David Blecken
2017年3月15日

広告界が被災地復興にできること

東日本大震災から6年。その発生直後から復興支援を続ける東京のクリエイティブディレクターがいる。企業主導ではない、あくまでも個人レベルでの取り組み。その活動振りは示唆に富む。

飯田昭雄氏。電通アイソバーのオフィスにて
飯田昭雄氏。電通アイソバーのオフィスにて

安倍首相は追悼式で「復興は着実に進展している」と強調したが、地元の人々は震災前の生活を取り戻そうと、今も懸命の努力を続けている。

震災発生以降、多くの企業が東北支援策を打ち出した。最近では3月9日、小売り大手のイオンが東北で観光事業に着手すると発表。遠野市でスノートレッキングツアーなどを催す予定だ。目的は、この地域により多くの人々を呼び込み、消費を増やし、被災した住民の現状も理解してもらおうというもの。同社は、汚染の風評被害で売上が減った地元食材の販売にも力を入れている。

ヤフー・ジャパンも、震災直後にボランティア活動を奨励する取り組みを行った。

こうした活動を一般の大企業に委ねてしまうことはたやすい。しかし広告業界も、そしてクリエイティブやテクノロジーの知識を持った個人でも、支援に重要な役割を果たすことができるはずだ。電通アイソバーで現在エグゼクティブクリエイティブディレクターを務める飯田昭雄氏は、震災直後からその支援策を模索した。当時はワイデンアンドケネディのアートバイヤー。まずは子どもたちのため、おもちゃの寄付を募ることから始めた。そして数カ月にわたって、被災地の石巻と東京の間を往復。その過程で出会った現地の若者や経営者たちに、同氏は大いに感銘を受けた。彼らは全てを失っても、しっかりと将来を見据えて生きようとしていたのだ。

同氏は間もなく、広告のプロや建築家、大学の研究室、石巻の若手経営者などと共に「ISHINOMAKI2.0」の立ち上げに参画した。そのコンセプトは、地域社会が再び自立できるよう知恵とリソースを蓄積し、その基盤作りに少しでも役立てようというもの。中心に据えた取り組みは、地域の生産者や企業が全国でビジネスを広げていくためのサポートだった。

初めの頃はフリーペーパーの制作やコミュニティースペースの設置、各種イベントの企画といった活動が主だった。しかしメンバーの多くが東京から訪れていたことから、「このやり方では応急処置にしかならない。活動を長く維持し、外部者に頼らず組織が自立できるようにするには、地域住民を巻き込むことが必要だと気づきました」(飯田氏)。以来、ISHINOMAKI2.0の活動は地元の人々が中心となり、外部者の協力を取り付けていく形になった。

同組織が手がけたプロジェクトの一つの成功例は、高級家具ブランド「ハーマンミラー」とのコラボレーション。2011年秋、同社から多くの海外スタッフが石巻を訪れ、同社のリソースを活用して家具の制作をサポート、石巻工房の設立に尽力した。「今やこの家具は世界中で名を知られています」(同氏)。現在、このビジネスは石巻の人々を中心に運営されている。

最近では飯田氏指揮の下、「KUMU」という社内プロジェクトが立ち上がった。その第1回では石巻でのフィールドワークとハッカソンをかけ合わせたアイデアソン(アイデアとマラソンを合わせた造語)を開催。そこで優勝したアイデアが、「ベジタル(Vegital)」というAIを活用したアプリケーションだ。「農作物の販売経験や知識がまったくない人々も含めた、農業従事者全般をサポートしていくものです」。

「ISHINOMAKI2.0を立ち上げたことで、私自身、自己の能力を活用すれば社会貢献ができると気づきました。既に始まっているプロジェクトから得られたヒントは、被災地以外の、例えば過疎化などで地元産品の販売に苦慮しているような地域の解決策にもなり得ると考えています」と飯田氏。

「マーケティング業界は、もっとたくさんの支援ができるはず。マーケティングのプロフェッショナルたちが日々クライアントに注ぎ込む力を持ってすれば、より多くの可能性を生むことができるでしょう。課題を抱える地域を支援するため、もっと多くの人々が個人レベルのプロジェクトに携わるべきです」と同氏。支援活動を大きく広げていくためのカギは、人々のモラルや義務感に訴えかけるのではなく、「楽しむ気持ち」を大切にすることだ、とも。

「あまりシリアスに捉え過ぎず、むしろ楽しむことです。そうすれば、より有機的なコミュニケーションがローカルで生まれるのではないでしょうか。震災の悲惨さを伝えていくだけでなく、支援活動がどれほどポジティブで、実りあるものだったかということを語り合うような」

「東日本大震災は被災地だけでなく、日本のありとあらゆる問題を考えるきっかけになりました。私たちはつい、一人ひとりには変化を生み出すような力はないと考えてしまいますが、そうではありません。それらの力を結集すれば、この国を新たな世界に導いていくことが十分に可能なのです」

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:岡田藤郎 編集:水野龍哉)

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