Sabrina Sanchez
2022年1月27日

マイクロソフト、アクティビジョンを過去最高額で買収

この買収は、ゲーム業界の成長に伴う業界再編の幕開けを告げるものだ。

マイクロソフト、アクティビジョンを過去最高額で買収

ゲーム業界とクリエイターエコノミーにおいて、これまで何度も勢力拡大と企業買収の機会をうかがってきたマイクロソフトが、ついに大きく動いた。1月18日、アクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)の買収に、同社として過去最高額となる約700億ドル(約7兆9700億円)を投じる用意があると明らかにしたのだ。

この買収が完了すれば、マイクロソフトは、世界のゲーム企業のなかで売上高第3位となる見込みで、1750億ドル(約19兆9300億円)規模のゲーム業界のトップに君臨するかもしれない。新体制の下、マイクロソフトは、「コール・オブ・デューティー(Call of Duty)」や「マインクラフト(Minecraft)」といった、ゲーム業界最大級の知的財産(IP)を保有し、30のゲームスタジオを傘下に従えることになる。

この買収により、マイクロソフトは途方もないポテンシャルを獲得する。同社はこれまでも、Xboxや企業買収を通じ、ゲーム業界への勢力拡大を図ろうとしてきた。例えば2021年、ディスコード(Discord)を100億ドル(約1兆1400億円)で買収する交渉に入ったが、この契約は成立しなかった。それ以前にも、クリエイターエコノミーへの進出をめざす同社は、PinterestやTikTokの買収にも関心を示していた。しかし、いずれも実現には至らなかった。

ゲーム業界における買収の動きをけん引するのはマイクロソフトだけではない。テイクツー・インタラクティブ(Take-Two Interactive)は1月上旬、127億ドル(約1兆4500億円)を投じてモバイルゲーム開発企業のジンガ(Zynga)を買収すると発表した。そのジンガもここ数年、イスタンブールに拠点をおくロリック(Rollic)や、ヘルシンキに拠点をおくスモールジャイアントゲームズ(Small Giant Games)といった、小規模な開発会社を買収して成長してきた。

マーケターにとって、ゲーム会社の統合の意義は、そのIPポートフォリオへのアクセスが合理化されるという話にはとどまらないと、マッドファーム・ベンチャーズ(Mudfarm Ventures)の創業者であり、世界体験機構(World Experience Organization)の創設メンバーであるマックス・レンダーマン氏は言う。ブランドセーフティ環境や大規模配信、協業の機会といった恩恵がもたらされるからだ。

レンダーマン氏は「マイクロソフトは(マーケターに)信頼感や安全性、リスク回避などをもたらすだろう」と述べ、「マイクロソフトは企業として、無謀なリスクは冒さない会社という揺るぎない評判を築いてきただけでなく、世界最高レベルの人材も有している。メタバースへの進出の可能性を慎重に見極めている段階のブランドは、マイクロソフトのような大企業の本格参入に、大きく背中を押されることになるだろう」と説明した。

例えば、マイクロソフトとアクティビジョンの人材が統合されれば、ブランドはメタバース世界の構築に関し、米国内最高のチームと仕事ができるようになるだろうと、レンダーマン氏は言う。

さらに、マイクロソフトのゲーム機「Xbox」や、「Xbox Game Pass」などのゲームサブスクリプションサービスを通じて、マーケターは急成長するネットゲームコミュニティに、1箇所のアクセスポイントからリーチできるようになると、メディアモンクス(Media.Monks)のクリエイティブソリューション担当責任者であるルイス・スミシンガム氏は言う。

アクティビジョンもまた、マイクロソフトの広告ツールのポートフォリオに収まることができる。例えば、マイクロソフトがプログラマティックエクスチェンジのXandrを買収した結果、ブランドはPC、ゲーム機、モバイルの、それぞれのゲームユーザーにリーチできるようになり、さらにはコネクテッドTVという新たなフロンティアへの展望も開けた。

AT&Tとベライゾン(Verizon)が5Gインターネットを提供しはじめたことも、ブランドにとって追い風だ。高速インターネットに魅力を感じるゲーマーたちに、パーソナライズされたメッセージを配信でき、マーケターはさらにきめ細かいファーストパーティデータを利用できるようになるだろうと、スミシンガム氏は述べる。

アクティビジョンの買収により、マイクロソフトはゲーム業界において圧倒的なシェアを獲得することになる。しかし、ミンテグラル(Mintegral)で南北アメリカ地域担当ゼネラルマネージャーを務めるジェフ・スー氏によると、ゲーム業界には、マーケターが検討すべき可能性や企業が獲得できるIPがまだまだ多く存在しているという。

スー氏は「(買収は)まだまだ続くだろう」として、「最新の買収合意は、いずれもゲーム機やモバイル、もしくはその両方に関するもので、Web 3.0やメタバースの未来に向けて、非常に重要となってくる領域だ」

一方、買収が加速した結果、巨大なゲーム企業が誕生することは、少数の企業にマーケティング予算の大部分が集中することを意味すると、スー氏は指摘する。

「ゲーム開発会社は、オーディエンスを拡大するために、より多くのスタジオを買収しようとしている。獲得できる予算規模がオーディエンスの数に比例するからだ」と、同氏は述べた。

アクティビジョン・ブリザードにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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