あなたがこの文を読み終わる頃には、もう我々は次の「5秒CM」を発表しているだろう。
5秒CMというコンセプトは、我々が生み出したものではない。だがこの一瞬のメッセージは、広告の世界における次世代のストーリーテリングのかたちである。ツイッターでのつぶやき、バインやスナップチャットなどの投稿に象徴されるように、アテンション・スパン(集中力の持続時間)が短くなった今の時代においては、なおさらだ。常に時間に追われる環境にある視聴者にメッセージを伝えるため、知名度の高いブランドですら徹底的に圧縮されたフォーマットを使い始めている。
ゆえに我々も今年前半、ペプシのキャンペーンで同じことをやったに過ぎない。ソーシャルメディアやウェブサイトでの配信と違い、テレビCMでの5秒枠というのは初めての試みだったが。テレビを前提としたメディア予算で5秒CMに取り組んでいけば、状況は一変するに違いない。
では、頭に焼き付くような数秒間の広告の条件とは何か、少し考えてみたい。
語らず、見せる。 従来のコメディに用いられるストーリーテリングのテクニック - 設定、アクション、リアクション、結末といった構成で時間を無駄にするのはご法度だ。3幕ものの舞台ではないのだから。むしろ「ニューヨーカー」の1コマ漫画の方が好ましいスタイルだろう。カギは、「凝縮」することにある。
視聴者を信じる。 見てくれる人の想像力を信じよう。ストーリー全体を説明する必要などないのだ。視聴者は自分でストーリーを組み立てられる能力があるのだから。
プロダクトをアピールする。 プロダクトの名を堂々と謳い、画面の中央前部にどんと据えて見せる。30秒CMで、27秒過ぎまでブランド名を一切出さないものがたくさんある。我々が手がけたペプシの絵文字キャンペーンでは、4秒でジョークを完結させ、最後の1秒はボトルを開けたときの「プシュッ!」という爽快な効果音で締め括った。プロダクトは、制作した120種類の映像全てに登場している。
「本物」を作る。 CMにブランドを連動させ、覚えやすく分かりやすい一貫したメッセージを発信する。プロダクトは、意外性があって面白い扱い方をするべきだ。放っておいてもシェアされるようなCMにし、ブランドのプロモーションのために雇うオンライン・インフルエンサーのフォロワーを、存分に活用する。視聴者に一歩踏み込んだ行動を期待するならば、エンターテインメント性が高い「本物」の作品に仕上げなければならない。
感情をこめる。 感情を前面に押し出すこと。感情は「売り」になる。冗談めかすもよし、「尖った」ものにするもよし、自分の気持ちを正直に出すのもよし。但し、「前向き」でなければならない。視聴者は、感情がストレートに表現されたコンテンツはつい見入ってしまうものだ。スキップしたり、チャンネルを変えたり、画面を消したりということはなかなかしにくい。最近読んだあるレポートでは、8秒以内に何らかの感情が示されなければ、人々はそれから先を見ようとしないとあった。悲しいかな、我々のアテンション・スパン(集中力の持続時間)は金魚より短くなってしまったのだ。
クリエイターの方々には、最後にもう1つのヒントを。クライアントに、「同志」になってもらうことだ。「信頼してほしい」と言うのはやめて、信頼を築こう。クリエイティブの方向性に賛同を得、全てのプラットフォームで一貫したクオリティーを保つには、はじめのうちから関係者全員に仲間意識を植え付けることだ。我々はそのために、クライアントと過剰なほど「共有」をする。クリエイティブの発案から制作まで、全てのステップに関与してもらう。この絵文字キャンペーンも、そうしたプロセスを踏んだからこそ変更を最小限に抑え、ブランドのアイデアやクリエイティブのコンセプト、そして締め切りまでもきちんと守ることができたのだ。
(文 :ジョニー・セメラッド、キャリー・ガトヤン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)
ジョニー・セメラッド氏は、ニューヨークのハイブリッドなクリエイティブ・エージェンシー / プロダクション・スタジオである「クワイエットマン」のクリエイティブ・ディレクター。キャリー・ガトヤン氏も、同じくクワイエットマンのエグゼクティブ・プロデューサーを務める。