Gideon Spanier
2023年9月14日

目指すは「早急な改革」:電通グループ・五十嵐社長

電通グループの五十嵐博・代表執行役社長CEOが初となる海外メディアのインタビューに応じた。改革への意欲やM&A、「クライアント・ファースト」などについて語る。

目指すは「早急な改革」:電通グループ・五十嵐社長

「こう見えても、走るのがかなり速いんですよ」。大のバスケットボールファンだという五十嵐氏は、かつて社内のバスケットボール部に所属していた。

ポジションはポイントガード。つまりコート上ではオフェンスの中心として、司令塔の役割を果たす。42歳でアキレス腱を痛めるまで現役を続けた。

それから20余年。63歳になった同氏は、CEO就任後初となる海外メディアの取材に電通のロンドンオフィスで応じてくれた。その印象は礼儀正しく、温厚だ。弊誌のために富士山が描かれた扇子のプレゼントまで用意してくれた。

エージェンシーグループとして世界第4位、従業員7万2000人の規模を誇る電通グループ。同氏は現在、その早急な組織改革に取り組んでいる。その課題とは何か。また将来の計画は。そして、2030年までに海外企業からの収益を倍増させる目標をどう達成するのか −− 通訳を介し、様々な質問に答えてくれた。

「現在のように競争が激しい時代には、改革を迅速に実行することが極めて重要です」。電通は今年、ライバルグループに続いて第2四半期(4−6月期)の決算を発表した。ライバル企業はいずれも今年の業績予想を下方修正。クライアントのテック分野における予算削減、デジタル変革の減速が要因だ。

電通は2025年までに、カスタマートランスフォーメーション&テクノロジー(CT&T)の収益を全体の50%に引き上げる目標を掲げる。残りの50%はメディア(海外では今までの重要な柱)とクリエイティブだ。

AI(人工知能)による新たな時代が始まり、早急な変革の必要性を説くのは当然だろう。だが、日本の企業は意思決定に慎重なことで知られる。それゆえ五十嵐氏が「迅速さ」を唱えるのは注目に値する。

電通は1901年に創業、120余年の長い歴史を誇るが、海外事業をスタートさせたのはわずか10年前。英イージスグループを約50億ドルで買収したことに端を発する。

五十嵐氏は新潟大学経済学部を卒業し、1984年電通(現電通グループ)に入社。以来、電通ひと筋で歩んできた。だが海外では無名に近い存在だ(英語は話さないが、多少の理解力はある)。

キャリアのスタートは国内営業。その後営業局長に昇進し、クライアントとの関係強化を担った。フォルクスワーゲンやグッチといった海外ブランドも担当したという。

2018年に取締役執行役員に就任すると、2021年には取締役社長執行役員に。2022年、現職に就いた。

同年には海外事業を取り仕切る電通インターナショナルのカリスマ的CEOウェンディ・クラーク氏が離職、業界に衝撃が走った。クラーク氏がオムニコムから入社後、わずか2年のことだった。

One Dentsuの推進

電通はコロナ禍以前から「One Dentsu」戦略を掲げ、国内外事業の統一を模索。2020年に始まった再編で、傘下のエージェンシー約160社は6社に統合された。

クラーク氏の離職は、統合をより積極的に推進し、海外クライアントを獲得しようという五十嵐氏の方針を物語る。

イージスグループ買収後、電通イージスネットワーク(DAN)と称していた電通インターナショナルは2022年末に1つの事業部門・ブランドとなり、2事業体制は「発展的に解消」された。

現在は「ワン・マネジメント・チーム」によるグローバル経営体制に移行、4地域制 −− 米州、APAC、EMEA(欧州、中東、アフリカ)、日本 −− で運営される(売上高は米州が全体の29%、APAC9%、EMEA20%、日本42%)。目的はクライアントに対して「マーケティング、テクノロジー、コンサルティングといった総合的サービスを提供する」ことだ。クライアントにはアメリカン・エキスプレス、マイクロソフト、カールズバーグ 、P&G、ボーダフォンといった世界的企業が名を連ねる。

五十嵐氏自身も今年は海外での活動が増え、ニューヨークやシリコンバレーを複数回訪問。主要クライアントやテック企業とのミーティングに臨み、6月には初めてカンヌライオンズに参加した。

「世界の広告業界が集う場で電通の存在感を示すことは重要。弊社はB2B2S(ビジネス・トゥ・ビジネストゥ・トゥ・ソサエティー、社会に広く好影響を及ぼすB2Bのサービス)に事業をステップアップさせる責任を負っていますので」

また、従業員の幸福と多様性にも注力する。「この課題は、クライアントとの間に信頼と愛情を育むのと同様に重要」

ロンドンで行われた「ノーススター・アワード」の授賞式にも出席。これはグループ内の優れたクリエイティブを選ぶイベントで、五十嵐氏は多くの従業員との交流を楽しんだ。「授賞式の雰囲気は、さながらハリーポッターのホグワーツ魔法魔術学校のようでした」。また、ささやかなことながら近しい同僚は同氏を「イガラシサン」ではなく、「ヒロ」と呼ぶ。

こうした事実も、電通をよりオープンでインクルーシブな企業に変え、欧米のライバル企業と世界の舞台で渡り合っていこうという同氏の心の内の表れか。

では、電通という企業をどう捉えたらいいのだろう。世界の4地域を治める、あくまでも日本の企業なのか。それとも、真の意味でグローバル企業なのか。

「私が目指すゴールは真のグローバル企業です。全ての事業が日本を中心に動くような企業にするつもりは毛頭ない」

今の電通では、日本人以外の役員が「グローバルビジネスで重要な役割を担っている。これまでになかったことです」。チーフファイナンシャルオフィサー(CFO)のニック・プライデー氏やゼネラルカウンセルのアリソン・ゾルナー氏などのことを指す。

幹部の離職

One Dentsuの推進は理にかなったことだろう。だが現実はひと筋縄ではいかない。

2021から22年にかけての着実な業績回復の後、オーガニック成長率は今年第1四半期(1〜3月期)に1.6%、第2四半期に4.7%減少した。主要因は米州とAPACの不振で、五十嵐氏は業績予想を2度下方修正せざるを得なかった。

海外の幹部クラスの人材も離反した。オムニコムからグローバルチーフストラテジーオフィサーとして迎えるはずだったアレックス・ヘス氏は、直前になって入社を撤回。グローバルチーフクリエイティブオフィサーのフレッド・レブロン氏、米州CEOのジャッキー・ケリー氏も離職。最近では、電通クリエイティブEMEA CEOのジェームス・モリス氏が8月末をもって離職した。

五十嵐氏はこうした事態をどう捉えているのだろうか。One Dentsuは大きな混乱をもたらしているのではないか。だが、「全ては計画通りにうまく行っています」という答え。

「クラーク氏やレブロン氏、ケリー氏には非常に感謝しています。皆、素晴らしいレガシーを社内に残してくれた」

「ウェンディ(・クラーク氏)は社会的影響力という点で弊社に多大な貢献をしてくれた。彼女とは素晴らしい時間を共有しました。フレッドとは昨年の電通クリエイティブの立ち上げの際、共に汗を流した。非常にエキサイティングな経験でした」

そうは言っても、主要幹部の離職はやはり良いニュースではない。特にケリー氏が6月に去ったことは社にとって痛手だったはずだ。

同氏は米州CEOとしてだけでなく、クラーク氏が去った後のグローバルチーフクライアントオフィサー(CCO)としての役職も担った。だが電通の戦略の方向性には懐疑的だったようで、結局はそれまで在籍していたインターパブリックに復職した。

この件に関して五十嵐氏は直接的には答えず、「新たなCCOを探す」とだけコメント。海外でクライアントを獲得するため、電通にはさらなる人材が必要であることを暗に認めた形だ。クラーク氏の後任として、米州CEOにはマイケル・コマシンスキ氏がすでに就任している。

海外クライアントの獲得

電通には日本だけでなく、世界市場で大口クライアントを獲得できる人材が必要だ。だからこそ海外での人材流出は大きな課題となる。

電通は以前、1億ドル規模の新規事業獲得を目標に掲げた。だが最近の業績を見る限り、決してうまく行っているとは言えない。既存のクライアントでもコカ・コーラやファイザーといった大手企業を失った(前者はWPP、後者はインターパブリック、及びピュブリシスと契約)。

「事業規模だけを追い求めるのが目標ではない」と五十嵐氏。「クライアント・ファーストを徹底し、クライアントの中長期的成長をサポートできるパートナーになることが本来の目標。それが結果として弊社に成功を導く」。その裏付けとして、世界の広告主トップ100社のうち95社をクライアントに持つ実績を挙げる。

One Dentsu の意味は、1つのグローバルチームとして機能すること。「海外のスタッフは、クライアントと長期的関係を築く日本的アプローチから学べることがあるはず」

確かにそれも一理ある。特に日本国内の電通で40年もの間働いてきた同氏にとって、こうしたアプローチは大きな意味を持つはずだ。だが、必ずしも全てのクライアントが長期契約を好むわけではない。

「今電通で起きている組織改革や合併、経営陣の入れ替えなどが、将来的クライアントに二の足を踏ませている。クリエイティブの提案にも懐疑的になるのです」。こう話すのは、エージェンシーとの関係性やピッチに関するコンサルティングを行う「オブザーバトリー・インターナショナル」のマネージングディレクター、ルシンダ・ペニストン・ベインズ氏だ。

「予算の縮小で、今のエージェンシーには業務の効率化が求められている。その上、クライアントに提供するコミュニケーションには最大の効果が求められます。こうした状況はエージェンシーにとって短期的な支障になるでしょう」

イージスの統合

証券アナリストも、現在の電通の状況に疑問を呈する。「長期にわたる海外事業の低迷と、過去数年における傘下エージェンシーの再編。これは電通特有の課題である」。バークレイズ証券の投資銀行部門は、5月に発表した調査報告書でこのように記した。

この指摘は新たな問題点をあぶり出す。今、筆者がいるのはDANの元本社だ。電通はDANの統合に時間を掛けすぎたのではないか。イージス・グループの買収は2013年に完了した。日本の本社と傘下の海外エージェンシーは、10年もの間別々に機能していたことになる。

「確かに、ここまで来るのに10年かかったかもしれません。しかしひとたび決定が下されれば、迅速に行動します」。そして念を押すように繰り返す。「結論は下されたのです」

「One Dentsuへの移行は、クライアントにとっても電通にとっても最大の利益になる」

「クライアントの立場から見て極めて重要なのは、我々が1つになって力を結集するということ。『海外事業』『日本向け事業』といった仕分けはもはや通用しません。総合力を結集しなければ、ライバルとの競争には勝てない」

「それゆえ私は決断を下した。これは全社的決断でもあります。我々は今後、極めて迅速に行動しなければならないし、そうしていくつもりです」

すでに2019年から20年にかけて、海外事業では2つの大規模な構造改革と人員削減が行われた。組織の簡素化はさらに進んでいくだろう。

内なるバリアの打破

今夏初め、五十嵐氏は最高幹部に向け、「内なるバリアを取り除き、クライアントへの対応をより組織的に行っていかねばならない」と語った。

複数の部内者は、電通はマトリックス型組織(常時組織された部門別組織と、期間を区切ったプロジェクト型組織が併存)で、依然レイヤーが多過ぎると指摘する。サイロ化の打破は、理にかなった指示なのだ。

グローバルエージェンシーブランドは現在6つ。カラ(Carat)、Dentsu Creative、dentsu X、アイプロスペクト(iProspect)、マークル(Merkle)、そして3月に買収した英コンテンツプロダクション「タグ・ワールドワイド」だ。

包括的なグローバルサービスラインは3つ。クリエイティブ、メディア、そしてCT&T。責任者はクライアント、国内、インターナショナル、グローバル担当に分かれる。

クライアント・ファーストとは、「一切の制約を取り払い、あらゆる機能に通じるソリューションを実現する」ことで、「クライアントにより多くの価値をもたらすこと。それが私の目指す変革の方向性です」

具体的に言うなら、クライアントのP&L(損益)をより重視してサービスを提供していくことなのか。

「その通りです。クライアントのP&Lを戦略の中心に据える。サービスラインにおけるP&Lがクライアントや弊社の成長を妨げるようであれば、直ちに改善します」

この改革はすでに米国で兆候を見せている。コマシンスキ氏は親会社や将来的なクライアント、エージェンシーブランドをより重視し、「市場での展開をスピードアップする」業務改善を行った。

個々のエージェンシーブランドは「それぞれが専門性を持ち、今も特別な存在」という五十嵐氏。クライアントが統合的アプローチを求める場合は、「親会社の電通が力を発揮する」

改革の一環として、「電通ブランドの強化とブランドエクイティー(資産価値)の向上にも取り組みたい」。それにはライバルである「オムニコムのアプローチが参考になる」とも。

「謙虚さ」が仇に?

「グローバル市場における電通のポジショニングをより強化していきたい」とも語る五十嵐氏。それとは対照的に、圧倒的シェアを誇る日本国内でのアプローチは控え目だ。

「日本の電通はややもすると自社を過小評価する傾向があり、ジャーナリストへのアピールも消極的だ」 −− このインタビューの前、筆者の同僚のジャーナリストはこのように語った。

こうした評価はどう思うのだろう。五十嵐氏は笑みを湛え、「それは違います」とひと言。「スパイクスアジア(カンヌライオンズの地域版フェスティバルで、弊誌を発行するヘイマーケット社が共同主催)で常に好成績をあげていることが、そうでないことを表しています」

同氏が電通をより能動的、かつ外向的な組織にしようとしていることは間違いない。カンヌでは電通が貸し切ったビーチで、スーツを脱ぎ捨て、カジュアルなファッションに身を包んだ五十嵐氏の姿があった。これもそうした意欲の表れか。

カンヌに行ったことは様々な理由から「意義深かった」。「新しいネットワークの開拓やクリエイティブの現況のチェック、クライアントやメディアパートナー、世界各地に点在する幹部との直接的な接触……こうしたメリットはもちろんですが、それ以上の意義がありました」

「今業界は一丸となって、インクルージョン(包摂性)から気候変動対策に至る大きな社会的課題に取り組んでいる。弊社も責任を持ってその一翼を担っていかねばならない。そうした影響でカンヌライオンズも変わり始めています」

五十嵐氏の話はあたかもチーフマーケティングオフィサー(CMO)のようだ。CEOもCMOの役割を果たし、「クライアントからの愛情」を育むべきなのだろうか。

「そうあるべきだとは思いませんが、私はクライアントと積極的に会い、弊社のサービスについて説明をする。そういう意味では、CMOの役割も果たしているのでしょう」

「電通に対する愛情」についてもっと詳しく尋ねてみよう。「もちろん、クライアントから愛されるに越したことはありません。しかし一方通行はあり得ない。あくまでも相互作用で、我々も同様にクライアントを愛さなければならない。企業として愛されるというのはそういうことです」

企業文化の改善

電通は東京五輪をめぐる談合事件で起訴された。企業評価の改善が必要なことは五十嵐氏も十分理解している。

外部有識者で構成された調査検証委員会は、6月に公表した報告書の中で電通の企業文化の様々な面を批判した。「過剰なまでに『クライアント・ファースト』を偏重する」といった点だ。

五十嵐氏はコンプライアンスや透明性、リスクの観点から必要な改善を行うと明言。「報告書を尊重し、確実に措置を講じるよう全力で取り組んでいます」

一部のクライアントとの関係性についても批判を受けた。だがクライアント・ファーストの姿勢は、「間違いだったわけではない」

企業文化の改善は他の面でも欠かせない。透明性向上の兆しではあるが、今年の電通の統合レポートはいじめやハラスメント、不正などの問題に関する内部通報件数が昨年の2倍以上に増えたと記す。

「社員の健康と幸福ほど大切なものはありません」

日本の企業は長時間労働で知られてきた。電通でも問題となったが、従業員をサポートする試みと、利益率向上のバランスはどう取っているのか。たとえば、同社は約1万人分の業務をインドなど低コストの国に移転させた。だが今は、「オフショアリング」という言葉について話すのを避けようとしている感がある。

「業績は重要ですが、注力しているのは利益率よりもオーガニック成長率です」。それでも電通は、売上高が鈍化してもマージンは増えると投資家に強調してきた。

「弊社は有形のモノをつくる会社ではないので、鍵となるのは人材の成長と育成です」

海外事業の売却

電通は全力でグローバル戦略に取り組んでいるかのように見える。それでも一部の業界関係者の間では、同社が海外事業を売却するのではという憶測がある。

Campaignのコラムニストでロンドンで金融アナリストを長年務めるイアン・ウィテカー氏は、そうした内容の記事を弊誌に寄せた。ただし同氏は電通を取材したわけではなく、売却の証拠をつかんだわけでもないと記している。

この記事について五十嵐氏はどう思ったのだろうか。「あれはイアンの個人的意見や考えで、我々への取材に基づいたものではありません」

「売却は全く考えたことがないし、今も考えてはいない。ひとえにOne Dentsuの推進に注力しています」

質問を変えてみよう。今後、巨額の買収を行う可能性はあるのだろうか。あるいはIPGや、ヴィヴェンディ傘下のハヴァス(主要株主であるヴァンサン・ボロレ氏は、かつてイージス・グループの株式を大量に保有)といった大手広告グループとの大規模合併はあり得るのか。

五十嵐氏は完全には否定しなかったが、「電通に1億ドルクラスのクライアントが必要か、と問われているようですね」と返す。

「事業の大規模化は最終目標ではありません。追求するのはあくまでもクライアント・ファーストの姿勢。弊社の規模が自然と大きくなり、その上で商談が成立するのであれば、そういうことも起こり得るかもしれません」

また、「買収や提携の可能性はあるかもしれない。我々の能力を独自の手法で高めてくれる企業があれば、の話ですが」とも。

それでも、「会社や事業規模の拡大だけを目的に何かを追求するようなことはありません。現時点でそうした考えはない」

電通の2023年上半期のオーガニック成長率は、大手エージェンシーグループの中で最も低かった。底を打ったと推測する投資家もいる。

英・投資ファンドでWPP株の5%を保有するシルチェスター社は、電通の株式保有を6%に引き上げた(7月、関東財務局に提出された報告書より)

また、バンク・オブ・アメリカは8月のアナリストノートで、「電通は2023年下半期以降に回復の兆しが見られる」と記した。それを牽引するのは国内事業の成長の加速、収益に占めるCT&Tの比率拡大、ボルトオン買収(事業拡大目的の投資)による「将来的なM&Aの可能性の高さ」だという。

調査会社エジソン・グループのディレクター、フィオナ・オーフォード・ウィリアムズ氏は、「電通は非常に興味深い企業ですが、つい見過ごされがち。国内外事業の最善の要素を一つにできれば、大きな力を発揮する可能性があります」。

「One Dentsuのコンセプトの下、全てをまとめ上げるのは抜本的構造改革で、一大事業。しかし五十嵐氏以下の幹部は、実現のための課題をよく理解しているように思います」。

財務や為替コストの削減、さらに汐留本社ビルや保有株式の一部売却などで利益はすでに出しており、「経営陣の考え方が日本の典型的アプローチから脱却したことを示唆する」とも。同氏は最近、調査メモの作成にあたってプライデイCFOとやり取りを交わした。

人材面に関しては、「変革の規模が大きいため、全員を社内に残すのは困難だったはず。それでも経営陣は米国と中国、インドの新しいリーダーに非常に満足しているようです」とも。

後継者の育成

ライバルの大手エージェンシーグループでは何年も、あるいは何十年もトップの座に君臨する者がいる。五十嵐氏は長年の電通勤務ですでにコミットメントを示しているが、どのくらいの期間トップを務めるか明言していない。

「社内の新ルールで私が続投するか否かは、毎年開かれる指名委員会の決定次第です」

五十嵐氏は代表執行役という役職を嬉々としてこなす。「同僚とともにクライアントの新しい価値を創造することは、私にとって大きな幸せ。実にやりがいがあります」

未来のリーダーや後継者を十分に確保し、幹部へ引き上げるのも極めて重要な役割だ。

グループ内には「トップレベルにステップアップできる、才能ある人材が数多くいる」。だが、むしろこの点が電通の弱点だと捉える部内者やライバル企業もいる。海外人材が流出し、社内の身近な者だけを昇進させるようなことは続けられないだろう、と。

電通の取締役会議長を務めるのは、かつて電通イージス・ネットワークを率いていた米国人のティム・アンドレー氏だ。同氏は日本語に堪能。では、日本出身ではない人物がCEOに選ばれる可能性はあるのか。「非常に高いですね」と五十嵐氏。

電通の司令塔は、今も時間のある時にバスケットボール観戦を楽しむ。だがチームを動かし、何よりも得点を上げるためには成すべきことがたくさんある −− 超高層ビルのオフィスに座る五十嵐氏は、そのことを十分理解しているに違いない。

(文:ギデオン・スパニエ 翻訳・編集:水野龍哉、田崎亮子)

 

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