Ryoko Tasaki
2017年2月07日

新成人に贈る、「故郷の魅力」

若者の流出という共通の問題を抱える地方の中小都市。福井県大野市ではそれを少しでも食い止めようと、新成人たちに粋なプレゼントが贈られた。

新成人に贈る、「故郷の魅力」

1月8日、福井県大野市で行われた成人式では、真っ白な表紙が印象的な写真集が新成人たち314人に手渡された。大野市の若者たちと電通が協力して制作した写真集だ。

人口約33,000人の大野市は人口が減少傾向にあり、若者の流出は特に大きな問題だ。「当市には大学や専門学校がなく、高校卒業後に進学などでいったん親元を離れるのは仕方がないのです」と語るのは、大野市企画総務部結(ゆい)の故郷(くに)推進室の雨山直人氏。一方で電通は、2015年3月に「地域創生プロジェクト」を立ち上げるなど地域産業の支援や協業を推進している。両者は2014年9月に協定を結び、人口減少対策プロジェクトを始動させていくことになった。

旅立つ前の「再認識」

若者の定住を促進する支援策としてまず思い浮かぶのは、定住奨励金や子育て支援、医療費補助といった実利的なサポートだろう。大野市でも同様の施策をこれまで複合的に行ってきたが、「そういった実務的なメリットも、地元に魅力を感じていない人間にはまったく届かない」(日下氏)ことから、より「情緒」に訴えるプロジェクト「大野へかえろう」が生まれた。

人口流出に少しでも歯止めをかける現実的な施策は、大野市で育ち、転出していった若者たちのUターン促進だ。そこでこのプロジェクトでは、将来的に大野市を離れる可能性のある高校生から20代前半の年齢層にターゲットを設定。「地元にいる間に地元の魅力を知ってもらいたい」と語るのは、仕掛け人である電通の日下慶太氏。「進学や就職のために市を出て行く若者に外へ出るな、というのは無理な話です。ただ、大野の魅力を知ってから出るのとそうでないのとでは、Uターン率が大きく異なります」

日下氏は、「帰るべき美しい場所を失った都会人たちが『田舎』を持てば、地方はより元気になるのではないか」という個人的な思いをずっと抱いていた。歴史も血縁もない大阪近郊のニュータウンで生まれてマンションで育ち、祖父母の家も都会近郊なため「帰るべきところがない」という同氏。「僕にはない、失われた田舎をつくりたい」という感懐もあった。

プロジェクトの第1弾は、2015年に開催したポスター展。地元の高校生36人が大野市にある商店のポスター36点を制作し、それを掲出して人気投票を行った(2016年にも22人の高校生が22作品を制作して開催)。第2弾は、地元で活躍する大人8名による講演会。第3弾では、子どもたちに「帰ってきてほしい」となかなか言い出せない親心を込めたオリジナルソングを制作。2016年3月に行われた県立大野高校の卒業式で、保護者たちがサプライズで歌った。こうした取り組みに続く第4弾が、今回の写真集だ。

人生の節目での「効力」

写真集の制作には、約1年半を要した。市民や市役所の若手職員、電通の制作スタッフ、さらには地元の映像作家らで編集委員会を組織。毎月1回の編集会議は「どちらかというと閉じた会議体で、濃い時間を過ごしました」と雨山氏は振り返る。

大野らしい、また大野へ帰りたくなるような風景とは何か、それらをどのようなトーンで伝えるのか……。検討を重ね、観光写真のようなものではなく、普段の何気ない美しい風景こそが大野市民の心に響くのでは、という結論に至った。写真は地元の映像作家が撮影し、それに添える言葉は地元の人たちが書いた。「外部の人間は大野の魅力を一部しか分かりません」と日下氏。「魅力を理解できる市民が撮影し、言葉を紡ぐ必要がありました」。

キャッチコピーの書き方に慣れるまで、言葉は説明的になりがちだったという。「写真に感情をのせるように。その感情は、個人的であればあるほどよい」というアドバイスをすると、「良いものが次々に出来上がっていった」と日下氏。「一般の人たちに広告制作の手法を教えれば、それをもとに新しいものを発見し、生み出すことができる」という自らの教訓も得た。

大野の雪をイメージしたという真っ白な表紙の写真集は、A4版で200ページに及ぶ。装丁もしっかりとしていて、保存版といった佇まいだ。「もらった人間が死ぬまで家に置きたくなる、東京や大阪の下宿先でもずっと置いておきたいと思えるような装丁にこだわりました」と日下氏。大野の大人たちから新成人への大切なプレゼント、というメッセージも込められている。

手に取った新成人たちからは、幼い頃から暮らしの中で見てきた風景が「懐かしい」というコメントが多く寄せられた。しかし雨山氏は、「写真集に対する即効性はなくてもいいと考えています」と控えめだ。「新成人は地元を離れてまだ2年ほどしか経っておらず、懐かしさはまだ少ないように思います。大学生も多いので、今後就職するときや結婚を意識するタイミングなど、人生のターニングポイントでこの写真集が力を発揮してくれれば嬉しいです」

写真集は今後2年にわたって配布するほか、地元の魅了を若者に伝えていく施策も継続していく。

(文:田崎亮子 編集:水野龍哉)

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