David Blecken
2017年5月25日

「創造的破壊」と「学び」 R/GAが日本で始動

インタラクティブエージェンシー「R/GA」が、遂に東京進出を果たした。日本での学びを他市場に活用し、従来のノウハウのグレードアップも図る。

筈井昌美(左)、ジム・モファットの両氏。
筈井昌美(左)、ジム・モファットの両氏。

ニューヨークを拠点とするR/GAが東京にオフィスを開設するまでには、長い準備期間を要した。Campaignが同社の「日本進出への意欲」を記事にしたのは昨年6月のこと。この度、東京オフィス代表には楽天グループでモバイル戦略チームのヘッドを務めた筈井昌美氏が就任した。

R/GAのアジア太平洋地域担当エグゼクティブ・バイスプレジデントであるジム・モファット氏は、都内でのインタビューでこう語った。「国際的なマーケティングコンサルタント企業が日本に進出する際は、国内大手広告代理店と正式契約するのが常です。でも我が社はその手の契約を一切結んでいません。既に多くの日本企業とは良好な関係を築いていますが、正式なパートナーシップを結ぶ予定もありません。逆に良いお話があれば、どことでもカジュアルなパートナーになるつもりです」。

同氏は具体名を明かさなかったが、東京オフィスを設置するよう要請してきたのは「世界的規模の重要なクライアント」だという。察するに、そのクライアントとはグーグルだろう。R/GAは既にアパレルやスキンケア、小売、建設などの分野で日本企業と関係を構築しており、今後はデジタルトランスフォメーションや製品・サービス開発、コミュニケーションといった分野でクライアントをサポートしていく。

同氏によれば、現在の東京オフィスは約15人体制。筈井氏のほか、電通と電通イージス・ネットワークでエグゼクティブ・クリエイティブディレクターを務めた杉友ジョージ壮氏、電通やネイキッド・コミュニケーションズでエグゼクティブ・ストラテジーディレクターだった鈴木洋介氏、更にプロダクションやテクノロジー部門のリーダーとしてジョン・ヒングストン、富永久美、アンソニー・ベイカーの各氏をニューヨークとロンドンから呼び寄せた。

R/GA創業者のボブ・グリーンバーグ氏は東京オフィス設立のプレスリリースの中で、「日本はデザインとテクノロジーの発信地で、R/GAにとって長年待ち望んだロケーション。様々なメソッドを学び、更に進化していける理想的な場です」と述べ、かつ「独自のイノベーションモデルを提供していきたい」と抱負を語っている。

モファット氏も今回の進出は「日本に学び、自分たちが成長する」ためであり、「業界に批判的な姿勢でのぞむつもりは一切ない」と言う。だが同時に、「日本のマーケティングの進化は米国や西欧諸国に比べて速度が遅い」とも。多くの日本人が新たな可能性に目を向けているにもかかわらず、いまだ有料の従来型メディアが中心で、そこへ「イノベーションと創造的破壊をもたらすことで我々のチャンスにしたい」。筈井氏の経歴が様々な企業のCEOやCTO(最高技術責任者)と率直なコミュニケーションを図るのに役立つはず、とも。

左より、アンソニー・ベイカー、ジョン・ヒングストン、杉友ジョージ壮、鈴木洋介、富永久美の各氏。


その意味で、クリエイティブなテクノロジーサービスを積極的に推し進めるアクセンチュア インタラクティブやデロイトデジタルなどがR/GAの競合相手になるだろう。「戦略的には従来のコンサルティング企業と競合になりますが、デザイン面ではIDEO(アイディオ)のような企業が競合相手と言えるかもしれません」とモファット氏。

アップル在籍中に日本でiPhoneの立ち上げに関わった筈井氏は、日本市場の消費者と他国市場、例えば米国の消費者などとの間に「大きな差異はない」と言う。他国の企業同様、楽天のような日本企業も「ビジネスモデルの転換と新しいテクノロジーに追いつくことに四苦八苦しています」。往々にして企業の経営者は収益の悪化を恐れ、チャットボット(Chatbot)のような新しいテクノロジーやプラットフォームの導入に及び腰だ。こうした経営者たちの思考を切り替えることも、R/GAが取り組まねばならない課題の1つ。そのためには早急にプロトタイプを開発し、「リスクなしで新たな手法が試せることを実証し、クラインアントの信頼を得ることが大切です」とモファット氏。

筈井氏は楽天時代にコラボレーションするスタートアップ企業の発掘も手がけており、R/GAでもその役割を担っていきそうだ。「(日本では)多くの企業がスタートアップと協働することに関心を示していますので」(筈井氏)。同社は2014年、スタートアップと大手企業をつなぐ「ベンチャーズ(Ventures)」を設立した。この試みが日本で効率よく機能するには、「コラボレーションによって確実に利益が得られるスキームを、企業に提示していく必要があります」と筈井氏。

「我が社は日本の伝統を壊すつもりはなく、日本企業の良い面をさらに上のステージに押し上げていきたいのです」と同氏。「企業と社会のエネルギーをより活性化していきたいと考えています」。

デザイン中心のテクノロジーエージェンシーとして日本市場に参入したR/GA。当面のクライアントは大手企業1社ながら、その前途は明るいという見方がもっぱらだ。M&Aに関するコンサルティングを専門とする「ユーロテクノロジー・ジャパン」の創業者であるファーソル・ゲルハルトCEOは、「R/GAはデザイン分野で市場の隙間を埋められるのでは」と言う。「日本のデザインのポテンシャルは大きいのですが、日本企業の多くはまだそれを正当に評価していません」。

「確かにR/GAは、日本から学ぶ多くのことをグローバルに応用できるでしょう」と同氏。と同時に、日本で信頼と評価を築くには時間がかかることも指摘する。更に、「日本への理解を深めるために、お金や時間などを十分投資することも重要」とも。「多くの外資系企業が失敗する理由は2つあります。1つは必要な投資を怠ること、もう1つは市場からかけ離れたKPI(重要業績評価指標)を設定してしまうことです」。

(文:デイビッド・ブレッケン  翻訳:高野みどり  編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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