Barry Lustig
2017年2月15日

「外国人女性クリエイティブ」にとっての広告業界

誤解から生まれる意外なメリット、デジタルマーケティングの盲点、そして女性の才能を開花させるために必要なこと……。AKQAでグループクリエイティブディレクターを務めるクラウディア・クリストヴァオ氏が、日本での経験と教訓を語る。

クラウディア・クリストヴァオ氏
クラウディア・クリストヴァオ氏

シリーズでお届けしている「女性リーダーたちと語る」。今回はAKQA東京のクリエイティブを牽引するクラウディア・クリストヴァオ氏に、バリー・ラスティグが話を聞く。ポルトガル出身のクリストヴァン氏は、来日するまでロンドンとアムステルダムで学び、仕事をした。日本の広告業界では少数派の「外国人」かつ「女性」として、これまでどのような体験をしてきたのか。極めてポジティブに語る同氏だが、女性が広告業界で十分に力を発揮するためには意識改革が必要、とも訴える。

日本に来たきっかけは何ですか?

フリーランスとして2週間半の予定の仕事で来日したのですが、いつの間にか2年半が経ってしまいました。

日本に腰を据えようと決めた理由は何ですか?

来日するまで、日本について特に興味を持っていたわけではありません。でも日本人の働き方や考え方、そこから生まれる表現方法を目の当たりにして、すっかり魅了されてしまったのです。

日本ではクリエイティブはかくあるべし、という規範が確立されていて、それに基づいた極めて質の高いアイデアが求められます。しかし時には逆の発想で、枠の外へ飛び出すこともある。実に面白いと思ったのです。それまで経験したことのないような、濃密で生産的、かつ創造性豊かな世界でした。それにどっぷりと浸かり、もっとよく理解したいと考えたのです。

外国人クリエイティブは日本で歓迎されると感じましたか?

ええ、本当に。周りの人たちはフレンドリーに打ち解けてくれ、私の「外国人らしさ」を良い意味で受け入れてくれました。おかげで、すっかり日本に馴染むことができたのです。

日本人の同僚たちはあなたに何を求めていたと思いますか?

優れたアイデアや気の利いたアプローチといったこと以外に、日本に欠けがちなグローバルな視点ですね。それと、順応性です。クリエイティブのアウトプットだけではなく、物事に対する理解にもそれが求められました。私が取り入れようとし、同時に周囲からも期待されたのは、日本のシステムに完全に同化せず、それでいてシステムの中で円滑に仕事を進めて行けるような「開放性」でした。

自分のそばにいつも「なぜそうなの?」と尋ねてくれる人がいることは、とても重要です。所属している組織への愛着が強く、それを心から理解したいと思っているとき、こうして問いかけてもらえることは非常に有意義なのです。

日本で仕事をする上で、難しかったことは何ですか?

当たり前のことに気づくまで、しばらく時間がかかりました。つまり、同じ言語が話せなくてもいいということです。英語が話せないクリエイティブとも充実した関係を築けることを、身をもって学びました。お互いへの信頼と好奇心があれば、言葉が通じなくてもうまく行くのです。それに加えて、意思疎通が不自由だからこそ生じる素晴らしい生産性も発見しました。誤解がきっかけで最初の方向性が変わり、はるかに面白い結果につながることがあるのです。

今でも聞き違いが多いですし、自分の言うことが間違って伝わることもしばしばです。でも、互いに相手の言わんとすることを理解しようと真剣に耳を傾けた上での誤解だからこそ、返って可能性が広がったという経験を数え切れないほどしてきました。

広告代理店のクリエイティブプロセスは、日本と海外ではどのように違いますか?

しばらくの間、日本ではブレインストーミングをそれほど行わないということに気づきませんでした。日本ではどちらかと言えば、一人でじっくりと考えて答えを出す傾向があります。日本人は他人の意見や感想に寛容で、質を高めるためにアイデアの練り直しに積極的に取り組みますね。そして、それが実にうまく機能している。海外のやり方とはだいぶ異なります。

広告代理店にとって日本での最大のチャンスは何だと思いますか?

私は日本が例外的な市場だと考えています。特殊で独自性が高く、ほかの市場との比較が非常に難しい。私にはそれで何ら問題はないのですが。「欧州ではこうだったから、日本でも同じようにやるべきだ」などと言うために日本で仕事をしているわけではありません。そのような考え方では日本で成果が出ませんから。

実際に日本ではどうなのか、この国の現状を把握することが重要でしょう。海外でのやり方に追随するのではなく、日本市場で論理性が高く意外性のあるものは何か、見つけ出すことです。

男女差とデジタルマーケティングの関連性をどう見ますか?

女性はなぜデジタルの世界で盲点になっているのだろうと、ずっと疑問に感じてきました。女性に対する無知や固定観念、知ろうとする努力の欠如……恐らくこういったことが要因で、女性向けのデジタルマーケティングはまだ未熟です。大事な点を見落としているのです。デジタルマーケティング上の安全性については議論がありますが、効果的なメッセージングや的を射たコミュニケーションについてはあまり話題に上りません。

様々な統計が既に示している通り、ほぼ全てのソーシャルプラットフォームで女性利用者の方が男性より多いのです。リンクトインとツイッターは例外ですが、女性は男性よりわずかに少ないだけです。女性の方がオンライン上の行動で変化に富み、購買力も高い。それなのにほとんどの分野で主要ターゲットと見なされていないのは、不可解です。

私が言及したのは世界における統計ですが、この点に関して日本の状況が海外と著しく異なっているとは思えません。デジタルの世界では、特定の消費者ではなく「状況」や連続して起こる相互作用などがマーケティングのターゲットになります。ですから女性という巨大なターゲットに向けて発信されるメッセージがどのようなものであるべきか、探り出すことは実に興味深いテーマなのです。デジタルマーケティングの文化的可能性を広げる大きな機会だと思いますし、ビジネスチャンスとも言えるでしょう。

日本の広告代理店には女性リーダーがほとんどいませんが、なぜだと思いますか?

私は日本で素晴らしく才能豊かな女性たちと仕事をした経験がありますが、そのほとんどはクライアントとしての立場でした。ワイデン・アンド・ケネディの仕事で初めて日本に来たとき、同社のマネージングディレクターはトリッシュ・アダムス氏で、エグゼクティブクリエイティブディレクターは佐藤澄子氏でした。いずれも女性です。こんなことは欧州でもありませんでした。日本に来てまったく異なる経験をしたのです。とても光栄で、嬉しかったですね。

ご質問への答えですが、日本の文化に起因するのではないかと思います。ここでは、女性は男性と同じように受け入れられていません。教育システムのせいでしょうか。ですから、そうした意識の形成は既に幼少時から始まる。女性の活躍を推進し、プロフェッショナルとして高い期待をかけるような教育は積極的に行われていませんね。女性にとっては決して有利な環境ではなく、その多くが期待を持てなくなるのです。改善の余地は大いにあります。

広告代理店で指導的立場にある人々が女性の才能を引き出すには、どうしたら良いでしょう?

女性の視点で物事を捉えることが大切です。そして、女性を特別扱いしないこと。世界の人口の半分は女性であって、ニッチでも特殊でもありません。男性と平等に女性の声にも耳を傾けようとするのが、妥当な考え方なのです。

そして能力の高い女性や、自己評価が控え目でも潜在力を持った女性を見出すことです。自己の実力や可能性に気づいていない女性が多いように見受けられます。

日本の女性たちにどのようなアドバイスをしますか?

それぞれの女性によって変わってくるでしょう。

最近、何人かの若い女性たちと話す機会があったのですが、彼女たちはメンター(仕事上の指導者や助言者)が足りないとこぼしていました。周りのサポートがないため、仕事に対する信念が揺るぎやすく、不安を感じてしまう。もっと仕事がしたい、自分はもっとできると思っても、認められていないと感じて現状に甘んじてしまうというのです。

女性が野心的であることは、確かに求められていないかもしれません。でも、もし野心があるのなら、周囲が何と言おうと自分の気持ちと真剣に向き合うべきです。そして、向上心があって当然と認めてくれるような人を見つけることでしょう。

バリー・ラスティグは、東京を拠点とするビジネスクリエイティブ戦略コンサルティング会社「コーモラント・グループ」のマネージングパートナーを務めている。

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