Phil Rumbol
2017年5月17日

CMOを脅かす、「最高事業成長責任者」

コカ・コーラが、最高マーケティング責任者(CMO = Chief Marketing Officer)に取って代わる「最高事業成長責任者(CGO = Chief Growth Officer)」という役職を新設した。だがこれは決して好ましい動きではない、とある業界人は憂う。

CMOを脅かす、「最高事業成長責任者」

CGOや最高顧客責任者(CCO = Chief Customer Officer)といった役職は、CMOに対する侮辱と言っていいだろう。それらの役割は無意味なばかりか、マーケティングが機能していないこと、そして皮肉にもマーケティングの概念に関して社内で誤解があることを物語る。「事業成長」や「顧客」といった要素は、マーケティングと不可分なのだ。なぜ、敢えて分ける必要があるのだろうか。

マーケティング活動と損益責任が独立している大企業では、往々にしてこうした役職を設ける。多国籍企業におけるCMOの役割はベストプラクティスの推進や共有、広告活動の促進などだが、各地での業績は現場任せというケースが少なくない。だがこれでは、マーケティングと損益責任が乖離してしまう危険な事態を引き起こす。マーケティングは長期的発展のカギを握るはずなのに、その重要性が失われてしまうのだ。しかも注意を怠れば、マーケティングチームは事業成長という目標を忘れ、大量に余計な仕事ばかり生み出すことになりかねない。

こうした状況に陥るもう1つの要因は、「マーケティング効果の特定は得てして難しい」とマーケターが決めてかかることだ。マーケターはブランドの確立が何よりも重要と考えるので、次々とキャンペーンを打ち出して展開する。だが結局は、事業成長とブランド確立がごく自然に結び付いていることを立証できずに終わるのだ。

信じ難いことだが、ISBA(The Voice of British Advertisers)が2014年に行った調査で、長期にわたるマーケティング効果を証明するために「計量経済学を活用する」と答えた企業経営者が激減したことが分かった。そうなると、短期的売上げがマーケティングの成否を測る唯一の指標となり、いわばサッカー・プレミアリーグの監督同様、「次の試合結果」だけでCMOの力量が評価されてしまう。

こうした事態を避けるためにも、CMOは企業に強靭な成長体質を植え付ける必要がある。社員たちは広告制作やメディアバイイング、あるいはインターネット広告のインプレッション数を上げることに没頭するのではなく、事業成長に専心しなければならないのだ。即ち、顧客主導型の成長要因を正確に特定し、それを最大限に活用して、成長過程での精査を怠らないことが肝要になる。

成長体質強化のため、マーケターや広告代理店は総合的なアプローチでブランド確立を目指さなければならない。簡単に定義すると、マーケティングは「プロポジション」(商品・サービスの持つ価値や魅力を最大限に高めること)と「プロモーション」(それらをアピールし、消費者に購入を促すこと)の2つの要素から成る。だが私の経験から言えば、多くのマーケターはプロモーションにばかり注力し、プロポジションを軽視しがちだ。大抵の場合、核心となるプロポジションの競争力が落ちれば成長は止まってしまう。

マーケティング活動がプロモーションに偏る理由は幾つか挙げられる。クライアントと代理店の両者の立場にいた私は、ブランドが自社の商品やサービスをなかなか客観的に評価できないことを学んだ。

現代は消費者の嗜好の変化が速く、存在感の強いブランドでも瞬く間にその威光が衰えてしまう。従って、経営者は顧客のニーズの変化と商品・サービスのプロポジションに細心の注意を払い、改善策を講じ続けていくことが大切となる。

とは言っても、コア商品の全面的な見直しや改良には費用もかかり、時として組織の改編まで必要になる。広告キャンペーンや代理店を変える方がはるかに楽なのだ。その結果、マーケターは自分たちの守備範囲であるプロモーションの修正に明け暮れ、より本義的なプロポジションの見直しに取り組もうとしない。イングランドサッカー協会のマーティン・グレンCEOが、「ビジネスにおける全ての失敗は、本質的にマーケティングの失敗と同義」と述べているように、突き詰めれば全てCMOの責任となるのだ。

つまりCMOは、CGOやCCOに権限を奪われぬよう、顧客の声を反映させ(それが権限外の行為であったとしても)、事業成長を達成するため率先して全社的責任を取らねばならない。マーケティングは組織の1機能ではなく、組織全体を貫く規律であり、単なるコミュニケーション手段ではなく、ブランドを左右する発想と思考と捉え、組織全体を動かしていく気概を持つべきなのだ。

フィル・ランボル氏はロンドンの広告代理店「101」の共同創業者で、菓子・飲料メーカー「キャドバリー」でマーケティングディレクターを務めた。

(文:フィル・ランボル 翻訳:岡田藤郎 編集:水野龍哉)

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