Anupama Sajeet
2024年1月18日

「自動車業界のクライシスの90%は予測可能」 日産自動車 ラバーニャ・ワドゥガウカル氏

日産自動車のグローバル・コミュニケーション本部バイスプレジデントが、デジタル時代における炎上やコミュニケーション危機への機転を利かせた対応方法、DEIの推進などについて見識を示した。

「自動車業界のクライシスの90%は予測可能」 日産自動車 ラバーニャ・ワドゥガウカル氏

* 自動翻訳した記事に、編集を加えています。

「学生時代には、自分が実業界に入るとは想像もしていませんでした」。現在、日産自動車(本社:神奈川県横浜市)のグローバル・コミュニケーション本部でバイスプレジデントを務めるラバーニヤ・ワドゥガウカル氏は、インド訪問時に行われたCampaign Indiaのインタビューにこのように語った。

ワドゥガウカル氏は博士号と修士号を取得しており、特にインドにおける映画言語に焦点を当ててきた。クリエイティブアートと映画の分野で長い歴史を持つ家系の出身だという。

2000年初頭に企業に転じるまでは、オール・インディア・ラジオ(All India Radio)でラジオドキュメンタリーの国内賞を2つ受賞するなど、学術とクリエイティブの両分野で活躍してきた。以来、振り返ることなく長年の経験を積み、日産自動車のグローバルコミュニケーションやDEI(多様性、公平性、包摂性)を推進している。同氏のリンクトイン(LinkedIn)の自己紹介欄には「私がなぜその席にいるかではなく、私がどのように貢献するかが重要」と書かれている。

2012年に日産に入社して以来、ワドゥガウカル氏はインド、アジア、オセアニア、日本でさまざまなリーダーシップをとってきた。

ソーシャルメディアの時代におけるタイムリーかつ適切なクライシスコミュニケーションの重要性や、世界的な自動車会社である日産のDEIの取り組みなどについて、詳しく語った。

多様な市場への対応

自動車メーカーが多様な市場に対応しながら、グローバルコミュニケーション戦略の一貫性を維持するという課題について、ワドゥガウカル氏は次のように語る。「一貫性という言葉はコミュニケーションには当てはまらないため、一貫性の維持は常に課題です。特に今日の世界は文化や人々が多様で、感情も言語も異なるため、市場ごとにカスタマイズ可能でなければなりません。すべてが異なるのです」。

これに対応するには、一貫性と企業としてのナラティブ(物語)が重要だと説く。

「一貫性とは、企業全体のメッセージングという意味においてのみ適用されるものです。企業のナラティブとは、企業が継承してきた伝統や歴史、さらに事業と常に一致するもの。この企業のナラティブを取り入れるのが、グローバルコミュニケーションの仕事です。企業のナラティブを市場ごとにどう表現するかは、ローカルレベルで取り組むべき仕事。両者は絶妙なバランスをとっており、グローバルコミュニケーションが主導して地域や市場ごとに拡大させるものもあれば、地域や市場が主導してグローバルに展開するものもあります」。

文化が異なっても人々が同じような感情を抱き、世界中でぴたっと合致する事柄もあると、ワドゥガウカル氏は強調する。

その例として多様性やインクルージョン(受容)、あるいは人々の車に対する好みや、人々が信頼を置く企業などを挙げた。「これらについては、あまり違いが生まれません。ですからグローバル戦略を立てる際に、視聴者が何を求めているかという点で、まさにこのことを念頭に置いています。視聴者をさまざまなカテゴリーに分類し、それぞれの視聴者に合わせて物語をカスタマイズする。大切なのは一貫性ではなく、コラボレーションです」。

各地域の文化的なニュアンスに合わせて、コミュニケーションのアプローチをどのようにカスタマイズするかについて、次のように述べる。「地域や市場ごとに顧客や製品は異なるため、それぞれに合わせたアプローチが必要です。そのため、全商品が全市場で販売されるわけでも、全商品が全市場において同レベルで扱われるわけでもありません。たとえば、日産マグナイトは、インドでしか販売していません。それぞれに合わせて、コミュニケーションを調整しています」。

「財務や持続可能性といった企業経営のトピックは、会社として全力で取り組んでいるため、どこにおいても一貫性があります。会社のパーパス(存在意義)が、すべての指針となっているのです。あらゆるコミュニケーションをつなぐ重要な軸のひとつがパーパスで、これはグローバルレベルで定義されており、会社の価値観でもあります」と主張する。

「そして、企業のナラティブからグローバルでのメッセージングが生まれ、地域レベルやローカルレベルへと展開され、ストーリーテリングへとカスタマイズされていくのです」。

電動化と持続可能性

持続可能性と電気自動車が業界内でますます重視されるようになる中、電気自動車関連のコミュニケーションへの日産のアプローチについて語った。

「電気自動車は私たちの事業の中核でもあるため、現在ではコミュニケーションの中心のひとつ。2050年までにカーボンニュートラルを実現するという日産のコミットメントが、電動化へのコミットメントにつながっています。新型モデルは2030年までにすべて電動化される予定ですが、地域ごとに異なる目標も掲げています。市場ごとに分けてはいませんが、どの地域も電動化の目標を掲げています。しかし、市場レベルとなると規制や顧客が異なるため、話は違ってきます」。

日産は電気自動車で10年以上の経験があり、同社初の100%電気自動車「日産リーフ」は、早くから世界で大々的に発売された量産電気自動車のひとつである。この功績にもかかわらず、日産はまだインドで100%電気自動車を発売していない。

このことについて「まだ発売に至っていない特別な理由はありません。私たちの準備が整い、市場側も準備ができ、なおかつビジネスとして成り立つかどうかです。いくつかの要因が重なっているわけです」。

手が届く電気自動車として発売された「日産サクラ」のインド展開については、「インドに持ち込む計画はまだありません。現時点では日本でのみ販売しています」と明言した。

「サクラはエントリーモデルの軽電気自動車で、日本のユーザーには軽自動車が大人気です。非常に大きなセグメントなので、オーディエンスに合わせてカスタマイズしました」。

しかし同社は今後数年のうちにエントリーモデルの小型SUVタイプの電動自動車をインドで発売する計画があり、2025~2026年には電動ではない2車種も発売予定だという。

インクルーシブな職場環境の醸成

DEIの旗振り役である「グローバルDEIチャンピオン」の役割について、同社は何を期待しているのか。

「DEIは私たちの企業文化の、非常に重要な部分を占めています。社員の国籍が66カ国、幹部の50%以上が外国人である日産は、常に多様性で知られてきました。DEIは人事部門が担うため、私は正式な責任者ではありません。DEIチャンピオンに任命されたのは、従業員アンケートで浮き彫りになった今後の重要な課題に素早く対処するためです。組織としての体系的なプロセスは時間を要するため、小回りのきく小規模なグループが必要でした」。

多様性には、インクルージョンの複雑さも伴う。「両者が両立しないこともある。多様性が高まれば高まるほど、人間的な複雑さも生まれてくる。DEIチャンピオンの最優先事項のひとつは、インクルージョンです」。

ワドゥガウカル氏は、インクルージョンにまつわる3つの大きな課題を挙げる。

「一つ目は、インクルージョンとは何か、そしてどのような役割を果たすのかを人々に認識させることです。というのも、ほとんどの従業員がDEIは人事部門や経営層の仕事だと思っているからです。どのようにすればインクルーシブな企業文化を醸成できるかを考えるにあたって、なかなか自分ごととしてとらえないものです」。

二つ目の側面は、不安や懸念について安心して発言できる「心理的な安全性」だ。「特に日本のように上下関係のある文化では、上司や目上の人について話をしてもらうことは容易ではない」が、奨励していきたいと語る。

そして三つ目は、この課題に対して体系的なアプローチを導入することである。そのため同社は、国連の「女性のエンパワーメント原則」に署名している。

「常に『意図』があり、今日すべての企業が意図を持っています。しかし、この意図を『行動』に移さなければ意味がありません。それがDEIチャンピオングループが焦点を当てていることです」。

また、DEIは多くの企業にとって新しい分野であるため、互いに学んでベストプラクティスを共有し、実践することが必要だと同氏は説く。

日産のグローバルDEIカウンシルは、CEOが議長を務め、各部門・各地域を代表する役員が参加している。また、従業員が安心して話せる場として、従業員リソースグループ(ERG)を設けている。「ERGは世界中にあります。いくつか例を挙げると、米国にはヒスパニック系と黒人系の複数のグループがあります。日本でも新しいERGをいくつか立ち上げました。カルチャーグループ、LGBTQ+グループ、ジェンダーグループ、フェムテックグループなどがあります」。

炎上対応の戦術

コミュニケーション部門のリーダーである同氏は、クライシス(危機的状況)のコミュニケーション対応について、社内外から得た教訓を交えながら語った。

「私がクライシス対応でとても重視しているのは、コミュニケーションと準備です。自動車業界では大方の場合、クライシスの90%は予測可能なものです」。

「特に90年の歴史を持つ企業であれば、すでに経験し乗り越えてきた同様の事例は多いもの。歴史のある企業にとって、水面下で円滑にまわるよう備えておくことは難しくありません。クライシス発生時の情報の流れをどうするか、誰が情報を入手するか、どのように意思決定がなされるか、メディアやステークホルダーに対応するすべての人に訓練が施されているか――。あらゆるシナリオについて情報フローを図にし、明確に定義する必要があります。なぜなら、これらの要因が妨げとなることが多いからです」。

初動の対応は、事態を大きく左右する。「質問を受けたら、連絡がとりやすいようにして対応すべきです。すべての情報や詳細をまだ把握できていないかもしれませんが、会社が問題を『認識し、注視している』ことを知らせることは、安心材料になるため重要です」。

また、自動車業界はほぼすべての出来事を網羅してきたため、起こり得る問題への標準的な対応方法はすでに熟知しており、声明は事前に十分準備することができるという。

「これまでに経験したこともないようなことが、発生することもあります。COVIDや、サプライチェーンマネジメントの問題の発生がその例です。刻一刻と変化していくため、指令室を設け、その問題に取り組むキーパーソンと常に協議していくことが非常に重要です」。

しかしクライシス発生時に重要なのは、会社が信頼の構築に投資してきたかどうかだ。

「いつ何が起こるかわかりません。しかし、信頼性のある企業であれば、いかに危機的な状況であっても人々は好意的に解釈してくれるでしょう。それはクライシスが発生してから行うことではなく、コミュニケーション戦略の一環として行うものです」。

ソーシャルメディア時代のPR

ここ最近、ソーシャルメディア上で落ち度を厳しく非難され、その影響に耐えることを余儀なくされたブランドがいくつかあった。インターネット上で大炎上する前に、コミュニケーションチームとして潜在的な危機にどのように対応し、戦略を調整するべきなのか。「ソーシャルメディアはルールのないゲームです。フェイクニュースが多く出回っており、ネガティブなニュースも多い。ここで重要な要素の一つは、消費者の声を収集するリスニングの力です。適切なソーシャルリスニングツールが必要で、これに関しては妥協してはならない。常時モニタリングが必要で、クライシスが発生すれば急上昇するので1時間ごとに報告書を作成しています」。

ソーシャルメディアにおいても、問題を認識するための標準的なアプローチが肝要だ。

「トロール行為(インターネット上の荒らしや嫌がらせ)にも注意を払う必要があります。トロールを行う人々は論理的でないと思われ、対応がさらなる問題の引き金になることもあるからです。クライシス時に、論理は通用しません。そのため、いつどのように反応するかという感度については、ソーシャルコミュニケーションを扱う人にとって多くのトレーニングが必要です」。

スポンサーシップについて

国際クリケット評議会(ICC)との男子ワールドカップの長期スポンサー契約が2023年に終了した件については、今のところ延長はしていない。

「このワールドカップが、ICCと提携した最後のイベントでした。契約延長については私の権限ではないので、あまりコメントできません。しかし全体としてスポンサーシップはブランドを高めてくれるので、役立っています。戦略は常に変わる可能性がある。それはグローバルで変わることもあれば、特定の市場に起因することもある。だからこそ、見直す必要があるのです。たとえばクリケットのスポンサーになっても、アメリカでは通用しないかもしれません。スポンサーシップは自社のマーケティングと全体的な戦略から決定するものなので、契約を継続するか中止するかは申し上げられません」。

なお自動車業界以外では、日産はインドで期待されたほどの業績を上げていないという見方がある。

この点に関し、ワドゥガウカル氏は「唯一言えることは、この15年間で多くを学んだということ。新たな投資や新型車について発表したので、何が起こるか注視していきます。もちろん、我々はここに留まります」。

 

提供:
Campaign India

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