David Blecken
2017年10月12日

資生堂のクリエイティビティーへのアプローチ

今後のクリエイティブにとって重要なのは、企業ではなく個人同士の信頼関係 −− 化粧品業界大手のエグゼクティブクリエイティブディレクターが語る。

山本尚美氏
山本尚美氏

社内にデザイン部門を持つことは、多くの企業にとって依然ハードルが高く、斬新なコンセプトだ。にもかかわらず、資生堂の宣伝・デザイン部は既に100年以上の歴史を誇り、ビジュアルアイデンティティーを確立する上で不可欠な存在として歩んできた。パッケージデザインの制作を中心にスタートし、最近ではワイデン・アンド・ケネディと組んでグローバルブランド「WASO(ワソウ)」を立ち上げ。また、実験的ウェブ動画「High School Girl? メーク女子高生のヒミツ」を広告代理店の手を借りずに制作、カンヌライオンズでは賞を獲得している。

だがどの企業のどの部署もそうであるように、この部署にも課題がある。エグゼクティブクリエイティブディレクターの山本尚美氏曰く、「今は変革の途上で、デジタルコンテンツの制作と真剣に取り組んでいる最中です」。デジタル分野は、時に短いサイクルで大量のコンテンツ制作が求められる。その対応力は以前より向上したが、「デジタル界と密に関わっていくにはまだ不十分」。更に社内におけるクリエイティブとマーケティング担当者の連携も課題で、「両者の壁を取り払う必要がある」とも。

では、資生堂のクリエイティブはどのようなプロセスで制作され、どのような変化を遂げているのか。クリエイティブテストから経営コンサルタントの役割まで、同氏に幅広く話を聞いた。

クリエイティブテストの重要性:
同氏は、「消費者の視点からデジタルクリエイティブを事前にテストすることが大切」という。だがその場合、クリエイティブから「鋭さ」が失われてしまうことが時にある。よって「A/Bテストを行って、必要な修正を加えていく方法が好ましいでしょう」。かつてのクリエイティブディレクターは、「自分の作品は他人に指1本触れさせない、という姿勢」だった。だが今では幅広く受け入れられることを良しとし、視点も客観的になり、「修正にも臨機応変に応じるようになりました」。

適切なコンテンツ量の模索:
目下の最大の課題は、「ブランドとしての価値を下げず、グローバル市場の需要を満たすだけのソーシャルコンテンツを制作すること」。国内市場向けに大量のコンテンツを作る必要性はあまりないのだが、それでもクリエイティブの仕事量は旧来の媒体を対象にしていた頃より4~5倍に増えたという。どのプラットフォームも「全く異なるコンテンツが必要」だからだ。

クリエイティブに必要な素養:
「インハウスでクリエイティブに携わる人々にとって、大切なのは積極性です」。次々と新しいものを生み出さねばならぬ今の時代、最終の詳細なブリーフをただ待つのではなく、「積極的に情報を収集して、次のプロジェクトの計画を練るべき」だという。また、完成物をいきなり提示するのではなく、「制作途中でフィードバックを確認しながら仕上げていく方が良いでしょう」。海外の仕事先とやり取りをする際には、「自説を曲げず、はっきりと意見を言うのを恐れないこと」が日本人にとって特に重要とも。同氏は、「楽しんでこそ良いものを生み出せる」という信念を持つ。「もちろん、時には苦しみを伴いますが……。でもスタッフが仕事を楽しめれば、それは作品に伝わるのです」。

プロジェクトの本質を見極める役割:
仕事の本質を見極めるのは通常、マーケティングチームの役割だ。しかし、「状況によってはクリエイティブやデザイナーがその大切な役割を果たします」。彼らがデスクを離れ、顧客と直接対話することが重要となる。資生堂にはクリエイティブディレクターとプロデューサーがいて、必要に応じて実質的なクリエイティブストラテジストを務める。因みにWASOの立ち上げは、クリエイティブ主導で行われた。

広告代理店の意義:
「クリエイティブエージェンシーと仕事をするのは、彼らが我々よりも社会についてよく知っているから」。だが常にエージェンシーと仕事をするわけではなく、「前例がなかったり、これまでの殻を打ち破ったりするような仕事をするときに外部の力を仰ぎます」。WASOのディレクションはワイデン・アンド・ケネディだが、「High School Girl? ……」のように映像制作者だけを招じ入れることもある。では、代理店が無用な存在になることはあるのだろうか。 「それは代理店をどう定義するかによりますね。重要なのは代理店にいる人々です。私たちが重きを置くのは企業同士ではなく、個人同士のアプローチですから」。

クリエイティブにとって必要なコンサルタントとは:
山本氏は経営コンサルタントに対してやや懐疑的だが、やはり代理店同様、「クリエイティブパートナーとしての価値は個人の力量次第」だという。どの分野でも、一緒に仕事をする相手は企業ではなく、個人をベースに選ぶのだ。「例えばコンサルティング会社の方が来て、クリエイティブに関する話をしたとしましょう。 彼らがコンサルタントというだけでは、我々を納得させることは難しい。でも、会って話をすることは重要です。我々の勘は当たることが多いので。大事なのは相性です。我々が誰それと仕事をしようと決めるときは、たまたまその人たちがマッキンゼーや電通、ワイデンの人だったということです」。

(文:デイビッド・ブレッケン 編集:水野龍哉)

この記事は、シリーズでお届けしている「新時代のクリエイティブプロセス」の一環です。

提供:
Campaign Japan

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