Lisa Nan
2021年7月02日

ティファニー、ブランドカラーをイエローに

フランスのLVMH (モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)は、傘下のティファニーに新しい役員を登用し、その象徴的な「ティファニーブルー」をイエローに変えるなど、さまざまな変革を進めている。しかし、こうした変革は米国の宝飾ブランドであるティファニーにとって、ほんとうに有効なのだろうか。

ティファニー、ブランドカラーをイエローに

ティファニー(Tiffany & Co,)といってまず思い浮かぶのは二つ。オードリー・ヘプバーン主演の映画『ティファニーで朝食を』と、「ティファニーブルー」と呼ばれる緑がかった明るいブルーのパッケージングだ。ティファニーのブランドアイデンティティは製品よりもむしろ、この独特なカラーに依存している。そのため、先般のエイプリルフールの日に、LVMHがこのブランドカラーを大胆に見直し、明るいイエローへと変えたのはかなり意外であり衝撃的だった。

ティファニーがアクア・ディ・パルマのようなそのまったく新しいパッケージをインスタグラムで披露すると、インターネットは底が抜けたような大騒ぎになった。そして1カ月後、ティファニーは愛されてきたブルーが微塵も見えないポップアップストアをビバリー・ヒルズにオープンした。家具からショッピングバッグまですべてが、あのブルーではなくイエローに輝いていたのだ。

しかしこれは、LVMHによる買収によってもたらされた多くの変革の一例に過ぎない。経営陣では、最高経営責任者(CEO)がアレッサンドロ・ボリオーロ氏からルイ・ヴィトンの幹部だったアントニー・ルドリュ氏に交代した。また、LVMHの会長兼CEOであるベルナール・アルノー氏の息子で、リモワのCEOだったアレクサンドル・アルノー氏(28歳)がコミュニケーションとプロダクトを担当するエグゼクティブバイスプレジデントに任命された。

他に注目すべき点としては、ティファニーが韓国スターのロゼや、中国の俳優で歌手のイー・ヤンチェンシー、英国育ちの女優アニャ・テイラー=ジョイといった話題の有名人と署名契約を交わしたと発表したことや、世界に320店舗展開するティファニーのブティックをすべて刷新し、アジアと欧州では、さらに上位の高級店を増やすことを計画していることなどが挙げられる。

ティファニーは先ごろ、LVMHのウォッチ&ジュエリー部門に加わり、ブルガリ、ショーメ、ゼニス、フレッド、タグ・ホイヤーなどの仲間入りを果たした。イタリアの宝飾ブランドであるブルガリ(LVMHが2011年に買収)は、たしかにLVMHが振るった魔法の杖によって、この10年間で売り上げが倍増している。そこで問われるのは、ティファニーにも同様の成果を期待することができるか、ということだ。

イエローのティファニーは中国のZ世代にアピールするか

クロスコラボレーションからハイテク・インスタレーションまで、あらゆることが起こりうるこの時代、若い消費者は常に思いがけないものを求めている。ブランドアイデンティティの突然の変化はティファニーファンを興奮させ、オンラインでも大きな注目を集めている。中国のネット利用者の中には、新しいカラーを問題視する層もいる一方で、Z世代のあいだでは、ティファニーが「クール」なものと見なされるきっかけにもなっている。たとえば、Weiboでは@mingqixiaoというユーザーが、「ティファニーが使っているあのイエローはとてもオシャレだ」とコメントしている。なるほど、Z世代は変化を歓迎することで知られている。

とはいえ、中国のPRとマーケティングのエージェンシーである、11K Consultingでマネージングディレクターを務めるサリー・マイヤー=イップ氏によると、ブランディングの変更は最初にしっかりした検討が必要だという。同氏はJing Dailyの取材に対し、「ティファニーに脈々と受け継がれてきた象徴的なイメージを希薄化するのは賢い決定ではない。ティファニーはこのイメージで知られているのであって、このイメージがあるからこそ買われるのだから」と語った。それゆえに、ロゴカラーを完全に変えるのは、ブランドとってはリスクが非常に大きい。

再構築の期間はブランドアイデンティティが極めて脆弱になるのが常で、ティファニーは現在、まさにそこにいる。そのため、あいまいなコミュニケーションによって消費者が簡単にミスリードされるおそれがある。異文化間マーケティングのエージェンシーであるTong Digitalでストラテジーディレクターを務めるジェニー・チャン氏は、「問題はこの移行期にティファニーが市場でどのような価値を維持していくかだ」と問いかける。

「古いものから脱却するのであれば、受け継いできた遺産と現代性とのバランスを取らなければならない」とチャン氏は言う。確かに、欧米のブランドが持つ大きな強みのひとつはレガシーであり、中国のブランドのほとんどがそれを持っていない。Z世代は変化を好むのと同じくらいノスタルジックであり、伝統、文化、遺産といったものに深い畏敬の念を抱いている。実は、ティファニーがイエローを選んだのには理由がある。ロサンゼルスのポップアップストアには、創業者チャールズ・ルイス・ティファニー氏が1878年に購入した、130カラットの由緒ある「ティファニー・イエロー・ダイヤモンド」が飾られている。つまり、レモンカラーを大胆に採用したあの新しいポップアップストアは、若い消費者に向けて、伝統と新しさを完璧に融合させたものなのだ。

世界屈指の大きさを誇るティファニー・イエロー・ダイヤモンドは、さまざまな展示会の目玉として世界を旅してきた。写真提供:Tiffany & Co.

いずれにせよ、岐路に立っているとはいえ、経営陣にはティファニーという企業がどのようにあるべきかの明確なビジョンがあるので、そのメッセージを全面的に支持し、展開していくことができるだろう。ブランドカラーの一時的な変更は、新しい層を引き付けるという点では、大きな成果を上げたと言えるのかもしれない。

LVMH傘下に入ったことでティファニーはさらに拡大していけるのか

宝飾ブランドのティファニーは、世界最大のラグジュアリーコングロマリットであるLVMHに買収されたことで、中国市場においてプレゼンスが大きく向上するとみられている。UBSの調査によると、中国の消費者はすでにティファニーをカルティエに次いで信頼できる宝飾ブランドと見ているという。ティファニーはファンの基盤が強固で、市場での評判も確立しているが、たとえばクリスマスシーズンの、中国市場における売上は50%の成長を遂げた(オンライン売上は80%を超える急成長だった)。

マッキンゼー・アンド・カンパニーのアソシエイトパートナー、アンドレア・デ・サンティス氏は、売上をさらに増やすために、LVMHは「価格帯と品ぞろえを見直して新しい顧客が求めているものに近づく」ことに優先して取り組むべきだろうと語る。ティファニーのエントリーレベルのシルバー製品(150ドルから)は、富裕層ではない顧客を引き付けるのに役立ってきた。しかし、中国では消費者がますます洗練されてきており、ティファニーが富裕層の顧客を魅了するには、より高級な製品を開発して、高級品の「オーラ」を維持する必要がある。安価な製品は、長い目で見ると、高級品というティファニーのプレゼンスを損なうおそれがある。

HSBCによると、中国は今後5年間で、1000万元(約1億7100万円)を超える可処分資産を有する層が倍増し、中産階級も約1.5倍に増加し、ティファニーが狙うべき消費者基盤が拡大するという。しかし、この拡大する富裕層の要求を満たすには、方針を変更する必要がある。LVMHが考えている方法のひとつは、この層が好む高級な宝石と金製品のカテゴリーにさらに注力するというものだ。また、LVMHの専門知識とグローバルなサプライチェーンを利用できるようになったことで、ブルガリやカルティエが革製品で行ったように、あるいは、アルノー氏が好むクロスブランド・コラボレーションによって、ティファニーは新たなカテゴリーに進出するはずだ。

こうした戦略は実施に時間がかかることから、すぐに成長をもたらすことはないだろうが、少なくとも今後5年間で目に見える結果が出るだろう。ビジョンを実現する忍耐とリソースがLVMHにあることは間違いない。会長兼CEOのベルナール・アルノー氏も従業員向けのビデオメッセージで、「我々はティファニーの長期的な望ましい姿を、短期的な停滞懸念よりも優先する」と述べている。

中国で実を結ぶのか?

LVMHには中国市場でのパートナーがおり、同市場の知識もあることから、ティファニーが中国で成長する機会を手にしたのは間違いない。しかし、Tong Digitalのチャン氏は、中国本土での成功を維持するには、同市場で何らかの先駆者になる必要があると言う。たとえば「カルティエは高級宝飾ブランドとして初めてタオバオ(Taobao)でライブストリームを実施した」という。

中国市場はショッピングのイベントもチャネルも多いが、必ずしもすべてに姿を現す必要はない。しかし、ティファニーが独自のブランドアイデンティティを整備しつつ、これまでにはなかったショッピングイベントを実施すれば、得られるものは多く、興味深い位置付けのブランドになるだろう。

2021年の旧正月、ティファニーはルビーの宝飾品に光をあてた。写真提供:Tiffany & Co.’s Weibo

カラーの変更は一時的なものかもしれないが、ブランドのパッケージが、製品以上に目立つものであってはならない。憂慮すべきは、象徴的なブルーのボックスと同程度に、ティファニーだとわかる主張のある製品がないことだ。ヒーロープロダクトはターゲット層の拡大とブランドの認知向上を促進することが可能であり、新たな顧客を獲得するには「主力製品」が特に必要となる。

とはいえ、ブランドを象徴するような製品の開発は時間がかるうえに一貫性が必要で、マーケティングの取り組みもしっかりしたものが求められる。好例がバーバリーの「Bojie」プロジェクトだ。バーバリーは若いアーティストとのコラボレーションにより、オリンピアバッグにちなんだオンラインアートのインスタレーションを制作した。

LVMHとティファニーのアライアンスが、双方にとってwin-winだということは明確だ。LVMHは2851億ドル(約31兆5135億円)規模のラグジュアリー市場における覇権をさらに強固なものにし、ティファニーは最大のライバルであるカルティエの優位に立つと見られている。「それぞれの分野とパートナーシップの意義を理解しているので、成功は間違いない」とチャン氏は主張する。たしかに、フランスのコングロマリットであるLVMHが、成長を加速するためのリソースと専門知識をティファニーに提供できれば、宝飾分野の競争相手にとっては大きな脅威になるだろう。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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