Matthew Miller
2017年5月17日

ドールのフルーツカクテル缶、AIが売り切る

「こんな経験は初めて」――。ドールでアジア太平洋地域のマーケティングを担当する副社長は、フィリピンで実施した販促キャンペーンについて、このように語った。

ドールのフルーツカクテル缶、AIが売り切る

ドールはフィリピンで、クリスマスシーズン向けにフルーツカクテルの缶詰のデジタル販促キャンペーンを展開。その一切を、「アルバート」と名付けられたAI(人工知能)に仕切らせた。このプロジェクトで、AI主導の自律的なデジタルキャンペーンが、小売店での売り上げ増に貢献できることが明らかになった。ドールは今後、AIの使用を拡大していくつもりだ。

ドールと、アルバートを開発したアドゴリズム社によると、同キャンペーンは以下のような結果に結びついた。

•割り当てられた半分の時間で、当初のKPI(重要業績評価指標)を達成した
•一部の店舗では、一時的に商品が売り切れになった
•在庫補充後の店舗で、売り上げが87%伸びた
•フェイスブックでのドールのフォロワーが、新たに6万人増えた

この結果を受け、ドール・パッケージド・フーズ・アジアでマーケティングとイノベーションを担当するアシュヴィン・スブラマニアム副社長は、感心した口調で次のように語った。AIの力をもはや信じて疑わない様子だ。

「これでもう広告界の多くの人間は、うかうかしていられなくなるでしょうね。従来のやり方を根本から変えることになると思いますよ」

控えめな目標

フルーツカクテルのキャンペーンは、試験的に行われた小さなプロジェクトに過ぎなかった。 「小売業界のチャネルはデジタル化に向かっていると固く信じていますし、新しいマーケティング手法を試す用意は常にありました」とスブラマニアム氏。「ですから、かねてより懸案だった事業に、アルバートを使ってみることにしたのです」

具体的にドールは、フルーツカクテル822グラム缶の認知度と売り上げを伸ばしたいと考えていた。売れ行きがいいのはもっと大きなサイズの缶だが、822グラム缶の方が収益性が高いためだ。販促キャンペーンは11月1日に始まり、12月31 日まで続いた。フィリピンではこの時期、休暇シーズンを彩る料理にフルーツカクテルがよく使われる。

クリエイティブは、マニラの小さな広告会社「レッドマニラ」に任されることになった。クリエイティブの主眼は、休暇シーズン中の大規模な家族の集まりのみならず、もっと内輪の集まりにも小さなサイズの方の缶を使ってもらうため、レシピを提供することにあった。

フェイスブック上のキャンペーンサイトについては、「まずは少なくとも3万人からの『いいね!』を獲得するというKPIを設定しました」と同氏。「しかしアルバートに何ができるのか、私たちにはよく分かっていませんでした。フェイスブックのキャンペーンサイトは『いいね!』の数が、たった8週間で6万に達したのですから」。ちなみに、ドール・フィリピン本体のフェイスブックアカウントは、開設されて2年半経つが、「いいね!」の数は20万に満たない。

さらに重要なことに、開始から2週間のうちに多くの店で在庫切れが生じた。これはAI主導キャンペーンのおかげだと、スブラマニアム氏は考えている。ある小売店で売り上げが87%伸びたのは、その象徴的な例だ。「AIを使った他のキャンペーンの数字も少し見てみましたが、当社の数字の伸びは、他より高くはないにしても、おそらく同等のはずです。正直なところ、良い意味で私たちにはショックでした」

疲れ知らずの働き者

AIによるキャンペーン運用の強みは、人間が運営した場合とは異なり、オーディエンスとクリエイティブのさまざまな組み合わせを複数チャネルで素早く試し、何が最も効果的なのかを判断して学習し、それに基づいた最適化ができる点にある。

「AIに目標を与え、予算の管理も任せると、AIは入札やバイイング、出稿、与えられたクリエイティブ素材の最適化まで、すべて自動的に行うのです」

つまり企業は、基となるクリエイティブ素材をたくさん用意し、AIに提供する必要がある。「クリエイティブのオプションがあればあるほど、AIはより効果的に機能します。ユーザーがクリエイティブ素材をどのようにとらえているかを把握し、いくつもの選択肢の中で常に最適化していくからです」とスブラマニアム氏。「AIはネット広告市場を俯瞰し、潜在的な競合相手をはじめとした他プレーヤーの動向をつかむこともできます。他社がどんな入札を行い、どんな結果が得られたか、当社がどんな不利益をこうむるのかを見極めます。そして入札する際には、それら学習したことを考慮に入れるのです」

そしてもちろん、ロボットであるAIが仕事を休むことは決してない。

「AIがリアルタイムで最適化を行うので、バイイングや効果測定、人の手による分析、それを基にした施策の展開といった作業が不要になります。AIはデジタルを、自動で自律的に最適化してくれる存在。毎分、毎秒、常に最適化を行っているのです」

オフラインの影響

さらに興味深いのは、このキャンペーンにはeコマースの販売チャネルが無かったにもかかわらず、売り上げを大きく伸ばしたことだ。アルバートのようなAIが、購買に至る経路のあらゆるデータに直接アクセスし、オンラインショップの売り上げ最適化に使用されるのはよくあることだ。 しかし今回のケースでは、ある小売店のデータをアルバートに週単位で提供したのみで、把握できたレスポンスは限定的だ。

それでもAIはクリックスルー率を最大化して、唯一決められていたKPI(フェイスブックで3万の「いいね!」を獲得)を達成。収入面でも効果をもたらしたという。

スブラマニアム氏が委託した第三者機関の分析によれば、アルバートのROI(投資利益率)は、戦術的な店頭ディスプレイの1.7倍。戦術的ディスプレイの費用1ドルあたり89セントの収益がもたらされたが、アルバート主導のオンラインキャンペーンでは費用1ドルあたり1.51ドルの収益だった。

「AIをもっと使いこなせば、数字はどんどんよくなるはず」と同氏は付け加える。 「それにしても最初から1.7倍を達成するとは、見事なものです」

同社では今後も、アルバートにもっとデータを提供していくつもりだという。「リアルタイムの販売情報があれば、AIはもっといい仕事をしてくれますから。今後必要なのは、POSデータ(販売時点情報)の利用に関し、小売店にもっと信用して任せてもらうことでしょう。我々がアルバートとデータを共有すればするほど、効果も大きくなるのですから」

この点は課題だろう。小売業者はたいていの場合、店頭データをレバレッジポイント(小さな力で大きな変化を起こす作用点)や収入源とみなしているためだ。しかしそれも、AIが勢いを増すにつれ、変わる時を迎えているのかもしれない。

(文:マシュー・ミラー 編集:田崎亮子)

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