Anthony Baker
2018年1月11日

2018年、マーケティング界を占う7つの鍵

イノベーションがますます進む今、来年を展望するうえで重要な要素は何か。R/GAのグループ・テクノロジーディレクターが語る。

2018年、マーケティング界を占う7つの鍵

デジタル界が歩みを止めることは、決してない。その原動力は世界規模の「進化」だ。加速度を増すイノベーションの発展には、しばしば足元がおぼつかなく感じることすらある。アジアでは、過去10年で欧米が経験したよりも更に大きな変革が起きようとしている。スマートサービスやインテリジェント・インフラストラクチャー、自動化、コネクティビティ、そして物理的環境の融合などが、顧客エンゲージメントを急速に変えつつあるのだ。

アンソニー・ベーカー氏

消費者の動向も大きく変化しつつある。アテンションスパン(集中力の持続時間)は短くなり、コネクティビティは極めて高度化。タッチポイント(デジタル及び実質的な)も増えて、消費者の期待値はより高まっている。ブランドはより価値が高く、コンテクスト(文脈)がスマートでパーソナライズされたコンテンツ作りを求められている。そのためには消費者の人間性やモチベーション、心理などをより深く理解しなければならない。これまで以上のプレッシャーを受けているのだ。

2018年、テクノロジーは更なる進化を遂げようとしている。急速に拡張するデジタル界を展望するうえで、鍵となる要素は何か。以下、7つのポイントを挙げる。

会話型アシスタント
メッセージングプラットフォームは、既に世界5大陸で新たに「第2のホーム画面」となった。文章や音声、画像などでトランザクションのサポートを行うWeChat(微信)、Messenger、WhatsApp、LINE −− これらは誰もが理解でき、毎日どこでも利用できる単一のインターフェイスを生かした新たなOSだ。

当初、これらの会話型コマースはやや不備もあって、ブランドのプラットフォームとしてすぐに活用されることはなかった。だが結果的に、まったく新しいレベルのデータへのアクセスを可能にする大きなチャンスを切り開いた。ブランドは既存の顧客や潜在的顧客に対する理解を深めることができたのだ。この点で今まで成功したのは、ドミノ・ピザ(食品の注文とトラッキングシステム)やDoNotPay(法律相談の自動化)、セフォラ(コンサルティング)、そしてルイ・ヴィトン(高級感のPR)などだろう。

加えて、アマゾンエコーやグーグルホーム、そして日本のクローバといった音声アシスタント機能を持つスマートスピーカーが登場、会話型サービスの可能性を更に広げた。これらの新しいインタラクティブデバイスが提供するサービスは非常にスムーズで、ブランドはよりスマートかつパーソナルな体験を創出できるようになった。今後各ブランドは、自社のデジタルサービスを大胆に改革する必要があるだろう。テクノロジーに投資をして新たなエコシステムを最大限活用し、顧客との関係を築いていくべきなのだ。

よりエッジの効いたマイクロコンテンツ
小型化したカメラやSNSのフィード、高度なコネクティビティ、自らのストーリーテリング −− こうした要素が今やあらゆる人々をクリエイターにし、その作品はデジタルという巨大な海の中で自由にシェアされている。社会の急速な変化に応えるSNSが生み出したこの「オープンキャンバス」は、既存メディアやコンテンツからマイクロサイズのフォーマットへの移行を促進。瞬間を生き生きと切り取るプラットフォームやツール、テクノロジーはオーディエンスを理解したいと望むブランドに、この上なく素晴らしい機会を提供している。昔ながらの映画はこれからも素晴らしいストーリーを提供するだろうが、「SNSファースト(第1)」のモバイル文化の時代には、ブランドは人々の意識レベルや嗜好に合わせたコンテンツ作りに投資しなければならない。

デジタル改革
今の時代はコンテンツやコンテクストが明らかに重視される。消費者は自分にとって意味や価値のあるパーソナルなコンテンツをタイムリーに求める。ブランドはもはや、ブラックボックスのように中身の見えにくいソリューションに頼る必要などないのだ。デジタルの世界には統合が容易で柔軟性に富み、カスタマイズ可能なサービスが溢れている。これらを組み合わせれば、今までにない速さで多様なタッチポイントを生み出せ、極めて強力なデジタルサービスを構築できるのだ。

前時代のシステムでは、ブランドは時間とコストがかかる分厚いエンタープライズプラットフォームを作らざるを得なかった。だがそれはもう時代遅れだ。代わって、無駄が少なくデータ主導でクラウドベースのコンテンツ管理プラットフォームが、API主導のプラガブル(着脱自在)なサービスと共に利用され始めている。企業はより迅速に行動でき、クリエイティブやテクノロジー面で柔軟になり、義務やリスクを軽減させられるのだ。革新的な企業やスタートアップはテクノロジーをサービスの一環として捉え、クラウドベースで拡張性があり、安全な最新インテリジェントプラットフォームをブランドに提供していくだろう。

総合的な体験デザイン
デジタル界の進化に伴い、新たな消費者行動も生まれつつある。アジアでは総合的な体験デザインが大きなうねりになろうとしている。消費者が既存のメディアや携帯電話の画面から離れ、まったく新たな体験を通してコンテンツの消費やシェア、作成を行うのだ。これは実に刺激的と言える。体験デザインは間違いなく次の大きなステップで、ブランド体験や消費者行動でアジアを次のレベルに飛躍させるに違いない。

ブランドは刷新を続けるデジタルエコシステムを取り入れ、総合的体験を実現するプラットフォームに投資するべきだ。1つのチャネルでしか機能しないサイロ化した体験は、もはや意味がない。既存の放送メディアも同じことだ。総合的な体験デザインを生み出せる人材を即座に増員するか、さもなければ体験デザインの実績とシステマティックな思考を持つ企業とパートナーシップを結ぶ必要がある。そして無数のデジタルタッチポイントが存在する環境に順応し、価値ある体験を提供していかねばならない。

ブロックチェーンサービス
大げさに騒がれ、混乱しているように見える仮想通貨。だが分散型台帳とスマートコントラクト(契約の自動化)を実現するその根幹的技術は、新たなエコシステムの構築につながる。それは超分散型で、インターネットの働きを効果的に変えられる安全性の高いサービスを生む。ネット上の中立性を廃止する動きが強まり、ブロックチェーン・ベースのソリューションが台頭する今、ブランドはサービス・エコシステムに応用できる最も効果的な手法をこの技術から編み出すべきだろう。

第3のホーム画面
電気自動車が当たり前になり、自動運転車を街中で目にするようになった今、またしても新たな競争空間が生まれつつある。それは「第3のホーム画面」とも言える、車内エンターテイメントだ。今後、人々は車の中で映画や動画を楽しみ、ネットに接続したインタラクティブな活動を享受するようになるだろう。外出時にも大きな画面で快適な視聴ができるわけで、この新たな空間はブランドに様々な可能性をもたらす。いまだ未発達のこの分野は、先進的思考を持つブランドにとって新しいビジネスチャンスとなるはずだ。

小売改革
ハードウェアやセンサー、IoT、そしてソフトウェアの交点(デジタル及び物理的な)などを統合したコネクテッドスペース。この空間が小売業界に新たなトレンドをもたらしている。ショッピング体験はこれまでの取引や消費者サービスを基本としたものから、ストーリー性やシステムが格段に豊かなものに変わるだろう。将来的には、ブランドにとってインスピレーションとエンターテインメントを融合できる完璧な分野になる。既に「リテール」と「エンターテイメント」を合わせた「リテイルテインメント(Retailtainment)」という言葉も生まれている。流行語には盛衰があるが、リテイルテインメントは小売形態の進化を的確に反映した表現と言えるだろう。

2018年は目前だ。日本やアジア太平洋地域のデジタル界は十分に環境が整い、企業の新たなチャレンジには絶好のタイミングだろう。今こそ大胆かつ前向きになり、新世代のデジタルサービスを通じて価値の高い特別な体験を作り出す時だ。テクノロジーに投資をし、いち早く最先端企業を目指すべき時なのだ。

(文:アンソニー・ベーカー 翻訳・編集:水野龍哉)

アンソニー・ベーカー氏は、東京を拠点とするR/GAアジア太平洋地域担当のグループ・テクノロジーディレクターを務める。

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