Diana Bradley
2020年6月02日

注目ブランド「Zoom」の課題

コロナ禍で一躍脚光を浴びたZoom(ズーム)。同社CMOがマーケティング戦略と安全性を語る。

ジェイニン・ペロシ氏
ジェイニン・ペロシ氏

新型コロナウイルスのパンデミックで在宅勤務や感染者の隔離が広がると、ブランド認知を一気に高めたのがウェブ会議ツールのズームだ。今では企業が発信するストーリーや結婚式、テレビショーにまで活用されるようになった。

「消費者にズームの説明をする必要はもうないでしょう。今では一般的な『動詞』として使われるようになりましたから」と話すのは、同社グローバルCMO(最高マーケティング責任者)のジェイニン・ペロシ氏。

昨年12月の時点でズームミーティングの利用者は1日1000万人だった。それが4カ月後には3億人にまで急増。大々的なロックダウン(都市封鎖)の影響で、仕事や教育、フィットネス、飲み会、そして家族との触れ合いに、人々はこのツールに頼らざるを得なくなった。

「ズームは今、人々の日常生活を紡いでいます。企業が対象だったパンデミック以前のビジネスモデルは一変しました」とペロシ氏。かつて注力していたのはあくまでも企業コミュニケーションであり、大企業向けのビデオ・電話サービス、会議のサポートだった。

一般の消費者が広く利用するようになり、「かつて企業のIT部門向けに作ったようなツールの使用法の動画を、平易に制作し直す必要がある。もちろん、D2C(消費者直結)で対処します」。

同社マーケティング部はブログに投稿して消費者に使い方を伝授したり、プロダクト部と協働して新規利用者の正しい設定をサポートしたりしている。企業の役員会や学校の授業をオンラインで行うときにはどのように安全性を保つか、ということもブログに投稿する。

「いま力を入れているのは、ズームの使いやすさを新規利用者にも確実に伝えていくこと。正しい使い方を知ってもらい、安全機能をよく理解してもらいたいのです」

ズームは安全性やプライバシー保護の点で、この数カ月間専門家による調査を受けてきた。「注意トラッキング」(参加者が30秒以上画面に集中していないとホストに分かる機能)や「ズームボミング」(第三者が会議に乱入し、不適切な映像などを見せる妨害行為)が物議を醸したのだ。これまでのところ、同社に対する訴訟が少なくとも3件は起きている。

「これらの案件では、サービスのいくつかがデフォルト設定されていなかった。顧客からはこうした点を詳しく聞き取り、危機感を持って迅速に対応しています。我々の責任の大きさは十分自覚していますので」

パンデミックで、マーケティング部の仕事のペースも一気に加速した。以前は様々なプロジェクトの評価を毎四半期、あるいは数カ月、数週間毎に行っていたが、今では数時間、数日単位だという。

「ズームは社内的にも社外的にも透明性の高い企業。消費者にも会社の運営状況がよく分かる。困難や危機を乗り越えるには、このコアバリュー(中核的価値観)を守っていくことが不可欠です」

ビジネス以外の面でよく話題に上るのは、セレブリティたちによる活用法だ。ペロシ氏は、俳優のジョン・クラシンスキーがユーチューブ上で開設したチャンネル「サム・グッド・ニュース」でズームを使ったことを高く評価する。人気ドラマ「ザ・オフィス」(2005年から9年間放映された米国の人気ドラマ)のキャストがズームによるオンライン結婚式に参加し、再会を果たすという設定で、先月話題を呼んだ。


ジョン・クラシンスキーらが参加した「ズーム結婚式」を伝えるニュース番組


「多くの人々に喜びを届ける我々のプロダクトを使って、クラシンスキーはさらに多くの人々に喜びを届けてくれた」

ズームはバーチャルイベントを通じてブランドとも提携する。ウェルネス企業WWが提供するオプラ・ウィンフリー(米国の人気司会者)のトークイベント「Your Life in Focus : A vision Forward – Live Virtual Experience」がその一例だ。

また、ユニリーバのブランド「ダヴ(Dove)」とも協働。「母の日」のあった週末に合わせて無料アカウントの時間制限(40分)を解除し、ユーザーに無制限のビデオ通話を提供した。

「人間の歴史は、困難に直面した時にイノベーションが生まれることを物語っている。これは明るい希望です。ビデオなどのツールによって、リモートワークの生産性が今後どれだけ高まっていくのか。大きな期待を抱いています」

(文:ダイアナ・ブラッドリー 翻訳・編集:水野龍哉)

 

 

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