Bob Hoffman
2021年11月19日

マーケティングの概念は非科学的だ

実際に何かを知っているという確信を得るためには、仮説を常に検証することが必要だが、マーケティングでは、証拠に基づくアプローチは非常に稀だ。

アインシュタインの仮説が多くの手で検証されなければならなかったのなら、誰の仮説であっても検証されるべきではないだろうか。
アインシュタインの仮説が多くの手で検証されなければならなかったのなら、誰の仮説であっても検証されるべきではないだろうか。

アルベルト・アインシュタインが特殊相対性理論を提唱したのは100年以上も前のことだ。以降、この仮説については、史上最も多くの科学的検証が行われてきたと言えるかもしれない。優秀な科学者たちがこぞって理論の穴を突こうと試みたが、アインシュタインの理論はあらゆる検証を耐え抜いてきた。それでも、科学者たちはいまだに理論の不備を探し続けている。これが科学の望ましい姿だ。

知識とは貴重で、本質的なものだ。そして、実際に何かを知っているという確信を得るためには、仮説の検証が不可欠だ。

もしかしたらどこかに、広告業界以上に仮説を事実として無分別に受け入れている業界があるのかもしれない。しかし、たとえ存在するとしても、私はまだ出会ったことがない。筆者は広告業界に長く身を置いてきた人間であり、マーケティング業界とも十分な接点があるので、自信を持ってこう断言できる。マーケティング業界は、科学的根拠がまったく、あるいはほとんど無い主張でもすんなり受け入れてしまうという点において、広告業界をも凌いでいると。

私たちは何年も、ときには何十年にもわたって、合理的かつ論理的と思える概念に依存してきた。ポジショニング、差別化、ブランドの意義、的確なターゲティング、ブランドパーパスなどが該当するが、きっと他にもあるだろう。こうした概念が広告業界でいともたやすく受け入れられてきたのは、一見、合理的で論理的に思えるからだ。しかし、忘れてはいけない。地球平面説でさえ、一見、合理的かつ論理的に見えていたということを。

科学者が「専門家」の信じる理論に疑義を持つことは、正しい姿勢として賞賛されるが、広告業界で第一人者の意見に疑問を投げかければ失笑を買うだけだ。その結果、科学界では専門家が育ち、広告業界では不合理な「ソートリーダー」ばかりが量産される。

私たちの信じる理論のどこに厳密な科学があるだろうか?統計学者でも研究者でもない平凡なコピーライターである筆者ですら、真実だと考えられている多くの概念が依拠している論理的根拠に、大きな穴があることくらいはすぐにわかる。

そういった概念が誤りだと言っているわけではない。筆者が言いたいのは、それらはまだ立証されていない概念だということだ。広告やマーケティングの実務者は、それらを簡単に尊重すべきもの、信用に値するものと見なしてはいけない。

広告のプロとしては、懐疑的になることも仕事のうちの一つだ。どこかの専門家が太鼓判を押している、どこかの学者がそれをテーマに本を書いた、筆者のようなブロガーが吹聴している、という程度では、信じるに十分とは言えない。私たちが信じているマーケティングや広告の常識は、往々にして、何らかの逸話や、やや疑わしいケーススタディ、完全に信頼を置けるとは言い切れない研究結果などが生みだしたものだということに留意が必要だ。

私たちは、手元にある最良の情報をもとにして、取り組みを進めなければならない。しかし、広告業界やマーケティング業界においては、そうした情報のほとんどは不十分かつ不適切だ。見て見ぬふりをしてはいけない。何よりも重要なのは、声高に主張したり、知ったかぶりをしたりする人間が振りかざす、裏付けもなく有効性も立証されていない主張を、安易に受け入れ続けてはいけないということだ。

広告業界やマーケティング業界は主義主張に溢れているが、正当性が証明された知識は圧倒的に不足している。このままではいけない。誰であれ、真実に勝るものはないのだから。


ボブ・ホフマン(Bob Hoffman)は広告を題材にした本を執筆し、ベストセラーも多数。広告やマーケティングをテーマにした講演でも国際的に活躍している。「Ad Contrarian」というニュースレターブログを運営しており、本記事はそこからの転載だ。過去には、独立系エージェンシー2社および国際的エージェンシー米国法人のCEOを務めた。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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