Emily Tan
2017年3月09日

上場したスナップ、その真の評価とは

広告収入が堅調なスナップチャット。だがその一方で損失は拡大し、ユーザー数の伸びは鈍化している。果たして専門家は、その実力をどのように見ているのだろうか。

上場したスナップ、その真の評価とは

写真・動画の共有アプリ「スナップチャット」を運営するスナップ社が、ニューヨーク証券取引所に株式を上場した。米国のソーシャルメディア企業としては久しぶりの大型上場になる。だが、同社の株価が今後フェイスブックのように推移するのか、あるいはツイッターのような道を辿るのか − 投資家たちの意見は分かれている。

創業者のエヴァン・スピーゲル氏は、先月行われたロードショー(上場前の投資家説明会)で投資家たちから厳しい質問攻めにあった。同社が当初250億米ドルだった公募価格をやや控えめな195〜222億米ドルに引き下げたことが、その厳しさを物語っている。

スナップチャットはデイリーアクティブユーザー(DAU)数が1億6100万人、昨年の年間売上高は前年の7倍に相当する4億400万米ドルだったことを発表した。同社はIPO(新規株式上場)の目論見書の中で、「売上高は実質的に全て広告収入」であると述べ、スポンサードレンズやジオフィルター、「ブランドストーリー」といった機能をその例に挙げた。

だが投資家が注目したのは、前年比で50%近く増加した5億2200万米ドルの損失と、2016年第4四半期のユーザー数の伸びが3%にまで落ち込んだことだった。

企業価値評価のコンサルティングを行う「ブランド・ファイナンス」は、スナップチャットのブランド価値(運営会社のスナップとは切り離したもの)はせいぜい17億ドルと見積もっている。売上高が比較的小さく、まだブランド力が十分に顕在化していないのがその理由という。

それでもこの評価額は高め、と言うのは同社ディレクターのロバート・ヘイ氏。「この額は年間成長率38%(5年で35億米ドル)という楽観的な予測値と、収益性が改善して黒字転換することが前提になっています」。

スナップの懸念材料はほかにもある。「スナップチャット上で広告主が展開するキャンペーンは透明性を欠いている」と語るのは、出前注文サイト「ジャスト・イート」の英国マーケティング・ディレクター、ベン・カーター氏。「ユーザーへの広告表示が保証されているとはいえ、広告効果は分かりにくい。せいぜい売上高が測定できるくらいで、広告がどのような費用対効果を生むかまでは把握できません」。

スナップチャットの中心的ユーザー層は35歳未満だ。今後、より上の年齢層に拡大していけるのかという課題もある。

さらに、フェイスブックとの競争も激化している。「インスタグラム・ストーリー」や短時間で投稿した内容が消える「ワッツアップ」の新機能「ステイタス」など、スナップチャットと酷似したサービスを同社が立ち上げているからだ。

それでも、スナップチャットの優位性を認める意見はある。英国のモバイル広告エージェンシー「フェッチ」でロンドンのマネージングディレクターを務めるジョー・サザーランド氏は、「スナップチャットの広告は一目置かれていて、『受身』ではない斬新さがある」と言う。消費者行動の分析を行う「ヴァート・アナリティクス」も、スナップチャットはユーザー保持率が高く、使い始めるとやめにくい点を評価する。

様々な見方が混在するが、要は「時間」との勝負だろう。フェイスブックが2012年に上場したとき株価は38米ドルだったが、6カ月で半分に下がった。その後事業を多角化し、現在は130米ドルを超えている。対照的に、2013年に上場したツイッターの株価は26米ドルから一時2倍にまで上昇したが、現在は16米ドル近くまで落ち込んでいる。

(文:エミリー・タン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)

提供:
Campaign UK

関連する記事

併せて読みたい

1 日前

世界マーケティング短信:Cookie廃止の延期、テスラの人員削減

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

2 日前

大阪・関西万博 日本との関係拡大・強化の好機に

大阪・関西万博の開幕まで1年弱。日本国内では依然、開催の是非について賛否両論が喧しい。それでも「参加は国や企業にとって大きな好機」 −− エデルマン・ジャパン社長がその理由を綴る。

3 日前

エージェンシー・レポートカード2023:カラ

改善の兆しはみられたものの、親会社の組織再編の影響によって、2023年は難しい舵取りを迫られたカラ(Carat)。不安定な状況に直面しつつも、成長を維持した。

3 日前

私たちは皆、持続可能性を前進させる責任を負っている

持続可能性における広告の重要性について記した書籍の共著者マット・ボーン氏とセバスチャン・マンデン氏は2024年のアースデイに先立ち、立ち止まっている場合ではないと警告する。