Sohei Mitani
2016年8月04日

「なんとなくデジタル」から「デジタルファースト」へ

ネット広告はすっかり定着したかのように見えるが、今までのマス広告の延長線上での使い方に終始していないだろうか。単なる「媒体」を超えた、ネット広告ならではの特性を十分に活かすことが、マーケターに求められている。

三谷壮平氏
三谷壮平氏

ネット広告の拡大は本物か
成熟産業ともいえる広告市場において、ネット広告の売上は2ケタ成長を続けている。日本では2012年にネット広告の売上は新聞を抜いて2位となり、テレビ広告とはまだ8,000億円近い差があるものの、アメリカではネットがテレビに肉薄し、イギリスでは既にテレビを抜いている。日本においても同様の推移をたどっていく可能性は否定できない。
このように、媒体売上だけ見ると「デジタル化」が着実に進んでいるように見える。しかし、特に今までテレビを中心に広告を打っていた大手広告主にとって、これらは多くの場合「なんとなくデジタル」に過ぎないのではないか。

「なんとなくデジタル」の実態
世の中的にネット広告が盛り上がっているから、なんとなく予算を割り振っている状態を、「なんとなくデジタル」と呼んでいる。具体的にはテレビのリーチ補完のために動画広告を打ったり、PRネタを仕込んで再生数を競ったり、といった使い方だ。
これらはマス広告の延長線上な使い方だ。つまり、ネット広告をマス広告などと同じく媒体としてのみ使っている。だが、ネット広告の本来のポテンシャルは媒体としての使い方を超えたところにある。

本来的なデジタルの特性
ネット広告のポテンシャルを、デジタルの特性から捉えなおしたい。分かりやすく整理すると、従来型のマスメディアとネット広告の違いは、大きく二つある。
一つは、1対1であること。現状のマスメディアではメッセージを任意に出し分けることはできず、テレビ番組ごとなど、メディア側の制約に規定されていた。しかし、ネット広告であればユーザー一人ひとりに違ったメッセージを自由に出し分けることができる。
もう一つは、双方向であること。広告を打ったら終わり、という一方向の関係ではなく、広告を当てた結果としてどういう行動につながったかを追えるようになる。
結果として、今までは広告を打ったら終わりだったのが、きちんと効果計測できるし、結果を踏まえた細かな粒度での対策も打つことができる。つまり、ネット広告は単なる「媒体」ではなく、もっと広い「ソリューション」になり得る。
しかし、多くの広告主もエージェンシーも、このデジタルの特性を真に使いこなせていないのではないか。

ソリューションとしてのネット広告を使いこなすために
ポイントは、メディアだけで閉じて考えない、ということなのだと思う。今までのメディアの論理にしばられると、どうしてもメディア起点に思考が規定されてしまいがちだ。しかし、メディア起点ではない形で適切に全体を設計していくことが重要である。
そのために必要なアプローチは、ターゲットファーストの徹底だ。
まずはターゲット像をきちんと定め、ターゲットごとにメッセージを開発する。場合によってはコンテンツを作ることもある。こうして作ったメッセージを、ターゲットに沿って配置する。配置の結果としてメディアプランが出来上がる。そして、これらの効果を適切に評価するモノサシとしてのKPIも設定する。つまり、施策立案から結果評価まで、文字通り全てがスコープに入ってくる、ということだ。
当然、この全体像を描くためにはさまざまなスキルやノウハウが必要になる。代表的なものだけでも、事前に全体を設計できるマーケティング力、大量の情報からインサイトを読み解くデータ分析力、絵に描いた餅に終わらせないための媒体やアドテクの知識に裏打ちされたエクゼキューション力など。さまざまな領域の専門性が必要となってくる。

デジタルファーストによるキャンペーンの未来
このような広範なスキルやノウハウを駆使して設計することで、「認知だけ」でも「刈り取りだけ」でもない、ターゲットのココロを動かすソリューションに近付くことができる。
逆に言えば、ここまで細かく設計できるのは媒体としての側面だけではなくソリューションとしての側面も持つネット広告ならではのものだ。そうなってくると、プランニングも従来までのようなマス広告ありきではなく、まずデジタルから発想し、その後に全体の後押しとして必要があればマスをプランニングする、という順番になる。ターゲットファーストを徹底すれば、デジタルファーストになるのは自然なことだ。
これは真に広告の効果向上を目指してきたマーケターにとっては大きなチャンスだろう。きちんと根拠を持って効果を説明できるし、改善のための幅広い工夫の余地もある、真新しいキャンバスなのだから。

三谷壮平
株式会社電通デジタル
SVP, Data & Insight

(編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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