Barry Lustig
2017年8月03日

マーケターにとっての「サバイバルコード」

企業の競争力や成長力を高めるための通常の施策が、見直しを迫られている。その原因は何なのか。

マーケターにとっての「サバイバルコード」

年に1度催される日本版「ミニダボス会議」、ラウンドテーブル・ジャパン。7月、今年で13回目となる会議が東京で開かれ、日本の政・財・学術界の有識者たちを中心に「グローバル市場で日本はどのように競争力を発揮すべきか」という議論が活発に交わされた。

参加者ほぼ全員が一致したのは、「日本の持続可能な成長戦略のカギは国外にある」という意見。その理由はこれまで繰り返し唱えられてきたように、人口の減少や労働人口の高齢化、企業の老朽・硬直化、政財界にはびこるリスクを避ける慣行などだ。

ある銀行の日本人幹部は、日本の競争力強化には日本人の英語力向上が欠かせないという主張に疑問を投げ、「人工知能(AI)による翻訳機能が近年のうちに劇的な進化を遂げ、その意見を覆すでしょう」と述べた(因みに同氏の英語は非の打ちどころがなかった)。もちろん英語力があれば有利に違いないが、翻訳サービスの普及で語学力はさほど重要でなくなるというのだ。

更に同氏は、「国際的なコミュニケーションの共通言語がコーディングになるだろう」とも。我々はCやRuby、Javaといったコーディング言語の名を聞いたことはあっても、30歳以上でそれらに精通している人々は極めて少ない。競争を勝ち抜くため日本が多言語化するべきなのは疑いの余地がない。だが、英語が日本の若者にとって最も重要な言語という考え方は既に賞味期限切れのようだ。

これらの予測が少しでも正しいのなら、我々の業界にいくつかの重要な教訓を示唆してくれる。

まずエージェンシーは、ビッグデータの無限の可能性に懐疑的な幹部が、優秀なコーダーを管理できると考えてはならない。上司がコーディング言語をほとんど理解しないエージェンシーで、才能あるコーダーが腰を据えて働くとは思えない(仮に彼らを採用できれば、の話だが)。それに、海外の企業が彼らの採用に熱心になるだろう。彼らが話す言葉が英語でも日本語でも、さほど問題ではないからだ。

そして日本のほぼ全ての企業に、語学力が単に優れているという理由で社内のライバルたちよりも速く出世したリーダーたち(日本人でもそうでなくても)がいること。たとえ彼らが他の才能でライバルよりも劣っていたとしてもだ。日本では他国に比べ、語学力が知性の高さに、海外経験が見識の広さに結びつくと信じられていることが多い。これは重要なポイントで、多くの日本企業では見えない障壁になっている。多言語能力は尊重されるべきだが、リーダーシップを評価する際は、知力や仕事の才が日本語や英語の能力よりも優先されなければならない。

当日の議論では、日本の競争力に関して看過されたいくつか重要な点もある。

日本企業がどのようにコミュニケーションをとるべきか、ということは活発に議論が行われた。しかし何をコミュニケーションするべきか、というテーマはほとんど論じられなかった。企業が説得力と競争力を持った商品を提供できないのなら、コミュニケーション手段にそれほど意味はないだろう。

そしてもう1つ、東京と大阪以外の地方経済の活性化で成長を促すということだ。

国際市場での成功こそが成長への最も確かな道、という考え方は多くの日本企業、特に中小企業にとって正論ではない。もちろん、福岡よりもロンドンやシンガポールに事務所を設立する方が聞こえはいい。だが、北海道よりも中国でビジネスを展開する方が投資利益率は高くなるのだろうか。多分、そうなのかもしれない。だが必ずしもそうとは限らないのだ。

日本の市場が著しく停滞、あるいは縮小しているという見方は、何より日本企業の国内投資への消極的姿勢と絡み合った自己達成的予言が原因ではなかろうか。

グローバル市場での成長や英語力、海外経験が重要ではないと言っているわけではない。しかし、基本的な理をわきまえず慣行的な発想だけで将来の成長戦略を描くのであれば、成功を期待することはかなり難しいだろう。

(文:バリー・ラスティグ 翻訳:山口理沙 編集:水野龍哉)

バリー・ラスティグは、東京を拠点とするビジネス・クリエイティブ戦略コンサルティング会社「コーモラント・グループ」のマネージング・パートナーです。

提供:
Campaign Japan

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