Jeremy Thomson
2018年4月18日

CX導入には、互いへの理解と協力が不可欠

カスタマーセントリック(顧客中心主義的)なデザインが人気を集めるにつれ、その重要性を認識する企業が増えている。しかし、表面的なとらえ方をしてしまっている企業は少なくない。

概念が一人歩きしがちな、カスタマーエクスペリエンス。誰かと一緒に暮らすかのように、互いを理解し、協力し合うことが不可欠だ。
概念が一人歩きしがちな、カスタマーエクスペリエンス。誰かと一緒に暮らすかのように、互いを理解し、協力し合うことが不可欠だ。

合わない者同士では機能せず

時差のある複数の地域に関係者がいて、ローンチの時間が迫っているプロジェクトを想像してみましょう。プロジェクトを成功させるために、経験豊かで能力のあるプロジェクトマネージャーが必要なことは明白なはずです。

では、もし私が「プロジェクトマネージャーは不要」だと言って、全体の仕事をプロデューサー、デザイナーそしてエンジニアなどに分担させればよいと提案したらどうでしょう? きっと皆さんは、私の考えが甘過ぎるとか、正気ではないと思うでしょう。そして、もしこれを皆さんの会社で実行したら? プロジェクトは失敗に終わるか、完了したとしても手抜きのせいで出来の悪いものになるのは明らかです。顧客体験(CX)のデザインも、同じことなのです。

CXには居場所が無い

私は以前、新しいゲームのUXをデザインするコンサルタントとして、スマートフォンのアプリ制作会社に採用されたことがあります。その会社は真剣に顧客中心のデザインを作ろうとしており、CXデザイナーのための予算と人員を用意していました。CXデザインと、彼らの開発プロセスとを統合するため、CEOは私の採用を強く推しました。そして、面白そうなプロジェクトだったので、私は参加を決めたのです。

数日後、この会社にはCXが存在する余地がないという大問題に、私は気付きました。通常であればCXデザイナーが果たすべき役割を、他のメンバーが担おうとするか、誰も何もしないかのどちらかだったのです。そして私がその役割を務めようとすると、会社の人たちが変化を求めていないのです。CXの重要性は認識するものの、主導権を手放そうとはしない。いわば、誰かが短時間訪問することは受け入れても、彼らの中に入り込んでくることは容認しないようなものです。その結果、私はカルチャーを変えるべく何度も試みたものの成功することなく、時だけが経ちました。私は、社内に居場所の無いCXコンサルタントだったのです。

CXの導入は、誰かがあなたと一緒に住み始めるようなもの。一時的な来訪者ではなく、皆さんの生活の一部となるのです。実りある関係を築くためには、互いの考え方を理解し合い、最良の結果を目指して一緒に働くことが必要になります。それは、必ずしもしっくりくる訳ではない方法や考え方を、体験することでもあります。まずはリビングルームから始めて、共に活動できる環境を作っていくのです。その過程で互いを知り、これまでよりも優れたビジョンに到達できるかもしれません。

いかにCXを導入するか、的確な考えがなければ物事は機能しません。私がアドバイスしたいのは、チーム全体で協力し、CXをあらゆるプロセスの一部として受け入れるということです。互いに学び合い、CXデザインがもたらす優れた点を受け入れ、それを自分のものにしていくのです。

そのためには、CXデザインはUI(ユーザーインターフェース)デザインとは異なると理解することが重要です。CXデザインは経験、テスト、成果、データに基づいたプロセスベースの考え方で、皆さんの製品をより良いものにするために役立つもの。リサーチと分析、資料による裏付け、プロトタイプ作り、テストとレポートなどを含みます。そして、顧客が求めるものとビジネスニーズを理解して、二者間にあるギャップを埋め、具現化するものなのです。

(文:ジェレミー・トムソン 翻訳:岡田藤郎 編集:田崎亮子)

ジェレミー・トムソン氏はジオメトリー・グローバル・ジャパンのUXディレクター。

提供:
Campaign Japan

関連する記事

併せて読みたい

3 日前

世界マーケティング短信:Cookie廃止の延期、テスラの人員削減

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

4 日前

大阪・関西万博 日本との関係拡大・強化の好機に

大阪・関西万博の開幕まで1年弱。日本国内では依然、開催の是非について賛否両論が喧しい。それでも「参加は国や企業にとって大きな好機」 −− エデルマン・ジャパン社長がその理由を綴る。

2024年4月23日

エージェンシー・レポートカード2023:カラ

改善の兆しはみられたものの、親会社の組織再編の影響によって、2023年は難しい舵取りを迫られたカラ(Carat)。不安定な状況に直面しつつも、成長を維持した。

2024年4月23日

私たちは皆、持続可能性を前進させる責任を負っている

持続可能性における広告の重要性について記した書籍の共著者マット・ボーン氏とセバスチャン・マンデン氏は2024年のアースデイに先立ち、立ち止まっている場合ではないと警告する。