Ryoko Tasaki
2018年5月22日

従来の母親像を覆す「マム・ミレニアルズ」

母親たちはエプロンをして、子どものことにかかりっきり――。このような思い込みで、マーケティング戦略を誤っていないだろうか? 「アドバタイジングウィーク・アジア2018」2日目に登壇したマーリー・ハイミー氏が、母親視点のマーケティング活動を支援する電通「ママラボ」について紹介した。

マーリー・ハイミー氏
マーリー・ハイミー氏

「母親像は一つではありません。さまざまなタイプの母親がいます」と提起するのは、電通ハイミー・サイフー(フィリピン)のマーリー・ハイミー氏。「デジタルメディアの発展とともに成長してきたミレニアル世代は、デジタルメディアと強く結び付いています。画面を見つめるばかりで会話しないなどと批判された彼女たちも20~30代の大人へと成長し、その多くが親となりました」。この母親となったミレニアル世代の特徴を、ハイミー氏はいくつか挙げた。

まず、さまざまなソーシャルメディアを操る点だ。特にアジアでは既にフェイスブックでなく、インスタグラムやピンタレストなどに移行している若者が目立つという。

さらに「今では祖父母となったベビーブーマーよりも育児に熱心だが、ジェネレーションXのように過干渉でもなく、バランスのとれている世代」で、独自の育児哲学に基づいて行動しているという。「よくレストランで、母親が幼い子どもを静かにさせるため、タブレットを渡したりしていますよね。その様子に、上の世代たちは顔をしかめたりしますが、泣かせっぱなしにしたりおもちゃを買い与えるより、知育コンテンツを見せる方が子どものためになると彼女たちは考えているのです」

母親になったミレニアル世代は購買力が高く、情報をよく吟味して、マスメディアの情報をうのみにしない。スマートな消費者だが「集中力は金魚よりも短い」とも言われており、マーケターにとって難しいセグメントだろう。セッション内ではいくつかの事例とともに、彼女たちが嫌がることは何かを考察した。

  • デジタルやテクノロジーに疎い」と決め付けられること
    さまざまなSNSを駆使して情報をシェアすることに熱心な世代だが、一方で「つながりを絶ちたい」という願望も併せ持つ。例えば、低体重児の母親はSNSへの投稿を躊躇するという。
  • 心を動かされない、商品の押し売り
    情報の信憑性や真実性について厳しくチェックし、疑わしいものは見ることなくスクロールしてしまう。例えばユニリーバは「泥は良いもの」と謳い、洗剤のグローバルキャンペーンを展開しているが、フィリピンでは子どもの服が泥だらけになることは「母親が子どもをきちんと育てていない」と考えられてしまうため、まずこの意識を変えることが必要だったという。
     
  • きちんとニーズを調べないこと
    似たような広告を、淡々と出し続けていても効かない。ミレニアル世代はクリエイティブなエンゲージメント構築や、新しい顧客体験を常に追い求めている。例えば感染症予防のために固形石けんが20秒間点滅し続けて、正しい手洗いを子どもたちに促すキャンペーンがタイで話題となった。
     
  • 先入観や思い込みで語られること
    アジアの国々では、多忙な母親が狭い台所で料理に悪戦苦闘するよりも、外食が好まれるようになってきている。だが広告の中に登場する母親像は今も、エプロンで料理をする姿で現実感が無い。また「母親業=大変で楽しくない」といったイメージで、ひとくくりに語られることにも抵抗を感じるとのこと。多くの母親が「#MeTime」や「#MoMeTime」といったハッシュタグで、「自分のための時間」を謳歌する様子を投稿しているという。

「ミレニアル世代のママ達の育児哲学は、いかに困難な時期でも子どもの手をとり、成功に向けてアシスト(支援)していくというもの。そしてブランドにも同様に、自分たちをアシストしてくれる存在であってほしいと願っているのです」とハイミー氏。「彼女たちがいつもスマートフォンの画面を見つめているのは、それが役立つアドバイスであり、お得なクーポンであり、人生におけるアシスタントのような存在だからです。このような心理を理解することなく、過去のマーケティングを踏襲しても成功しません。そして彼女たちは、次世代を育てている存在でもあるのです」

(文:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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