Matthew Keegan
2023年11月16日

Z世代、ミレニアル世代……世代分けは無意味なのか?

米シンクタンク、ピュー研究所が今後「Z世代」「ベビーブーマー」といった世代別の呼称を使わないと発表した。マーケターも後に続くのか。

Z世代、ミレニアル世代……世代分けは無意味なのか?

Z世代、ミレニアル世代、ベビーブーマー……こうした世代を表す呼称ほど、手垢のついた言葉はないだろう。大した意味をなさないからこそ、むやみやたらに使われる。つまるところ、マクロなデモグラフィック(人口統計学的な属性の総称)ではそれぞれの世代の明確な特徴を見出せないのだ。

デモグラフィックは意味がない、という意見は前々からあった。だがマーケティング業界の様々な報告書から、Z世代やミレニアル世代といった言葉が消えることはなかった。

現代は人が多様化し、科学的なマーケティングも進化した。人口を大雑把に分け、あたかも皆同じ志向であるかのように恣意的なレッテルを貼り、画一的なターゲットマーケティングを行う −− これはあまり良いアイデアではないということに我々もやっと気づき始めた。結局のところ、同世代でも個人の差異は非常に大きいのだ。

幅広い調査を手がける米国有数のシンクタンク、ピュー研究所は今年5月、こうした世代別の呼称を今後使用しないと発表した。

同研究所で社会・統計学部門のディレクターを務めるキム・パーカー氏は、その理由をこう記す。「世代分けを象徴する15〜18歳の若年層でも、考え方や経験、行動が大きく異なることは多くの専門家が指摘している」

「マスマーケティングという考え方がある限り、消費者を大きくグループ分けしてその特徴を見出す作業は必要です」と話すのはクリエイティブエージェンシー「ルーファス」の戦略ディレクター、トム・デイビス氏だ。「しかし潜在的な購買層を特定するために、年齢で区分することは果たして意味があるのか。確かに行動や興味の対象は年齢に関係しますが、より重要なのは個人の社会的コンテクストや文化的バックグラウンド、体験です」

「ターゲット」の再考

デモグラフィーという言葉は1885年、フランスの植物学者アシール・ギイヤールが生み出した。年齢や性別といった視点から集団を科学的に調査することが目的だった。

「我々は長年、流動性の少ない、地場に根差した社会で生活をしてきました。今のように世界と常時つながることもなかった。それゆえ、どこの国の人々も考え方の似た人同士でコミュニティーを作ってきたのです」。こう話すのはインサイトエージェンシー「TRA」のパートナー、コリーン・ライアン氏だ。「ですから、1885年当時の思考法を今に適用することは意味がありません」

当時は年齢からライフステージやライフスタイルを予見できた。だが今の時代では無理があろう。

「かつては30歳と言えば結婚して家を持ち、2〜3人の子どもがいるのが普通でした」とデイビス氏。「しかし今の25〜34歳を見てください。私もそのカテゴリーに入りますが、トロイ・シヴァン(豪・歌手)やリアム・ヘムズワース(豪・俳優)のようなタイプもいれば、私の友人のようにクイーンズランド(豪北東部)の田舎で高校教師をしている者もいる。世代的な特徴をどうまとめられるというのでしょう」

確かに今の時代、世代に固執する意味はほとんどなさそうだ。それでもこうした区分は多用される。

「年齢はある程度、世代的な志向や行動のインサイトを映し出すかもしれません。しかしそれはコントロールの効くものではなく、極めて変わりやすい。意思決定に大きな影響を与えるのは個人の情熱や志向、選択基準です」。こう話すのはヴァイナーメディアAPACのマネージングディレクター、ティム・リンドレー氏だ。「13歳と90歳のティックトックユーザーの投稿が共通していることもあるし、25歳の2人の投稿が極端に異なることもある。オーディエンスが何に関心を持っているかを見極め、関係性を築く方が年齢でターゲットを定めるよりも賢明な戦略でしょう」

世代ではなく「コミュニティー」

今もマーケターやエージェンシーはオーディエンスの分析に膨大な時間を費やす。そうしたインサイトを様々な年齢層に適用できるケースは少なく、結果的にリニアTVの枠を購入することになってしまう。

「今はターゲット層の中核を狙った受動的なプランニングが主体。しかしこうしたアプローチは理論的にも実質的にも欠陥がある」とデイビス氏。「メディアバイイングは、ターゲットとするオーディエンスが属するコミュニティーを狙ってプランニングを立てねばなりません。『世代』はコミュニティーを表してはいない。固定概念の1つに過ぎません」

ヴァーチューAPACのクライアントサービスディレクター、クロエ・フェアー氏も年齢層や世代別のデータではなく、コミュニティーやサブカルチャーを通したターゲットマーケティングを支持する。

「若い世代は年齢やジェンダーではなく、個性や価値観、関心や趣味の対象によって自分たちを定義する傾向がある」と同氏。

共通の関心・趣味を土台にしたコミュニティーの重要性は、レディット(Reddit)やディスコード(Discord)といったニッチなプラットフォームの人気が証明している。今ではマス向けのフェイスブックやインスタグラムを凌ぐ勢いだ。自分や友人の好みで音楽のプレイリストを作るスポティファイの機能「ブレンド(Blend)」も、同様に人気が高い。

「ブランドはマス向けのアクティベーション同様、共通の関心や趣味でつながる小規模なコミュニティーへの取り組みにも力を入れるべき」とフェアー氏。

コカ・コーラの限定版プラットフォーム「コカ・コーラ・クリエイションズ」は昨年、Z世代が興味を示す音楽やゲーム、アニメなどのカルチャーに焦点を当て、世界で1260万人超の新たな顧客を獲得した。

また、ウイスキーブランドのジョニーウォーカーは2021年、文化とコミュニティーをテーマにしたプログラム「ザ・ウォーカーズ」を開始。ドラッグ、音楽、ダンス、コメディー、LGBTQ+といった幅広い分野のコミュニティーにリーチし、様々な声をまとめて社会善の増進を訴えた。この取り組みで同ブランドは世界の10億人以上にリーチ、各市場でブランドの存在感とエンゲージメントを高めた。

 

同様に、メディアのターゲティングもデモグラフィックの枠を超え、共通する関心や個性に視点を変えつつある。カスタマーデータプラットフォームが進化し、カスタマージャーニーがより緻密に把握できるようになったことで、マーケティングはより正確にパーソナライズ化されていくだろう。マーケティングファネルの各段階でも、より効果的・効率的な支出が可能になるのだ。

「カルチャーの分野で遅れをとっているブランドは、クリエイティブ、メディアの両面でコミュニティー重視のアプローチを取ることが特効薬になる」とフェアー氏。

デモグラフィックは捨てるべきか

アジア太平洋地域における18〜24歳の若年層人口は5億人以上。Z世代として1つのグループで括るには、あまりにも数が多い。世代別でデータを集めるマーケティングがいかに非効率的か、明白だろう。

「18〜24歳の若年層は45〜54歳の中高年層よりも共通項が多い、という仮説がマーケティング業界にはある。しかし私は間違っていると思います」とデイビス氏。「もし私がヴィンテージのエアジョーダン(ナイキのスニーカー)を売るのであれば、テイラー・スウィフトが好きな22歳とその従弟の18歳の青年にではなく、45歳と22歳のNBAファンにリーチします」

それでも同氏は、世代別で捉えるマクロなデモグラフィックも「まだ利用する価値がある」という。

「年齢や(以前よりも細分化された)ジェンダー、社会科学的要素で消費者を捉えるのが有効なケースは確実にある。ただし、それらの重要性を見つめ直す必要があります。もしマーケティングブリーフで世代論が中心になっていたら、アプローチが誤っている可能性が高いでしょう」

リンドレー氏は、「デモグラフィックを無視するのではなく、どう応用するかがポイント」と話す。

「デモグラフィックは土台であり、絵に例えればキャンバスのようなもの。それだけではツールになりません。細かい要素を加味し、掘り下げ、磨きをかける。行動様式や興味の対象、コミュニティーなども考慮してオーディエンスを特定しなければならない。消費者を完全に把握してこそ、初めて彼らの意に応えることができるのです」

(文:マシュー・キーガン 翻訳・編集:水野龍哉)

 

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