David Blecken
2017年7月20日

明暗が交錯する、日本のプログラマティックバイイング

7月11日、Campaignが「ザ・トレード・デスク(The Trade Desk)」社と共催した「プログラマティックバイイング・サミット」。当日のディスカッションから、6つの要点をご紹介する。

ジェフ・グリーン氏
ジェフ・グリーン氏

日本はプログラマティックバイイング市場において、世界最大のプレイヤーとなる(ただし、マーケターの理解が必要)
ザ・トレード・デスク共同設立者のジェフ・グリーンCEOは、「100%のプログラマティック化を世界で初めて果たす市場は、アジア太平洋地域だろう」と語った。更に、「日本に新たなマーケティング技術が導入されるのは通常、米国市場の2〜3年後だが、プログラマティックバイイングに関しては10年後に米国を抜いて先進国になる」とも予測。市場調査会社「eマーケター」によると、リアルタイム入札(RTB)のデジタルディスプレイ広告支出は2013年にわずか1000万米ドルだったのが、2016年には11億米ドルにまで達したという。一方、マーケターの理解も欠かせない。Campaignが司会を務めたパネルディスカッションで、ユニリーバ・ジャパンの山縣亜己メディアディレクターは、「プログラマティックバイイングはコストや人的リソースの面で多大な投資が必要ですが、見返りが小さいことがしばしば」と言及。日本市場でプログラマティックバイイングが成長を果たす前に、「一度減退するだろう」と述べた。

広告主の予算は、依然として無駄に使われている
グリーン氏は、「将来の広告量は今より減り、料金も高くなるが、内容はより適切なものになる」と予測。更に、「広告が消費者にとって鬱陶しいものでなくなるかどうかが、特に重要なポイント」と語った。だが、そうなるのはまだ当面先のようだ。現在主流のモデルは、消費者の行動を妨害したり、リターゲィング広告が絶え間なく表示されたりするもの。これらは逆効果で、「ブランドは依然として、消費者に嫌われるために何十億ドルもの予算を使っている」。また、「広告主はサード・パーティ・データを十分に活用できていない」とも。「私たちがより良い発信をしていくためには、データ活用という道しかないのです」。

ラストクリック、ラストビューアトリビューション・モデルの重複
グリーン氏が「深刻な問題」と指摘したのは、広告主のメディアバイイングに対する考え方。「複数のチャンネルが互いに及ぼす影響を考慮せず、単体のチャンネルだけを見ている。こうした考え方のブランドは、やがて衰退していくだろう」。マインドシェア・ジャパンのヘッド・オブ・デジタルを務めるショーン・フィン氏も、別のディスカッションで同意見を述べた。「ラストクリックアトリビューション・モデルは全体像を捉えておらず、極めてお粗末な測定法です」。

ビューアビリティが全てのソリューションではない
インテグラル・アド・サイエンス・ジャパンの藤中太郎マネージングディレクターは、「ビューアビリティだけに基づいてメディアバイイングを最適化してしまうと、アルゴリズムによって安価なインベントリに誘導されてしまう。その結果、不適切で望ましくないコンテンツに表示され、ブランドリスクが倍増する」と語った。博報堂の清水康隆氏は、「リーチを目標にして、プレミアムコンテンツでの表示を重要視するべき。プライベートマーケットプレイス(PMP)は照準を絞った広告配信ができるので、広告主にとって最適のソリューションでしょう」と述べた。

プログラマティックバイイングは、日本でもテレビに多大な影響を及ぼす
グリーン氏はAT&Tによるタイム・ワーナーの買収劇を例に挙げ、テレビが大きく変化する可能性を示唆した。「テレビ広告がオンラインでアドレス可能になることが大きなカギ」。更に、ネットフリックスは今後の事業拡大のために「広告収益モデルを導入するだろう」と予測。「例えばインドネシアのような国は、有料の視聴契約ができない消費者を多く抱えている。こうした市場で成功を収めるには、広告収益モデルを模索するしかありません」。

プログラマティックバイイングは、まず簡素化が必要
ザ・トレード・デスクのアジア太平洋担当シニア・バイスプレジデント、マット・ハーティー氏が司会を務めた「ブランドの安全性」に関するパネルディスカッションでは、「非常に多くのマーケター、そしてエージェンシーのスタッフでさえもプログラマティックをまったく理解していない」とパネリストたちが口を揃えた。「プログラマティックメディアバイイングは広告主がもっとコントロールするべき」という意見があるが、少なくとも今の時点で非現実的なのはこうした背景があるからだ。「メディアバイイングのシステムとして、プログラマティックは完全に自動化されるべき」という見方も、正しくないだろう。フィン氏はこれを飛行機の操縦に例え、「離着陸の際は人の判断が最も重要」と語った。藤中氏は、プログラマティックバイイングを効果的に管理するには、「新たなスキルを学ぶより、常に懐疑的な姿勢であらゆるプロセスを吟味することが重要」と述べた。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:山口 理沙 編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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