Elizabeth Wiredu
2023年6月08日

インフルエンサーマーケティングは「魔法と科学」:ユニリーバのダヴ担当幹部

PRWeekのInfluencer360カンファレンスで、インフルエンサーを活用するブランドは「魔法と科学」に焦点を当てる必要があると、ダヴの幹部が語った。

インフルエンサーマーケティングは「魔法と科学」:ユニリーバのダヴ担当幹部

PRWeek主催の「Influencer360」カンファレンスで、インフルエンサーマーケティングをテーマとするトークセッションが行われた。その中で、Dove(ダヴ)の外部コミュニケーションおよびサステナビリティ担当副社長(兼、ビューティー&ウェルビーイングPR、ユニリーバのインフルエンサーマーケティングリーダー)のフィルダウス・エル・ホンサリ氏(写真)は、「魔法」とは「人間関係」のことだと述べた。

同氏は次のように説明する。「魔法とは人と人との関わりのことであり、それは長期的な関係によって生まれるものです。それは人への投資であり、データからは説明できません。それは人との関係としてしか説明できないものなのです」

エル・ホンサリ氏は、「科学はデータ」だが、データだけではなく、人との強い関係性も必要なのだと説明した。「どちらか一方が欠けてもうまくいかないのです」

「もちろん科学は重要です。私たちは、どんなコンテンツがオーディエンスの共感を得られるか知っています。それは、長年にわたりデータを分析し、ブランドにとって何が効果的で何が効果的でないかを理解しているからです」

「どのようなインフルエンサーと組むべきなのか(中略)競合他社は何をしているのか、どんな原料を使っているのか(中略)、プラットフォームのことも理解しており、また、ファネルに対してどの程度のブランド投資が必要なのかも把握できています」

オーセンティシティ(真正性)が重要

エル・ホンサリ氏はセッションの中で、コンテンツは「真に本物」でなければならないと語った。それは、有料広告も同様であり、そのために、ブランドはインフルエンサーと信頼関係を築く必要があるという。

彼女は次のように補足する。「重要なのはコンテンツではありません(中略)重要なのは、コンテンツのオーセンティシティ(真正性)なのです」

「真正性と信頼は、一夜にして築けるものではありません」と、エル・ホンサリ氏は言う。彼女の考えでは、ブランドはソーシャルメディアでインフルエンサーをフォローするだけでは十分でなく、インフルエンサーのコミュニティを育成しなければならないのだという。つまり、時間をかけて緊密な関係を築き、インフルエンサーの「最も得意なこと」を学び、理解することが重要だということだ。

ブランドは、インフルエンサーと親密でオープンな関係を築くことで、コミュニティやトレンドにより素早く対応できるようになると、エル・ホンサリ氏は語る。さらに、インフルエンサーのコミュニティに「常時アクセス」していなければ、ブランドは機敏に対応できないと主張する。

「(それがなければ)不可能です。うまくワークしないでしょう」と同氏は言う。「例えば6カ月前、あるいは3カ月前なら計画を立てることができます。機敏な組織なら、1カ月前でもできるかもしれません。(中略)しかし、インフルエンサーと長期的な関係を構築し、信頼関係を醸成していなければ、24時間や72時間で、何らかの対応をするということは不可能です」

ブランドはまた、臨機応変に対応しつつ、オーディエンスの共感を得るためには「明確な視点」も必要だと、エル・ホンサリ氏は語った。

デジタル歪曲と戦う

英国南東部のブライトンで開催された、Influencer360イベントの一日限りのセッションに登壇したエル・ホンサリ氏は、ユニリーバおよびダヴのような同社ブランドが、過去20年以上にわたって、ステレオタイプに挑戦し、女性や少女の「完璧な美」の概念に関する「ナラティブ(物語)を変える」キャンペーンを行ってきたことを説明した。

同氏によると、パンデミックのあいだ、女性や少女たちがソーシャルメディアに費やす時間は増加していたという。また、コミュニティのリーダーによると、少女たちの80%が、13歳になる前に、ソーシャルメディアで共有する画像を修正し始めるのだという。 少女たちは、自分の画像を歪曲して投稿するインフルエンサーたちの真似をしているのだと、エル・ホンサリ氏は語る。

エル・ホンサリ氏によると、画像にフィルターをかけるソーシャルアプリに対する批判の声が、ダヴの「リバース・セルフィー」キャンペーンにつながったのだという。このキャンペーンは、デジタルでの歪曲に異議を唱え、メンタルヘルスへの悪影響に警鐘を鳴らすことを目的としたものだ。ダヴと長期的な関係を築いてきたインフルエンサーらが、ソーシャルメディア上のデジタル歪曲と戦いたいと、直接ブランド側に提案してきたのだという。

これらのアプリについて、エル・ホンサリ氏は次のようにコメントしている。「これらは加工の域を超えています。これをクリエイティブな遊びだと言うのには少々無理があります。人々はクリエイティブのためにフィルターを使っていて、確かにこれには、エキサイティングな点があります。しかし、ソーシャルアプリには遊びが欠けていて、単なるデジタル歪曲になっているのです」

その結果、ダヴは、「ブランド自身が、ブランドを語るのではなく、ブランドについて語るインフルエンサー」との協業を選んだのだと、エル・ホンサリ氏は説明した。

インフルエンサーとの協業

エル・ホンサリ氏は、インフルエンサーマーケティングは必ずしもイノベーションや新商品を「プッシュ」する場である必要はなく、「社会や文化に何が起こっているかを見たり聞いたり」する場であっても良い、と述べている。

ユニリーバのイノベーションをただ押しつけるのではなく、「インフルエンサーのコミュニティと共鳴する」ことが重要なのだと言う。

エル・ホンサリ氏は、ソーシャルメディア上の誤情報に対抗するためにインフルエンサーを起用した「シンプル」ブランドの迷信撲滅キャンペーンや、パンデミックの際に登場した「ヴァセリン」の「スラッギング」トレンドなどの事例を紹介した。スラッギングとは、ヴァセリンを顔に薄く塗る夜のスキンルーティンのことだ。

エル・ホンサリ氏は、このソーシャルトレンドについて言及し、特に英国、米国、カナダには「ヴァセリンへの根強い、自然発生的な愛着」があると語った。

ユニリーバは、既存コンテンツの再構成や全く新しいコンテンツを制作するのではなく、トレンドの中でこの「オーガニックな愛着」を生み出しているインフルエンサーにコンタクトを取り、そのインフルエンサーと協力し、そのオリジナルコンテンツを使った有料広告を制作し、訴求を図った。

「結果、より魅力的なコンテンツに仕上げることができたのです」とエル・ホンサリ氏は語る。「従来のブランドキャンペーンより、ROIの面でより良い結果を出すことができました」

ブランドは、単にインフルエンサーキャンペーンを実施するだけでなく、もっと機敏に反応する必要があると、エル・ホンサリ氏は締めくくった。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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