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2018年9月21日

世界マーケティング短信:ヴァイス、アジアの広告ビジネスを拡大

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

ヴァーチューのアーロン・ピアース氏とアレックス・クー氏
ヴァーチューのアーロン・ピアース氏とアレックス・クー氏

ヴァイスのクリエイティブエージェンシー、アジアに3つのオフィスを開設

若者向けメディア「ヴァイス(Vice)」の一角を成すクリエイティブエージェンシー「ヴァーチュー(Virtue)」が、シンガポールとソウル、シドニーにアジアの拠点を設けた。これらの事務所はアジア太平洋全域でサービスを提供、スポーツ及びエンターテインメント専門エージェンシー「オクタゴン(Octagon)」に在籍していたアーロン・ピアース氏が率いていく。ヴァーチューが目指すのは、ブランドを若年層と結びつけること。「若者たちは、ブランドコンテンツに自分たちの好きな映画や音楽と同じテイストを求めている」とアーロン氏。ヴァーチューのアジア進出は、概して良い結果を生むだろう。各国の広告界は活性化され、ヴァイスのブランド力も業界関係者や消費者にアピールすると思われる。ただし確実に成功を収めるには、若き才能を引きつけるだけでなく、彼らに十分な報酬を支払うことだ。名のあるメディア企業は、往々にしてこの点で評判が悪い。

物議を醸したナイキ広告、その顛末は

人種差別への抗議の意を込め、国歌斉唱の際に片膝をついた米プロフットボールNFLのコリン・キャパニック選手。ナイキは彼を起用し、美しいほどシンプルでリスキーなキャンペーンを展開したが、トムソン・ロイターの調査によると、これにより同社の売上は60%以上増えたことが分かった。この調査は9月3日から13日までの売上と、この広告が展開される以前の10日間を比較したもの。議論の分かれるテーマでブランドが立場を明確にするのは、危険が伴う。だがそのテーマが自社のビジネスに直結し、核となる顧客の理念と合致しているならば、利益をもたらす −− Campaignは数週間前にこう意見したが、それが示されたかたちだ。

アルコールメーカー、SNSで「責任ある行動」を約束

今週、アサヒビールやビームサントリー、キリンなど11社のアルコール飲料メーカーが、成人だけを対象にソーシャルメディア上の広告を展開していくと誓約した。どうしたら未成年がアルコール飲料の広告に触れる機会が減るか、また広告を見る選択肢をどうしたらユーザーがもっと管理できるようになるか、今後研究していくという。酒類の消費量は確実に減少しており、アルコール飲料業界は課題に直面する。「責任ある行動」は1つの方策だが、正直に言って昨今の各ブランドの広告は型にはまったものばかりで、ほとんど退屈。飲酒できる年齢に達する若年層にアピールしたいのであれば、より創造性にあふれたアイデアを絞るべきだろう。

マスターカード、「リーグ・オブ・レジェンド」初のグローバルスポンサーに

マスターカードが今後3年間、世界最大のeスポーツをサポートしていくことになった。契約では、リーグ・オブ・レジェンドの年間グローバルトーナメント3戦分の独占的パートナーに。同社は契約期間を公表していないが、報道ではリーグ・オブ・レジェンド・チャンピオンシップ・シリーズのフランチャイズ権を1000万ドル(約11億円)で購入したという。地域レベルでは、メルセデスベンツやアディダス、ジレットといったスポンサーがいる。eスポーツがメジャーになったことは疑いの余地がない。だが、熱狂的なビデオゲームファンは「よそ者」に懐疑的だ。しかも極めて繊細で、動揺しやすい。大企業のスポンサーとしてマスターカードは慎重に振舞わねばならず、ある意味、通常のスポーツスポンサーシップよりも難しい点が多いだろう。

ドミノの「入れ墨キャンペーン」、予想外の展開に

ドミノのロゴを入れ墨にしたら、毎年100枚のピザを向こう100年にわたってプレゼント −− ロシアでこういうキャンペーンを行えばどんな騒ぎになるか、同社の認識は甘かったようだ。このプロモーションは数カ月続けられる予定だったが、開始から4日間で400人近い人々が殺到。ロシアの消費者がこうした馬鹿げた企画に喜んで参加することに驚嘆した同社は、応募期間を短縮した。


ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、この騒動の原因が「食料が乏しかった時代の記憶」と論評。だが多くのメディアはこの試み自体を「失敗」と見なす。それでもこれほどの騒ぎを引き起こした事実は、やはりドミノが「パブリシティーの達人」であることの証明だ。つまるところ、消費者に強い印象を与え、話題や記事になるような面白い企画を他のピザチェーンはどれだけやっているだろうか……。

今週の更なる出来事:

スタートトゥデイの前澤友作氏が、スペースX初の「搭乗券」を購入するという「革命的PR」をやってのけた。これまで日本以外では無名だった前澤氏と同ブランドは、このPRによって実に適切な時期 −− プライベートブランド「ゾゾ(Zozo)」を世界的なブランドにする戦略をスタートさせたばかり −− に世界的脚光を浴びることとなった。
 


航空関連のもう1つの話題は、キャセイパシフィック航空が運行する旅客機でロゴのスペルミスが見つかったこと。「Pacific」の「f」が抜けていたのだ。同社はソーシャルメディアでその写真を敢えて公開、自嘲的ツイートをすることで逆に賞賛を受けた。有名ブランドであっても、過ちは起こすもの。気まずい沈黙で傷口を広げるよりは、オープンにする方がはるかに良い結果を生むだろう。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

来週のニュースレターの発行は、お休みさせていただきます。

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