David Blecken
2016年7月15日

「生活を豊かにするテクノロジー」 ~ 岩村水樹(グーグル)

マーケティング界では「グーグル」という存在はあまりにも大きく、身近だ。ともすれば、グーグル自体がブランドであることを忘れがちになってしまう。「日本のクリエイティビティーを語る」、シリーズの最終回は、グーグルを「日本最強」のブランドとして維持する同社の岩村水樹(みき)氏に話を聞く。

岩村水樹氏
岩村水樹氏

現在、グーグル日本法人の専務執行役員CMO、アジア太平洋地域マネージングディレクターを務める岩村水樹氏。
東京大学を卒業し、スタンフォード大学でMBAを取得、その後は電通やラグジュアリーブランド「リシュモン」でキャリアを積み、約10年前グーグルに入社した。

同氏は二つの目標を掲げている。一つは、グーグルのテクノロジーを一般の人々により親しみやすく、魅力的なものにすること。二つ目は、グーグルのテクノロジーを活用したブランド構築がいかに有効であるかを、大小問わず、あらゆる企業のマーケターに納得してもらうことだ。

グーグルの看板を背負う同氏の担う仕事には、進取性や公共性、ときに社会的変革を促すような側面をもったものが多い。
最近手がけたプロジェクトの一つが、「Women Will(ウーマンウィル)」。テクノロジーを活用した柔軟な働き方で、女性の社会進出を支援していくプロジェクトだ。日本では出産を機に仕事をやめてしまう女性が60%を超える。女性を「がんばらせる」のではなく、「賢く働ける」ようにして、この率を下げていくことを目指す。このプロジェクトから派生したキャンペーンが「#HappyBacktoWork(ハッピーバックトゥワーク)」で、昨年から今年にかけ、700を超える企業や団体が支持を表明し、子育てをしながら働く女性を支援する製品やサービスの提供を行っている。

マーケターとして日本でグーグルをブランディングするため、どのようなクリエイティブ・アプローチをしていますか?

消費者との強い絆を作るには、製品そのものが素晴しいだけでは不十分で、その製品を使う「体験」が素晴しいものでなくてはなりません。私たちの製品はテクノロジー主体なので、ユーザーの立場で考えるところから始まり、すべてをユーザーの感覚と結びつけるようにしています。そうすることで、「グーグルの製品は生活を豊かにしてくれる」と肌で実感してもらえるからです。
ですから、有名人を使ってただ注目を集めるような手法ではなく、常にユーザーの「ストーリー」から展開するようなアプローチを行います。至って正当的手法です。
グーグルはテクノロジーの会社ですが、そのベースには「人々の生活をテクノロジーの力で良くしていきたい」という信念があります。それを伝えることが重要なので、私たちのストーリーには必ずこの哲学を盛り込みます。

日本ではグーグルのブランディング活動がオフラインで多く見られます。これはなぜでしょう?

私が9年前にグーグルに入社したときは、まだブランディングがしっかりしていませんでした。ですから、まずグーグルを人々の生活の一部に溶け込ませようと、動画やテレビでグーグルのストーリーを伝え始めました。テレビを使って「検索キャンペーン」を行ったのは、世界でも日本が初めてです。
アメリカのようなマーケットと比較すると日本は歩いて移動する人が多いので、そうした人々を対象にした屋外での広告も重要性を帯びてきます。実際は予算の大部分をデジタルが占め、そのデジタルの大部分はモバイルですが。

広告代理店とはどのように仕事をしていますか?

私たちは広告代理店を「業者」ではなく、「パートナー」と呼んでいます。この呼び方に、グーグルと代理店の関係性が表れていると思います。代理店にはユーザー制作のビデオにも関わってもらいますし、グーグルのチームとともにアイデアを出す重要な役割も担ってもらっています。目標を共有し、四半期ごとに振り返り、達成度について議論も戦わします。創造的な仕事をするならば、ブリーフィングをして企画書が出てくるのを待つようなやり方はうまくいきません。
私たちが実践していることの一つに、「ブランド・ハッキング」があります。代理店とグーグルのチームが2~3日の間じっくりと膝を突き合わせて、一緒にコンセプトづくりとプロトタイプ制作を行うのです。私たちはいつも、デジタルやテレビ、屋外広告といったあらゆる媒体をカバーする「大きなアイデア」を求めています。だから「ブランド・チーム」として力を十分発揮してもらえるよう、この手法を編み出しました。ここから最近生まれたのが、ニューイヤー・キャンペーンです。ユーザーに新年の抱負を語ってもらい、グーグルが返礼をする際には、どうやって彼らをサポートできるかを伝達しました。
また、私たちは「イノベーション予算」を用意しています。多くのキャンペーンが同時進行すると、どうしても同じようなことを繰り返しがちになる。イノベーション予算があれば、自由にクレイジーなことができます。例えば、大量のアンドロイド・デバイスを並べた「アンドロイド合唱団」。これは日本発で、グローバルに展開されました。代理店には、グーグルとの仕事はいつもエキサイティングだという認識でいてもらいたいのです。

ご自分のクリエイティブワークはどのように評価するのですか?

人々がオンライン上で話していることから、クリエイティブがどのように機能しているかを常に察知することができます。ある部分がうまく行っているとわかれば、そこにもっと予算を投入します。広告キャンペーンの際にデジタルを駆使すると、パフォーマンスはぐっと高まりますね。私たちはシングルソースパネルも活用して、クリエイティブの露出度と消費者行動の変化を同時に追っています。
良いクリエイティブは常に結果をともなわなければなりません。一瞬だけ人目を引くような、奇をてらったものは必要ないのです。

普段はどのようなところからインスピレーションを見つけていますか?

クリエイティブなコンテンツという点では、最近のユーチューバーに注目しています。グーグルにいるエンジニアたちも、インスピレーションの宝庫なんですよ。彼らにマーケティングの課題を相談すると、全く異なる観点からユニークな意見を出してくれる。とても貴重な人材です。

今年(2016年)の日本におけるクリエイティビティーの動きを、どのようにご覧になりますか?

日本にはほんとうにたくさんのクリエイティブな力があるので、個人的にはそれらを出来るだけ世界に紹介したいと思っています。その多くはまだテレビの世界で発揮されていますが、変化も出始めています。テレビの人気が落ちているとは思いませんが、人々はよりモバイルに時間を費やすようになりました。ですから日本が、もっとモバイルの世界をリードするようになってほしい。モバイルにおけるクリエイティビティーや、オンラインとオフラインの間を繋ぐわずかな時間を捉えるようなクリエイティビティーがより活性化してほしいと思います。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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