Misaki Tsuchiyama
2017年2月15日

広告制作に携わるワーキングマザーの生の声

広告制作はまだワーキングマザーにとって働きやすい環境とはいえない。現場で奮闘するワーキングマザーの本音と未来が討論された。

広告制作に携わるワーキングマザーの生の声

日本アド・コンテンツ制作協会(JAC)が主催する「女性Pr・PM応援ディスカッション~がんばれ、ママP!~」が2 月9日に開催された。「女性の働きやすい労働環境とワーキングマザー」をテーマにしたディスカッションをJACが主催するのは、今回が初めて。

会員社の女性社員限定で行われたイベントには、現役ワーキングマザーであるプロデューサー(Pr)とプロジェクトマネージャー(PM)で構成されるパネリスト5名とMC、そして50名の参加者(約半分がワーキングマザー、半分が独身女性)が集まった。

現在、JAC加盟社の映像制作部門における女性の数は約650名で、10年前に比べて約2倍以上である。今回のイベントは、制作現場で奮闘するワーキングマザーの生の声を共有する貴重な機会となった。討論されたトピックを以下にまとめる。

「出産から介護まで女性は逃れられない」が、働き方は確立していない

会社も女性が長く働ける環境を提供していきたい。しかし、残念ながら日本では子育ても介護もまだ「女性だけ」の問題であり、本人がいかにそれらを「うまく」こなしながら働くか、というのが社会の捉え方である。働く女性は、出産や介護という新たな人生の出来事に遭遇するたび、会社や社会に挑まねばならず、働く道を開拓するだけでパワーを消費してしまう。制作現場は長く男性社会であり、かつ撮影や編集では不規則な勤務時間が当たり前なので、なかなか一般企業で働くワーキングマザーの勤務スタイルを導入しにくい。2017年の今も、パネリストと参加者の多くは、産後の職場復帰は自身が制作部内初であったと語る。そのため、確立されたサポートシステムは存在しておらず、会社と調整を繰り返しながら、後進のための道と自身のサポートシステムを自ら切り開いていく立場であったという現実を共有し、一同は深く頷いていた。

システマチックなサポートは現場から求められていない

もともと9時5時の枠に捉われない制作という職種に、オフィス職の職場復帰システムをあてがっても、実質的なサポートにはならない。PMであるパネリストは、復帰に向けて人事から時短勤務と給与についてシステマチックに説明された際に、漠然と不安を感じたという。システム通りにいかない育児と制作、その両方に携わる女性の復帰には、周りの理解とフレキシブルなサポートが何よりも必要とされている。逆に言えば、時間に拘束されず、アウトプットのクオリティーが重視される仕事であるからこそ、ワーキングマザーの良い前例をつくれる可能性があるという声もあった。もともと、Prとディレクター職は会社に所属しながらも「個人商店」であり、やり方も人それぞれ。そのため会社は、職場復帰の際に画一的なルールを掲示するよりも、会社としてどこまで柔軟に対応できるかを提案しながら、個人の状況に合わせて話し合いを持つことが望まれている。

ママは香盤表を毎日まわしている人材

育児を経験したことでマルチタスクになれたと語るPrのパネリストは、働くママは香盤表(撮影現場で使われる制作スケジュールを細かく記した表)を、毎日自分の頭の中でまわしている人材であり、そのスキルを実際の現場で活用しないのはもったいないと語る。また、「自分の時間が欲しい」という人が男女問わず社会全体で増えているが、「自分の時間は自分でつくるものだ」という意見がパネリスト達からは多く聞かれ、効率的な時間の使い方がワーキングマザーの身に染み付いていることを実感させた。働く女性が編み出した時間術を、現代の働き方に悩む日本社会全体が取り入れていけば、有意義な会議の進め方など時間の使い方の見直しにつながるというアイデアには、説得力があった。

育休中の穴を埋めるスタッフにも人事的な配慮を

女性社員の数は増加しているが、結婚・出産後にさまざまな事情で退職する女性が多いのも事実である。そのため現場では慢性的に、数年の経験を積んだ女性Pr・PMの人手が足りない状況である場合が多い。社員が育児休業を取得する際に、育休社員分の穴を埋める人事が迅速に行わなければ、結果的に部内の同僚に負担をかけるということも残念ながら起こっている。女性が育休を気兼ねなく取得でき、残る者も負担の犠牲にならず育休を快く送り出すことができる労働環境の整備が、会社には必要とされている。女性が制作するものが求められている世の中において、まだまだ改革が必要な労働環境とのジレンマを感じた。

ぜひマネジメント層に聞いてほしい女性の本音

忌憚のない意見交換をしてほしいという願いから、今回は女性参加者のみのイベントであった。しかし会場やパネリストからは、女性の生の声と要望を感じ取ってもらえる絶好の機会だとして、男性マネジメント層の参加を望む声が聞かれた。

イベント終了後の懇親会では、「業界内にこんなにもワーキングマザーの先輩がいたのかと勇気付けられた」、「他の人がどうしているのかという話を聞けて嬉しい」といった声が多く聞かれた。今回の取り組みをきっかけに、制作業界で働く女性が意見を共有できる横のつながりを広げる活動が、継続的に行われることを強く期待する。女性が出産後も制作の仕事を続けられる土壌が育てば、経験のある人材の流出を防ぎ、会社や女性、さらには業界全体にとって働きやすい環境にシフトする力になるだろう。

最後に、パネリストからの「子どもは毎日をビビッドにしてくれる存在。迷っているなら産んだらいい」というメッセージで、このレポートを締めくくりたい。

(文:土山美咲 編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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