Chisato Takigawa
2017年6月01日

「フォトジェニック消費」を牽引するミレニアル世代の日本人女性

多くの20代女性に支持される、写真・動画の共有SNS「インスタグラム」。インスタグラム上でどのように見られるのかは、生活や商品にも大きな影響を及ぼす。

瀧川千智氏
瀧川千智氏

私は「博報堂キャリジョ研」という博報堂および博報堂DYメディアパートナーズの自主活動プロジェクトで20~30代の働く女性の消費意識や生活意識を研究し、マーケティングやプロモーションのプランニングに活かしている。

その中で注目しているのが、20代女性のソーシャルメディアの利用実態だ。博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所のデータによると、日本でのソーシャルメディアの利用率は、20代女性で98%。インスタグラムの利用率に注目してみると、全年代をならせば16.3%だが、20代女性の利用率は68.5%。つまり20代女性に特化したメディアだといえる。

20代女性の情報行動が変わった

次に、博報堂キャリジョ研のデプスインタビューを通して見えてきた、20代女性の情報行動の特徴について紹介しよう。

まず挙げられるのが「欲望のビジュアル化」だ。女性たちは廊下でもトイレでも常にインスタグラムを見ている。そしてタイムラインにあるたくさん写真を高速でスクロールしては、その写真がかわいいのか、そこに写る商品が欲しいのか、その場所に行きたいのかを直感的に判断し、次々と「いいね」をする。つまり言葉よりもビジュアルによって直感的に欲望がかき立てられるし、その直感も高速化している。

次に「情報のボーダレス化」も特徴として挙げることができる。インスタグラムでフォローする相手は、ファッションのインフルエンサーから、アーティスト、ママ、犬、レシピまでと、とにかく多岐に渡る情報をジャンルレスにフォローするのだ。また、日本人は英語が苦手な人が多いので海外のウェブサイトを見る人は少ないが、インスタグラムなら写真で分かるので国籍や言語の壁を超えて、海外のアカウントも抵抗なくフォローしていく。

また、インスタグラムを検索エンジンとして使う傾向も見られる。何か情報を検索しようとする際に、従来の検索エンジンよりもインスタグラムを使うことが増えた。理由の一つは、検索件数順で出てくる検索エンジンと違って、インスタグラムならば最新情報が分かるからだ。たとえば「来月ニューヨークに旅行したいけど、コートを持っていくべき気候なのか」はインスタなら分かる。さらにインスタグラムは場所や人も同時に検索できるから、その場所で投稿している人のページを見れば、「イケてる人」が行く場所なのかどうかが分かる。だから今「イケてる」レストランを検索するのにも、インスタグラムを使うのだ。

インスタグラムに左右される「旅行消費」

中でも特筆すべきなのは、旅行の仕方がインスタグラムによって大きく変わったことである。

昔は、まず旅行先を決めてガイドブックを買い、現地に着いたら写真を撮っていた。しかし今は、まず日頃からインスタグラムで「撮りたい写真」の画像を保存しておいて、LINEのグループフォルダで友だちと共有するところからスタートする。そして「こんな写真を撮りたいから、ここに旅行しよう」と、撮りたい写真ありきで旅行先を決定する。候補地を検索して、おしゃれな人が行っているようであれば、その場所はおしゃれなのだと確信できる。

「撮りたい写真」ありきで行き先を決めるくらいなので、水着は6着も持っていくなど、旅の前の消費ぶりは凄まじい。現地でも、砂浜に3時間滞在したとしても2時間半は撮影時間。途中で水着を着替えての撮影もあり、まさしく「ロケ撮影」だ。

一緒に旅行に行く友だちは、特に仲良くもない場合がある。美人が集まって写真を撮れば、そこまで美人ではない自分でさえも、SNS上では美人の仲間入りができるから、「(仲良くないけど)フォトジェニックな美人たちの旅行」というのもあるのだ。

旅先で撮った写真は、写真投稿を稟議するLINEフォルダにみんなでアップして、稟議がおりた写真をSNSに載せる。そして、きれいに加工された自分の自慢だけでは「鼻持ちならない奴」になるので、ハッシュタグは自虐的なコメントにして、友だちからの共感を得ようとするのだ。

写真映えするかで行動を決める

インスタグラムが彼女たちに及ぼす生活行動への影響は大きい。それは承認欲求から生まれる「セルフブランディング欲求」といえるだろう。

まず、消費行動はフォトジェニックな世界観をつくるために行われる(これを我々は「フォトジェニック消費」と名付けた)。カラフルなもの、おおげさなもの、自宅をおしゃれに演出してくれる雑貨などは人気で、ここ数年、ホームファッション小売市場規模は増加傾向にある。

そして、彼女たちは徹底的に世界観をつくり込む。フィルターを統一し、その世界観に合うような生活を送る。そして自分のページを見返して、統一感に合わないものは削除する。

しかし、ただタイムラインで目立つ写真を投稿すればいいという訳ではない。デプスインタビューをした女性の中には「大阪のテーマパークに行くとパーティーピープルの写真になってしまい、自分らしい写真が撮れない」という理由で、旅行に発つ前日に行き先を急遽、京都に変えた人もいた。京都の方が「自分らしい」写真を撮れるからだ。

つまり、自分がどう生活したいかではなく、SNSで「自分がどう見られるか」を考えて、日常生活の行動をするのだ。「いいね」と言われたいという、承認欲求の表れだろう。

●用途に合わせてSNSを使い分ける

20代女性は、フェイスブックは「冠婚葬祭メディア」、インスタグラムは「セルフブランディングメディア」、ツイッターは「本音デトックスメディア」といったように、ソーシャルメディアを用途に応じて使い分けている。

彼女たちがここまでこだわってSNSを使うのは、中学生の頃からSNSを使ってコミュニケーションしてきた世代であることが背景にある。いわゆるソーシャルネイティブ世代だ。本音を言う場所は、日記ではないのだ。また、日本人独特の「タテマエ」文化(本音を直接的に言わない文化)も、SNS利用を後押ししているのだろう。

だから、企業がコミュニケーションやプロモーションを考えるとき、女性たちに「うちの商品を投稿しなさい」と強制するのではなく、ぜひ「あなたのセルフブランディングに役立つよ」という視点で見せてあげてほしい。たとえば、「この商品は実はこんなカルチャーに基づいてデザインされている」という裏側のストーリーを伝えると、彼女たちはそのストーリーに共感して、「これは私を表現できる商品だ」と感じて、SNSに商品投稿してくれるかもしれない。

瀧川千智氏は、博報堂キャリジョ研メンバー。博報堂でマーケティング職を8年経験した後、現在は博報堂DYメディアパートナーズ雑誌局に所属。

(編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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