Matthew Miller
2020年12月18日

企業文化のDEIへの取組みは大聖堂を建設するようなものだ

CAMPAIGN CONNECT:企業文化におけるDEI(Diversity, equity, and inclusion)の向上は四半期ごとにチェックするようなものではない。IPG Mediabrandsのグローバル・チーフカルチャー・オフィサーを務めるハーモン・ガーメイ氏によると、むしろ何世代にもわたる大聖堂の建設プロジェクトに近い仕事だという。

企業文化のDEIへの取組みは大聖堂を建設するようなものだ

IPG Mediabrandsのグローバル・チーフカルチャー・オフィサーであるハーモン・ガーメイ(Hermon Ghermay)氏は、12月8日に開催された「Campaign Connect」において、企業が多様性とインクルージョンを備えた文化を構築するには、十分に考え抜かれた青写真と志の共有、何世代にもわたる長期的な時間のコミットメントが欠かせないと語った。

同氏は「大きな盲点の1つは、文化に生じた問題を四半期や1年という単位で解決しようとしているところだ」としたうえで、「しかし、これらは構造的な問題であり、四半期や年の単位で発生したものではない。つまり、そのような短期的なスパンで解決できるものではない」と言う。

そのため、すぐに結果を出すことを是とする企業にとっては受け入れがたい概念かもしれないが、企業文化を改善したければ、長期にわたってコミットメントを維持しなければならない。「私たちは人間として、考え方を変え、行動を変えるために何が必要なのかを知っている。そして、それには時間がかかることも知っている。私がこの仕事を推進する上で役立ったアナロジーは、大聖堂の建設だ」と、ガーメイ氏は話す。

大聖堂建設のような巨大プロジェクトを引き受けた石工や建築家は、これが自分が生存している間には完成せず、おそらくは数世代かかるだろうということを理解していたはずだ。ガーメイ氏は、「願わくば、我々の仕事はそこまでかからないといいのだが」としつつ、次のように語った。「こうしたものにアプローチするには、それだけ遠大なビジョンが必要になるということだと思う。十分に考え抜かれた青写真が必要だ。そして、長期的な取り組みへのコミットメントや志を共有するということが必要になる。今後何世代にもわたって重要になるであろうものにいま取り組むということであり、ある意味、いつまでも完成を見ない仕事になるだろう。そのことを受け入れる必要がある」

Campaign Asia-PacificとPRWeek Asiaで編集者を務めるインタビュアーのスレカ・ラガバン(Surekha Ragavan)が、ガーメイ氏に対し、企業文化構築プロジェクトをこれから始める企業へのアドバイスを求めたところ、「とにかく耳を傾けることだ。それも、頭だけでなく心でも聞くこと。聞いたことを受け入れること。そしてそれを利用して、より多くの人々が――私たち全員が――話を聞いてもらえる、理解してもらえる、支えてもらえると感じられるようなイニシアチブや場所を構築することが必要だ」と答えた。

ガーメイ氏はさらに、トップダウンのグローバルなアプローチは、企業文化の醸成には適していないと語る。

「(グローバルの)方針をローカライズするということを私は信じない。この分野では、独自の文化的背景にあわせてそれぞれの方針を策定する必要があるだろう。そうしなければ、意味が失われて最小限の効果しか得られないだろう」とガーメイ氏は語った。

企業は自身が築きたいもののために、グローバルなフレームワークを構築するのはよい。「しかし、実施や実行にあたっては、現地の文化のニュアンスや複雑さ、豊かさを考慮する必要がある」とガーメイ氏は言う。

IPG Mediabrandsでは、このプロセスは、すべてのリージョンおよびマーケットのリーダーとのミーティングから始めるようにしている。そして例えば、その地域や文化を代表するような人がちゃんと参加しているか、意思決定の場にいないのは誰か、なぜ参加していないのかを把握することにしているそうだ。

「私は、取り組みの最初の段階で、当社のグローバルCEOとリーダーシップチームのメンバーに、グローバルで単一的な文化を作ろうとするのならば、その時点でその取り組みは失敗だ、と告げた」とガーメイ氏は述べ、「我々には、幸いにも組織ネットワーク全体から見いだされる豊富なアイデアとインサイトがあり、これらを十分に活用し、人とアイデアと機会をつなぐためには、大きな影響を及ぼしうるイニシアチブの向上が必要だ」と語った。

Campaign Connectで話すラガバン氏とガーメイ氏


また、APAC(アジア太平洋地域)は他の地域と同様、「インターセクショナリティ」、すなわち、個人のアイデンティティの様々な側面が重なることで、どのようにして差別や特権のパターンが生じるのかということについて、より注目する必要があるという。ただその上で、これには個人的な観点についても配慮する必要があるのだと補足した。

ガーメイ氏は作家オードリー・ロード氏の言葉を引用し、人生における問題が1つということはないのだから、たった1つの問題だけに苦しむということはあり得ないのだと。彼女の場合、有色人として、女性として、移民として、親としての彼女自身の経験が、人生をその人のそれぞれの側面の総和として捉えることが重要だと証明している、と言う。

「ここでなすべきことは、幾層にも重なり合った幾つものアイデンティティを持つ人々の体験を理解し、その人の持つ単一のアイデンティティだけでその人々を判断しないように、しっかり努力することだと考えている」として、「知性だけでなく感情でも理解し、真に共感することが必要なのだと思う」と述べた

ガーメイ氏の希望は、違いを探究するための心理的な余裕を生み出すことと合わせて、他者への好奇心を持つ文化を構築することだといった。

「この数年で、物事は望ましい状況よりもはるかに分裂が深まっている。大げさに言うと、二極化がかなり進んでいる。各々の違いの中には多くの共通点が存在しており、それらが違いの中に身を隠しているのだと気付いた」とガーメイ氏は言う。同氏が望むのは、違いを称え合うだけではなく、それらのすべての違いが一体となり、人々が共に語り、探究し、意味あるものを構築することができる共通の基盤を見つけることだという。

「人々の間に会話がないと心配になる、というのが率直なところだ」とガーメイ氏は話す。「人々が間違ったことを言うのを恐れるのは苦境にあるときだと思う。特に、クリエイティビティを基盤としてそこに根ざしている我々のような業界だと、そういった状況は本当に深刻で、まるで動きが止まってしまったようだ。耳を傾けることを続けてほしい。そして、語ることを続けてほしい」

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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