Ryoko Tasaki
2020年7月03日

世界マーケティング短信:社会的対立との向き合い方

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

世界マーケティング短信:社会的対立との向き合い方

※記事内のリンクは、英語サイトも含みます。

プラットフォームの対応に注目集まる

ヘイトコンテンツにどのように対応するか、ソーシャルメディア各社に注目が集まっている。ゲーム実況配信プラットフォーム「ツイッチ(Twitch)」は先週、トランプ大統領のアカウントを一時停止した。メキシコからの移民を犯罪者扱いする動画を投稿したことが理由だ。「レディット(Reddit)」も、同社のヘイト対策ポリシーに違反したとして、トランプ大統領を応援するコミュニティーを多数停止している。一方、十分な対策をとらなかったフェイスブックに対する広告ボイコット運動が、今週も続いている。

だが世界広告主連盟(WFA)加盟企業のおよそ4割が、広告出稿を止めるか否かを決めかねていることが、同連盟の調査で分かった。発表されたのは先週後半で、ユニリーバやコカ・コーラといった大手広告主がボイコットを表明するよりも前のこと。その時点で既に広告の出稿を停止した広告主は5%、おそらく停止すると回答したのは26%であった。

WFAメンバー企業の53%は、フェイスブック側とこの件について話し合ったと回答しており、この問題について認識はしている様子。48%は業界団体などを通して取り組む考えだという。「競争こそが、彼らを変えることのできる唯一の方法ではないか」「建設的なアプローチが正しいと確信しているが、より差し迫った緊張感を生み出すには、プラットフォーム会社の経営層に強いメッセージを送ることが必要ではないか」と会員企業のコメントもさまざまだ。
 

フェイスブック、出所の明らかなニュースを優先的に表示

誤情報の拡散を助長していると批判されているフェイスブックが、ニュースコンテンツを表示するアルゴリズムを変更した。オリジナルのニュース記事が優先的に表示されるようになる他、誇大な表現でクリックを促すクリックベイトを抑止するため、執筆したジャーナリストの情報が確認できないものは優先度を下げる。まずは英語圏で導入し、対象言語を拡大していくとのことだ。

 

インド、中国製アプリの使用を禁止

インド政府が国家の安全保障を理由に、TikTokや微信(WeChat)をはじめとする59の中国製アプリを、使用禁止にした。両国は6月中旬に国境付近で衝突し、緊張が高まっている。TikTokはインド国内に2億人ものユーザーがいるとされ、2019年9月の同アプリのダウンロード数のうち44%がインドからによるものだった。

Campaignが複数のソーシャルメディアエージェンシーに取材を実施したところ、オリヴィエ・ジラール氏(デジマインド APAC代表)は「西側諸国の大手であろうと、中国の新興企業であろうと、ソーシャルメディアプラットフォームやビジネス、インフルエンサーは政治的情勢から切り離された存在ではありません」と語る。「消費者は政治的・社会的課題に立ち向かうブランドにますます魅了されており、87%がコーズ(企業の社会的大義)に共感する企業から購入しています」

一方、プラネイ・スワループ氏(Chtrbox CEO兼創業者)は「これまで労力をつぎ込んできた作品をたった一晩で失ったクリエイターにとっては非常に残念な話」としながらも、優れたクリエイターは他のプラットフォームでも再び成功できると考えている。中国アプリの使用禁止が一時的なものなのか、今後も続くのかは不明だが、インド国内で作られたアプリにとっては好機ともいえる。「プラットフォームは変わるかもしれませんが、影響力のある人々は今後もその力を持ち続けるでしょう」と語る。

 

ブランド価値ランキング、アジア太平洋勢が健闘

カンター社が実施するブランド価値の調査「ブランドZ」が、今年の調査結果を発表した。首位のアマゾン(1位)、アップル(2位)は昨年と変わらず、以下マイクロソフト、グーグル、VISAと続く。

トップ100ブランドのうち、24件がアジア太平洋地域のブランドであった。中国からは17ブランドが選ばれており、特に高級白酒ブランド「マオタイ」はブランド価値が前年比+58%上昇している。日本からはトヨタ(48位)とNTT(63位)がランクインしている。

 

ソレル卿 「現状維持での安定は終わる」

マーティン・ソレル卿がPRウィークに語ったところによると、S4キャピタルはPR会社の買収には消極的だという。「PRはプレスリリースを書くというイメージを想起させ、アナログな印象を与えます」。同氏が関心を持っているのは「特にヘルスケア領域における、ソーシャルメディアのスペシャリスト」で、ヘルスケア関連のクライアントが、S4キャピタルの成長を牽引しているためだとか。

同社が他にも強みを発揮しているのは、ロボット工学、アニメ、バーチャルイベントの領域。「2008年の景気後退以降、多くの企業が現状維持したまま安定的に存続してきました。しかし今回の危機で、それも終わるでしょう」と、変わらないビジネスリーダーに明るい未来はないと指摘した。

 

【お知らせ】

■エージェンシー・オブ・ザ・イヤー2020、エントリー開始

Campaign Asia-Pacificが主催するアワード「エージェンシー・オブ・ザ・イヤー2020」のエントリーが、今年も始まりました。早期エントリーは8月20日締切、エントリーは9月17日締切です。詳細はこちら(英語)から。

Women To Watch 2020、エントリー受付中

「Women To Watch」のエントリーも始まっております。早期エントリーの締切は7月10日、エントリー締切は7月17日です。詳細はこちらから。

(文:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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