Atifa Silk
2017年7月03日

カンヌライオンズを、テクノロジー企業の手から取り戻せ

カンヌライオンズはあくまでもクリエイティビティーの質を競い、クリエイターたちがしのぎを削る場でなければならない −− ピュブリシスの元CEO、モーリス・レヴィ氏がその現状に警鐘を鳴らす。

カンヌライオンズを、テクノロジー企業の手から取り戻せ

今年のカンヌライオンズが閉幕した。が、広告業界にはこのイベントの意義を改めて見つめ直す空気があり、会場にはいつにも増して不安感が漂った。カンヌの新たな方向性 −− その中心はもはや広告や広告代理店ではない −− を歓迎する人々がいる一方、ピュブリシス・グループ諮問委員会委員長で元CEOのモーリス・レヴィ氏のように、クリエイティビティーとの関連性が弱まったことを懸念する人々もいる。その真意を、同氏に尋ねた。

良くも悪くも、カンヌライオンズは変わりました。どのように変わったと思いますか?

カンヌライオンズは本来、優れた広告作品を評価する場でした。そうではありませんか? もし数年前のカンヌであれば、あなたとこうして向かい合い、ブラジルやパリ、あるいはニューヨークなどから出て来た新しくてユニークな広告代理店について語り合ったことでしょう。しかし今話題に上るのは、クリエイティビティーではなく、テクノロジー企業がカンヌを席巻しつつあるということです。

これは、我々がカンヌへの参加を見合わせることにした理由の1つです。「カンヌライオンズが今後どうあるべきか、もう一度考えてみよう」 −− こうした提起をするためにも大胆な決断が必要であったし、それは正しかったと思います。カンヌライオンズは、優れた作品やクリエイターたちを讃える場であるべきです。しかし今やIBMやスナップチャット、フェイスブック、グーグルといったテクノロジー企業、そしてコンサルティング企業が席巻しています。これは大変重要な変化です。我々は、この世界が変わりつつあることをきちんと認識しなければなりません。しかし、だからと言ってカンヌライオンズをテクノロジー企業主導の場にしてしまってはいけないのです。バランスが大切なのですから。

そうした見方は、テクノロジーを重視する最近のピュブリシス・グループの動きとは矛盾しませんか?

テクノロジー企業自体は歓迎です。我々の可能性を信じ、彼らが持つ新しいテクノロジーやアイデア、ソリューションを共有してくれるのはありがたいことですし、大切なことだと考えます。しかし我々は、自分たちを見失ってはならない。我々が守らねばならないことは、実にシンプルです。自分たちの仕事をクリエイティブなものとして認識すること。我々はクリエイティブに携わり、クライアントのビジネスを変革するようなアイデアを生み出すことが仕事です。我々にテクノロジー企業のようになってもらいたいと考えるクライアントはいないはずです。テクノロジーに関するコンサルティングもいいが、何よりもビジネスを変えるアイデアを生み出す −− それこそクライアントが我々に望むものであり、我々が実現せねばならないことです。

カンヌライオンズで、テクノロジー企業がクリエイティビティーに対する脅威になるのはなぜでしょうか?

テクノロジー企業がカンヌライオンズに参加するのは、自分たちの提供できるサービスを売るためです。カンヌライオンズは「市場」になってしまいました。コンサルティング企業も同様の目的でカンヌに来ます。しかしカンヌは本来、映画やデジタル、そしてクリエイティブなアイデアのためのフェスティバルです。クライアントに新たなイメージや成長を実現させるため、我々が出来得ることを開陳するイベントです。今は我々皆が、自分たちのルーツを見直すべき時に来ているのではないでしょうか。

カンヌライオンズの参加にかかるコストは、参加への障壁になっていますか?

数年前からコストが見直されていて、頭痛の種になっていました。クライアントからは手数料の引き下げも求められていましたので。フェスティバルの日数が長くなったのも問題です。カンヌに10日間もスタッフを送る余裕など、我々にはありません。このフェスティバルは規模が大きく、多額の費用がかかります。ですから我々は慎重に向き合わねばならない。賞やエントリーの数を考えると、全ての費用を無限にまかない続けることなど、できるわけがありません。クライアントからは、「やむを得ず手数料を引き下げる」と言われる。手数料が下げられれば、コストも削減しなければならない。それが現実です。

さもなければ、我々は困難な状況に陥るでしょう。カンヌライオンズは、まず広告業界とともに委員会をつくるべきです。広告主に参加してもらうことも大切でしょう。忘れるべきでないのは、我々はカンヌにクライアントが来るよう努力を重ね、投資をしてきたこと。そして、このフェスティバルの目的は優れた仕事を評価するということです。

(文:アティファ・シルク 編集:水野龍哉)

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