Tatsuya Mizuno
2021年4月19日

広告詐欺、日本は世界最悪レベル:IAS調査

アドフラウド(広告詐欺)は世界的に減少傾向にあるものの、日本では増加 −− インテグラル・アド・サイエンス(IAS)社の調査で、日本のデジタル環境の不備が浮き彫りになった。

広告詐欺、日本は世界最悪レベル:IAS調査

この結果は、アドベリフィケーション(広告検証)を専門とするIAS社が年に2度実施する調査「メディアクオリティ・レポート2020年下半期版」から明らかになったもの。

それによると、調査対象国となった世界20カ国のアドフラウド率は全体的に改善。アドフラウド対策を実施したインプレッションでは、計測対象のすべての端末(デスクトップ、モバイル、CTV)と環境(ウェブブラウザ、アプリ)、広告フォーマット(ディスプレイ、動画)でアドフラウド率が低下した。世界の平均率は1%を下回り、日本版レポートの公開が始まった2018年以降で最も低水準。

国別のデータでは、アドフラウド率が上昇したのは日本とオーストラリアのみ。特に日本では、デスクトップとモバイル端末のウェブブラウザ環境におけるディスプレイ広告の対策済みインプレッションのアドフラウドが増加した。デスクトップでは前年同期比0.3%増の2.9%となり、調査対象国中で最悪。世界平均は逆に0.3ポイント改善し、0.8%だった。また、モバイルでも日本は前年同期の1.9%から2.7%に。これも対象国中、最も高い数値だった。世界平均はやはり0.3ポイントの改善で、0.4%。アドフラウド対策が世界で進むなか、日本だけが取り残され、また詐欺のターゲットとなっていることが浮き彫りになった。

 


一方で、対策が施されていないデスクトップのディスプレイ広告ではアドフラウド率が8.6%に。アドベリフィケーションツールが導入されていないキャンペーンでは、対策が施されているキャンペーンと比較して最大11倍のアドフラウド発生率となった。

ブランドリスクも上昇

日本はモバイルウェブディスプレイのブランドリスクも上昇。前年同期比で2.8ポイントという最も高い増加率を示し、10.4%だった。世界平均値は0.1ポイント増で、5.8%。また、日本はデスクトップでも前年同期比2.4ポイント増で、5.6%に。英国に次ぐ増加率の高さだった。世界平均は4.4%。

 


動画広告におけるブランドリスクが世界的に上昇した主因は、新型コロナウイルスのパンデミックだ。自宅で過ごす時間が増えたために動画視聴時間が伸び、それに比例してブランドリスクも高まった。リスクの内訳の最多はアダルトコンテンツで、次いでヘイトスピーチだった。

ビューアビリティ

デスクトップディスプレイにおける日本のビューアビリティは55.7%で、前年同期比2.3ポイント減。世界平均の68.8%を大きく下回った。モバイルウェブでは46.4%と2.9ポイント増だったが、50%を下回ったのは日本のみ。世界平均の62.9%をやはり大きく下回り、日本はビューアビリティの低さでも際立った。

 


タイムインビュー(視聴時間)に関しては、日本は世界平均とほぼ同水準。ディスプレイでは前年同期から1.58秒増えて23.53秒(世界平均は23.24秒)に、モバイルは逆に1.88秒減って14.72秒(同15.24秒)だった。

 


こうした結果について、IASジャパンのセールスディレクターを務める山口武氏は以下のように語る。「日本のデジタル広告予算は世界のトップクラスです。広告予算の縮小傾向が目立った昨年も成長を続け、テレビや雑誌を大きく引き離す結果となった。残念なことに、成長を続ける市場が不正業者にとっても魅力的なものになってしまった」

では、なぜ日本ではこうしたアドフラウドが防げないのか。「例えば、世界一のデジタル広告予算規模を持つ米国のアドフラウド率は日本の約半分。アドフラウドから広告予算を守る最も効果的な手法はアドベリフィケーションの活用ですが、日本ではその導入率が1割を下回る。逆に、欧米のトップ企業の導入率は95%以上。『守り』がしっかりしていると言えるでしょう」

「CPC(クリック単価)やCPM (インプレッション単価)といった広告取引の単価効率を重視することは、概念として間違っていません。ただし、インプレッションの質を無視して効率を追求すると、単純に『安く、多く』の買い方になってしまう。結果的にアドフラウドや、粗悪な広告配信面が増えてしまうのです」

「日本でもブランドリスクの問題が注目され、3年ほど前から配信を限定する対策が多く取られるようになった。ただし極端に配信候補を絞り、かつ単価効率を抑えたことでドメイン偽装による不正インプレッションが増えてしまったことも事実」

この3月、日本アドバタイザーズ協会と日本広告業協会、日本インタラクティブ広告協会の3団体の協働で「デジタル広告認証機構(JICDAQ)」が発足した。広告取引の品質や透明性の向上で、国内市場の改革が期待される。「従来の手法では困難だったフラウドの除去や、効率的で安全なインプレッションの配信につながる施策の導入が加速すれば、アドフラウドにとどまらず、ブランドセーフティやビューアビリティも改善する。そうした変革を願っています」

(文:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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