Bailey Calfee
2023年8月31日

ブランドは偽情報にどう対処すべきか

この数カ月間、多くのブランドが偽情報による被害を受けた。だが、必ずしもこれら偽情報に対抗する必要はないと専門家は説く。

ブランドは偽情報にどう対処すべきか

この5月、米食品大手マースのキャンディーブランド「スキットルズ」がプライド月間を記念し、5人のLGBTQIA+アーティストが手掛ける限定パッケージ商品の販売を発表した。

それから3カ月後、この限定パッケージは全米の店頭から姿を消した。このキャンペーンがソーシャルメディア上で激しい攻撃を受けたからだ。

発端となったのは、反LGBTQ+を唱えるアカウント「リブズ・オブ・ティックトック(LibsofTikTok)」のX(旧ツイッター)への投稿。「スキットルズは、あなたの子どもたちをBLM(ブラック・ライブズ・マター)やLGBTQ+の活動家にしようと画策している」

こうした偏見や偽情報に基づくナラティブがブランドに被害を及ぼす事例が、最近多発している。主なターゲットになっているのは、LGBTQIA+のコミュニティー。ビールブランド「バドライト」のキャンペーンもその一例だ。トランスジェンダー女性でインフルエンサーのディラン・マルバニー氏と協働、同氏の顔を描いた特製缶を発売しようしたところ、激しい反発が起こり、キャンペーンは中止に追い込まれた。

また、「トランスジェンダー用の水着が子ども向けに販売され、邪悪なメッセージを送っている」といった根拠のない主張も拡散し、LGBTQIA+向け商品が槍玉にあがった。

キャンペーンのナラティブが曲解され、ソーシャルメディア上で拡散してしまった場合、ブランドはどう対処すればいいのか。

「プレスリリースなどの情報をソーシャルメディアで公開した瞬間から、ブランドは世間の反発を覚悟しなければならない」と話すのは、アルファアドバイザリーグループでコーポレートリレーション担当パートナーを務めるデイブ・デュシェーヌ氏だ。「最悪の事態を想定し、それに対する声明も用意しておかねばなりません」

風評被害を沈静化するのは簡単ではない。時に、ブランドの公式発表が事態をさらに悪化させてしまうこともある。

なぜ、今?

反発を浴びたスキットルズのパッケージには、様々な人種・民族の人々がスケートボードを楽しむ姿が描かれていた。その背景のスケートボード場のグラフィティには、「Black trans lives matter(黒人トランスジェンダーの命も大切)」というメッセージが。リブズは、「パッケージにはドラッグクイーンが描かれており、スキットルズは一線を超えた」と主張した。

パッケージに描かれた6人のキャラクターは、実際にはジェンダー不明だった。同社プレスリリースは、「この商品は7月中旬で販売を終え、店頭からすでに撤去された」と記す。

だがキャンペーンがどれほど以前のものであろうと、オンライン上では常に批判のターゲットとなる。「来年に近づいた大統領選挙がこうした状況を悪化させている」と話すのは、インターブランド社でブランドインテグリティ・倫理の責任者を務めるクリス・ナーコ氏だ。「誰に投票すべきかという政治論争が白熱すれば、過去のキャンペーンがさらに掘り起こされる可能性があります」

「4年に1度の大統領選挙は米国の良い面と負の面を際立たせる。ソーシャルメディアに関しても同じことが言えます」

いずれにせよ、政治色の強いマーケティングキャンペーンは人々の話題に上りやすい。「政治的テーマは白黒はっきり示してくれる方が、大衆にとってはわかりやすい。ゆえに政治家は『グレー』な表現をせず、論点を大げさに語り、単純化してしまうのです」

特にオンライン上のコンテクスト(文脈)は国内外を問わず、都合よく解釈・引用されやすい。もちろんそれはキャンペーンの時期も問わない。そしてソーシャルメディアのヘビーユーザーは、一つひとつのメッセージを精査するようなことは決してしない。

「一般の人々は日常に追われ、事実を丹念に調べ上げるようなことはしない。それゆえ虚偽情報や的はずれの非難が、時に事実よりもはるかに広く拡散してしまうのです」

ブランドは偽情報を正すべきか

キャンペーンやサービス、パートナーシップの主旨がオーディエンスによって無視されたり、意図的にねじ曲げられたりすることはブランドにとって大きな痛手だ。そうした事態が起きれば、ブランドはまず公式発表をして偽情報を正そうとするだろう。

だがこの数カ月間、反LGBTQIA+の人々から非難を浴びたブランドのほとんどはそうしようとしなかった。

ナーコ氏は、「偽情報を常に正す必要はない」と説く。「偽情報にむやみに反応すると、相手側が報復的措置を取り、事態が悪化することもあり得る。そうなれば時間と労力の無駄になります」

デュシェーヌ氏も、「1つの情報が真実か否かという議論は大抵の場合、徒労に終わる。大衆は自分が信じたいと思うことを信じます。そうした人々の信念をツイートやインスタグラムの投稿、ニュースリリースなどで変えることはほぼ不可能」と話す。

時に他者と異なる意見をブランドに対し持つ人もいるが、「結局は自分が聞きたいと思っている意見を取り入れているだけ」とナーコ氏。

ブランドが偽情報を正そうとしても、そうしたニュースは偽情報が広がる時のようにセンセーショナルには伝わらない。「ブランドの発表はニュースのネタになりにくいのです」

「そうしたことを踏まえ、どういう時に正しい意見を主張せねならないか、十分に考慮する必要がある。些細なことは受け流し、むやみに騒ぎ立てないことが最善の選択になることもあるのです」

最善の選択とは

では、どういう時にブランドとしての立場を明らかにせねばならないのか。「例えば、小売パートナーやその従業員がハラスメントにあった時。ただし生半可な公式発表は、往々にして事態を長引かせるだけ」とデュシェーヌ氏。

メッセージを効力あるものにするには、「省略や誤用がしにくいものにすること」。こうした騒動に関わる際には、「なぜメッセージを発しなければならないのか、なぜこのタイミングなのかといったことを強くオーディエンスに伝えねばなりません」

ブランドが政治的テーマに巻き込まれるケースは、特に今年になって増えた。政治的テーマはブランドにとってコアバリュー(本質的価値)ではない。ゆえにブランドは一様に静観する姿勢を取った。

「メッセージが偽善的に伝わったり、誹謗中傷を受けたりする可能性がわかっていれば、ブランドはそれに対する準備をしておかねばならない。テーマの本質からはずれた議論が起きれば、受け流せばいいのです。放っておけばやがて沈静化しますから」とナーコ氏。「信ぴょう性のない問題に立ち向かうことは、マーケティング的に無意味です」

オンライン上で議論が白熱したら、「行動を起こす前にステークホルダー(利害関係者)のことを考えるべき。その方がよほど大切」というのはデュシェーヌ氏。投資家だけでなく、従業員や顧客、小売パートナーを慮るのは極めて正しい考え方だろう。彼らに向けて丁重なメッセージを送ることは、最も重要な要素かもしれない。

「ソーシャルメディアのような公的チャネルのエンゲージメントだけでなく、個々のステークホルダーに直接届くチャネルが多数あることを忘れてはなりません」

「こうした状況下のコミュニケーションは常に目的主導型でなければならない。あなたが目指しているのは中傷する人々の考えを変えることなのか、それとも支持者のエンゲージメントを強固にすることなのか。目的に応じたコミュニケーションを取るべきです」

また、曲解されたナラティブを正すなら、「会社の法務、マーケティング、経営陣が一丸となって事前に対策を練っておくことが重要」とナーコ氏。

さらに、伝えたいナラティブがすでに全く機能していないのか、コアな消費者がオンライン上の議論にうんざりしていないかといった点も考慮すべきだろう。

「オーディエンス次第で、ナラティブは100通り考えられます」とデュシェーヌ氏。「目的を見失わず、支持者のサポートを優先して行動すれば、伝わるべきナラティブは必ず伝わる」

最後にもう1つ。これまであなたのブランドは特定のグループから誹謗中傷を受けたことがあるだろうか。もしないのなら、偽情報に対抗する意味はないと言っていい。

(文:ベイリー・カルフィー 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign US

関連する記事

併せて読みたい

4 時間前

クリエイティブマインド : メリッサ・ボイ(MRMジャパン)

気鋭のクリエイターの実像に迫るシリーズ、「クリエイティブマインド」。今回ご紹介するのはMRMジャパンのシニアアートディレクター、メリッサ・ボイ氏だ。

4 時間前

世界マーケティング短信: TikTok米事業、売却か撤退か?

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

12 時間前

ブランドがパロディー動画に乗り出す理由

エンターテインメント要素のあるストーリーテリングは、消費者からの注目を集めると同時に、ブランドに創造的な自由を与える。

13 時間前

生成AIは、eメールによるカスタマーサポートをどのように変えるか

従来のチケット管理システムでは、現代の顧客からの期待に応えられない。企業はAIを活用してeメール戦略を洗練させ、シームレスな顧客体験を提供する必要があると、イエロー・ドット・エーアイ(Yellow.ai)のラシッド・カーン氏は主張する。