David Blecken
2017年4月20日

アジア市場を狙う博報堂の、新たなツートップ

元ワイデン・アンド・ケネディのヤン・ヨウ氏を、木村健太郎氏とともにCCOに任命した博報堂。その狙いは、アジアでのビジネス強化と潜在的な才能の発掘だ。

木村健太郎氏(左)とヤン・ヨウ氏。自分たちのクローンとともに。(博報堂のプロモーション画像より)
木村健太郎氏(左)とヤン・ヨウ氏。自分たちのクローンとともに。(博報堂のプロモーション画像より)

博報堂は新設の役職、APAC Co-CCO(アジア全域の共同チーフクリエイティブオフィサー)にヤン・ヨウ氏を起用した。同氏はシンガポール国籍で、元ワイデン・アンド・ケネディ上海オフィスのエグゼクティブクリエイティブディレクター。今後は、博報堂ケトル代表取締役共同CEO兼エグゼクティブクリエイティブディレクターの木村健太郎氏とともに采配を振るっていく。

ヨウ氏は2014年から、中国でワイデン・アンド・ケネディのクリエイティブを指揮。上海には2006年から滞在するが、今回の就任を受けてシンガポールに帰国する。木村氏は引き続き東京を拠点に活動を続ける。博報堂によれば、両氏は社員のモチベーションとスキル、そして他社の信用をより高めて新しいビジネスチャンスを増やしていくことに注力する。プランニングやアクティベーション、PRに加え、地域における従来型のクリエイティブ業務も指揮していく。

ヨウ氏がクリエイティブ面で世界有数のワイデン・アンド・ケイディから博報堂に移ったことに、業界関係者は少なからず驚いたようだ。東京で行ったインタビューでは、8年来の友人である木村氏とチームを組むことに加え、「博報堂の将来に対する展望が決断の理由」と語った。

日本の大きな組織とは、その良し悪しは別にして、様々な意味で「企業色」が強い。ヨウ氏は「特にそれは危惧していません」と言う。就任前、博報堂のグローバルチーフクリエイティブオフィサーである北風勝氏と率直な意見交換をし、「私が自分自身でいられる居心地の良い会社だと確信しましたので」。北風氏からは「前進している限り、失敗を恐れる必要はない」というアドバイスを受けたという。

日本企業の組織の一員となることについても、「一切気にしていません」。「その全てを受け入れるつもりです。グローバルなやり方を押しつけるつもりも、既成のやり方に従うつもりもありません。日本のやり方とか欧米式のやり方とかいうのではなく、『博報堂のやり方』があるはずです」。

博報堂は「日本の1広告代理店ではなく、『たまたま拠点が日本にあり、世界的に名を知られる代理店』を目指している」とヨウ氏。北風氏は、アジア太平洋地域全体を東京の本社から管轄する構造は効率的ではないと考えていた。故に、「それぞれの国に行って腕まくりをし、現地のチームとともに課題に取り組んでいきたい」とヨウ氏。

博報堂のアジアにおけるクライアントはほとんどが日本企業だが、同社が狙うのは外国企業との取引を増やすことだ。そのためには海外での認知度を上げる必要があるが、ヨウ氏の任命はその点で確実にプラスになるだろう。だが木村氏は、「アジア各国のオフィスをレベルアップするにはまだやることがたくさんある」と話す。イルハン・ラムリ氏率いるインドネシアのオフィスは「比較的高いレベルにある」が、その他の主要市場では「まだ納得のいくレベルに達していません」。「特に中国、タイ、ベトナム、シンガポール、インドではビジネスが伸びる余地がある。アジア全てのオフィスをレベルアップさせて、更なる高みを目指していきます」。

その具体的な対策については、両氏とも言及しない。ただヨウ氏は、「新しい人材を採用するよりも、組織の中の人材を見直したい」と話す。「まだ発掘されていない才能があります。それらをどのように磨き上げ、どのようにして彼らが最も得意とする仕事を割り当てるか。それが肝要でしょう。社員には広告界に安住するのではなく、『文化の一部』となり、逆に文化に影響を及ぼすぐらいになって欲しいと考えています」。

この最後の部分は重要だろう。ヨウ氏は、業界で「クリエイティブワーク」という用語があまりにも漠然と使われ過ぎていると考える。博報堂の仕事は「策略や広告、そしてコミュニケーションを通じてだけではなく、広く現実の人々に対して語りかけていかねばならない」という信念を持つ。

もちろん昨今は、代理店が広告以外の全てを手がけると自らアピールするのがトレンドだ。だが現実は、その収益の大部分が今でもテレビのキャンペーン広告によってまかなわれている。それでも木村氏曰く、博報堂の哲学の根幹を成すのは「マーケットデザイン」。つまり、「人々により良い生活をもたらす仕事が、ひいてはクライアントの利益にもなるのです」。

その例として同氏は、製品を売り出す前にインフラとコミュニティーの構築に注力したある自動車メーカーのプロジェクトを挙げた。博報堂は、国内ではプロダクトデザインにも携わる。これには自社で積極的に推し進めるものと、クライアントからの委託によるもの双方がある。こうした活動がアジアでの優位性をもたらす可能性はあるが、新たな体制の下でどのようにこの特徴を生かしていくかが今後の課題だろう。

「日本が他のアジア諸国とそれほど大きく異なっているとは思いません」と木村氏。「しかし、それぞれの国には独自性があります。ですから我々は、アジアの才能豊かな人々ともっと積極的に仕事をしていかねばなりません。それが今回のデュアル(双頭の)・リーダーシップの理由です」。

日本での博報堂のライバル企業が国際的に活躍するクリエイターを採用した例は、最近ではアサツーディ・ケイのロブ・シャーロック氏(2014年)、電通のテッド・リム氏(2013年)などがある。

(文:デイビッド・ブレッケン  翻訳:高野みどり  編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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