ。昨年もこのコンセプトの下でサービス開発を手がけ、オウンドメディアに限らず幅広い情報から見込み顧客を特定するデータマネジメントプラットフォームを作り上げた。また、生活者の発想を暮らしやビジネスにいかに応用するかを学ぶ「博報堂生活者アカデミー」を一般向けに開講。先見性のある生活者の発想を企業のイノベーションや共創に取り込んでいくユニットも発足させた。

博報堂は「働きたい会社」のランキングで上位を占める。社員には様々な研修を提供し、海外勤務の機会も与えるなど豊富なインセンティブを用意。中でも、CMO(チーフマーケティングオフィサー)とより効率的に働くスキルを身につける社員教育に投資していることは特筆に値する。年間売上高が5%以上伸びたのはこのプログラムの成果、と同社は自負する。

サービスに加え、オリジナル製品の開発にも力を入れる。昨年は、音楽と同期して歌詞が表示される次世代型スピーカー「リリックスピーカー」や、ぬいぐるみを通して子供と話すことができる「ペチャット」などを世に送り出した。マーケティング上の課題解決に向け、こうした実験的な製品開発に取り組むのは奨励されるべきことだ。しかし一方で、これらの製品が同社やそのクライアントのビジネスにどのような貢献をするのかは見通せていない。日本の業界では第2の規模を誇るが、電通に比べると主たるクリエイティブプロダクトの存在感は国際的に極めて薄い。世界の主要な広告賞でも目立った実績はなかった。

博報堂の日本市場での地位は揺るぎない。だがもう一歩上を目指すのであれば、グローバル市場での成長を実現させるべきだろう。課題は何より、組織の構造にある。同社には優れた人材とリソースが揃っている。その可能性を十二分に引き出すには、共通の目標を設定しそれに向かって一丸となる態勢が必要だ。

(「電通・ADK決算」の記事もあわせてご覧ください

評価法

エージェンシー・レポートカードでは広告代理店やメディア、デジタルエージェンシーを4つの主な基準で査定した。

  • 業績: 各社の試算とCampaignが発表した「R3」社の「ニュービジネスリーグ」に基づき、2016年に獲得したクライアントとの取引による売上高と、失ったクライアントによる目減り分を査定。
  • イノベーションとイニシアティブ: エージェンシーや社員、クライアント、業界にどのような好影響を与えたかという観点から、アジア地域での取り組みやイノベーションを定性的に評価。
  • 作品と受賞歴: 手がけたキャンペーンの説得力や効果を定性的に評価。地域や世界での広告賞の実績も鑑み、主要な賞をより重視。
  • 人材: 優れた人材をいかに確保し、また彼らの能力開発に注力しているかという点を踏まえ、各社経営陣の実績を定性的に評価。

評価

A:比類のない素晴らしさ
Aマイナス:非常に優れている
Bプラス:優れている
B:大変良い
Bマイナス:良い
Cプラス:平均以上
C:まあまあ
Cマイナス:及第点
Dプラス:努力を要する
D:低迷
Dマイナス:悪い
E:この1年はなかったことに……
Eマイナス:存続が危ぶまれる

(文:Campaign Asia-Pacific 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)

フォローする

トップ記事と新しいキャンペーン情報

速報メールを受け取る

関連する記事

併せて読みたい

Premium
200万回超のビュー トヨタ・ヴィッツ新CF
Premium
4 時間前

200万回超のビュー トヨタ・ヴィッツ新CF

クルマのCFに一石を投じるストーリー性と、過去の映像技術を駆使したエンターテインメント性。トヨタ・ヴィッツハイブリッドの新作が、多くの視聴者を呼ぶヒットとなっている。

Premium
アクセンチュア、顧客のトレーディングデスク内製化を支援
Premium
5 時間前

アクセンチュア、顧客のトレーディングデスク内製化を支援

経営コンサルティング大手が広告界に、さらに一歩踏み込む。メディアバイイングとは一線を画す方針だ。

Premium
「男女平等」が進む広告代理店 : 2017ジェンダー・ダイバーシティースタディー
Premium
5 時間前

「男女平等」が進む広告代理店 : 2017ジェンダー・ダイバーシティースタディー

広告代理店はテクノロジーなどの企業より多様性があり、男女同権が進んでいる − Campaign Asia-Pacificが実施した新たな特別調査で、このような結果が判明した。

Premium
VRを活用し、マーケティング新時代へ
Premium
5 時間前

VRを活用し、マーケティング新時代へ

制作会社であるAOI Pro.が、VR(バーチャルリアリティ)コンテンツを発表した。ユーザーの感情をモニタリングし、ブランドによるVRの活用につなげようと同社は青写真を描く。