Paul M Rand
2017年3月15日

炎上商法はブランドにとって得策か?

善しにつけ悪しきにつけ、私たちはインターネット・トロール(ネット上で誹謗中傷する「荒らし」行為)の時代に生きている。その中でブランドはどう振る舞えば良いのか。特に激しい「炎上」騒動がよく起こる米国の視点から見ていく。

炎上商法はブランドにとって得策か?

トランプ大統領はその政策よりも、立て続けに過激なツイートをすることで有名だが、これがトローリング(ネット炎上)を煽るのに一役買っていることは間違いない。トランプ大統領の発言は、人々のけんか腰な反論を誘発し、決着のつかない泥沼の論争に陥ることもしばしばだ。

そもそも、トローリングとは何なのか? オンライン辞書サイト「アーバンディクショナリー」の定義によれば、「匿名性の高いインターネット上で、他人を攻撃したり不快にさせること」とある。

トロールの種類も増えている。強い敵対感情をむき出しにしたものから、今までにない生意気な一面を見せることで消費者にブランドを印象付けようという類のものまで、実にさまざまだ。さらには、新任の大統領がトローリングをコミュニケーション手段として大いに活用していることも手伝って、ネット上では節度をわきまえない攻撃的な言葉のぶつけ合いが増えている。こうした状況下で、従来は落ち着いたイメージだったブランドまでもが、こぞってトローリング合戦に参加しなくてはと考えている。

トローリングが、少なくとも短期的には顕著な成果があったと考えるブランドもあるようだ。不品行な言動をメディアが好んで取り上げるため、ブランドがソーシャルメディア上で強烈なキャラクターを演じて「バズる」価値のある話題を提供することで、ソーシャルメディア上での存在感を増すことができるのだ。気の利いた軽口や激しいやりとりは目立つし、記憶にも残りやすい。

また、トローリングを活用することで低予算でのマーケティングが実現できることに気付いたブランドもある。競合他社が巨額の広告費をかけたテレビCMをネット上で中傷すれば、対抗してテレビCM枠を買うよりもはるかに安上がりというわけだ。

例えば通信大手のベライゾンは、2月のスーパーボウル期間中の広告を避け、競合であるT-モバイルのキャンペーンを批判。サービスを無制限に利用できることを訴求した「#UnlimitedMoves」キャンペーンに対抗し、「T-モバイルが見られたくない unlimited moves」という一連のツイートを流したのだ。両社間を飛び交うツイートは辛辣さと攻撃性がエスカレートし、ついにはT-モバイルのCEOジョン・レジア氏が介入。自身のツイッターアカウントに、「ベライゾンの嫉妬メーター」の針が最大値を指している画像を、「ベライゾン諸君、落ち着きたまえ。もうメーターが振り切れちゃっているよ」というコメントと共に投稿した。

予期せぬ顛末

確かにトローリングは、ブランドへの親しみやすさや、格好よく時流に乗った雰囲気を作り出すための面白い方法かもしれない。しかし、失敗した時のリスクは計り知れない。そして、どこかで必ずつまずくものなのだ。

ファストフード・チェーンの「ウェンディーズ」は最近、一連の皮肉っぽいツイートやトローリングが奏功して、ツイッター上で人気のブランドになった。同社は非常に多くの注目を集め、特に批判を受けた際の同社の反論などは、ほとんどの人々が好意的に捉えていた。ところが、虎視眈々とチャンスを狙っていたトロールたちに、あえなく揚げ足を取られてしまう。ウェンディーズは、オルタナ右翼(ネットを活用する新しい右翼運動)のシンボルとなった「カエルのペペ」のミームを、そうとは知らずに投稿してしまったのだ。ネット上では瞬く間に、全方位から集中砲火が浴びせられ、同社は問題の画像をものの15分で削除した。

リスクは他にも潜んでいる。ひとたび顧客や競合他社とけんか腰に接してしまえば、相手からも同じ態度を取られる可能性が高くなる。ブランドが(政治にせよ何にせよ)意思を表明すれば、少なくとも一部のブランド離れは起きるだろう。さらには、(消費者と競合他社の双方からの)訴訟リスクも当然のことながら高くなり、莫大な請求をされ、ソーシャルメディア上でも激しく叩かれることが想定される。

トローリングを始める以上は、常にクリエイティブで、抜け目なく、賢く立ち回る必要がある。下手な受け答えをすれば、誰も取り合ってくれないだろう。そして何より、トローリングに着手する前に慎重に考え抜かなければならない最大の理由は、いったんブランドから攻撃的なメッセージを発信してしまうと、引き返す選択肢がないという点だ。トローリングをするには、相応の覚悟がいるのだ。

ライターであり社会活動家のリンディー・ウェスト氏は最近、英紙ガーディアンに、「ツイッターはもうやめた。トロール、ボット、独裁者の道具でしかないから」という見出しの記事を投稿した。

私はブランドに、ツイッターの利用をやめることを勧めているのではない(デジタルマーケティングの世界では、ツイッターから撤収する動きが加速しているようだが)。私が伝えたいのは、ツイッター上でトローリングをすれば流行に乗っているように見えるかもしれないが、果たしてそれで良いのか、じっくり考えてほしいということだ。もしトローリングに打って出るならば、どこでどうつまずくか、考え得る限りの事態を洗い出し、ブランド価値を損ねない対策をしっかりと準備してほしい。対策の出番は、間違いなく訪れるのだから。

(文:ポール・M・ランド 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)

ポール・M・ランド氏は、ゾカロ・グループのプレジデント兼CEO。ゾカロ・グループは、デジタル体験をデザインするエージェンシー「クリティカル・マス」の傘下。

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