David Blecken
2016年10月05日

タグボートでのキャリアを経て、コラボ主体のコンサル会社を設立

日本の伝統的なビジネスの支援を目指す、新しい会社が設立された。

谷口寛氏
谷口寛氏

独立系エージェンシーとして高く評価されているタグボートでマーケティングディレクターを務めた谷口寛氏は、日本の伝統工芸を国際的なビジネスに押し上げるための支援を主軸としたコンサルティング会社を立ち上げる。

この新会社は、アートギャラリーから始まり現在は選りすぐりの工芸作品を紹介する「一期一会ギャラリー」とパートナー関係にある。より広い意味で日本のクリエイティビティーを盛り立て、日本でのブランド構築を目指す外国企業を支援することも視野に入れている。

谷口氏はタグボートに16年間在籍し、その間、ロンドンにも駐在した。マーケティングのキャリアをスタートさせたマッキャンエリクソンでは、ワイデン+ケネディと協業し、日本市場におけるナイキブランドの立ち上げを手掛けた。今や世界で最も称賛される独立系エージェンシーの一つとなったタグボートには、設立当初から参画している。

タグボートからの独立はこの上なく円満に実現し、新会社でもタグボートのサービスを利用する計画だという。国際的な成長よりも日本市場に注力するというタグボートの決断が、谷口氏が新しいチャレンジに乗り出すきっかけとなったようだ。

同氏はコラボレーションの力を強く信じており、新会社も他社との協業をベースに運営する。一期一会ギャラリーはごく小規模にとどまる可能性が高いが、新会社ではクリエイティブワークの企画制作や実行において大規模なネットワークを活用することを考えている。その例として谷口氏は、タグボートと外部のメンバーによる混成チームで臨んだ、最近のペルノ・リカール(ワインやスピリッツのブランド)のキャンペーンを挙げた。また、グローバルな協業ができる可能性を秘めた幅広い人脈を、これまで築き上げてきたという。

「人を引き合わせるのが、これからのやり方」と谷口氏。「出番が来るまでクリエイターが事務所に座って待っているようではだめ。実際、全員外部の方がいい。最高のクオリティーを引き出すためには、その道の専門家と組む必要があります」。一方で「プロジェクトにぴったり合う人材を探すのは、簡単なことではありません。この事業モデルが軌道に乗るまでには時間もかかるし、試行錯誤もあるでしょう」とも打ち明ける。

伝統工芸の職人の支援を掲げた背景には、「広告やブランディングを超えた、大きなことをやってみたい」という谷口氏の個人的な思いがある。「本当に社会のためになることをしたい。素晴らしい技を持つ伝統工芸の職人が消えていくのを、このまま見てはいられないと思いました。日本では気に掛ける人がいなくとも、海外での関心は非常に高い。職人は世界に向けて情報発信する方法を見出さねばなりません」

課題となるのはもちろん、マーケティング予算など用意したこともないであろう相手からいかに収益を上げるかだ。「日本の職人は『自分の腕だけで食べてきた』ために、今までブランディングなど考えたこともなかったというのが実情。伝統工芸が廃れ、途絶えてしまいかねない状況にあっては、世界に語りかけ、働きかける努力が必要です。そもそも日本人は自己アピールが上手ではありません」(谷口氏)

その点、フランスは良い手本になるという。各地方のプロモーションには地域の産物や工芸品がしっかり組み込まれており、あらゆるものを漫然と「フランス」としてではなく、地方ごとの特色を打ち出すことに成功していると説明する。

かつて自ら陶芸家になることも考えたという谷口氏は、「工芸品の価値を分かってもらうためには説明が必要」と主張し、漆器を例に挙げた。「プラスチックと似たようなものだと思われるかもしれませんが、値段は100倍。漆器は価値のあるものですが、説明しなければ違いを分かってはもらえません」

より幅広く日本のブランドについて語る中で谷口氏は、いまだに「欧米化」を追い求める過ちが繰り返されていると指摘する。日本は国際的に高く評価されており、「日本らしさ」が信頼性を高めるセールスポイントになるとともに、国際的にブランドを確立する近道にもなり得る。例えば、ユニクロのカタカナのロゴには、日本発ブランドとしての誇りが現れており、「日本の企業がこれから先、目指すべき姿」だと話す。

「模倣や二番煎じにはなりたくない、独創的でありたい、と誰もが思うでしょう。しかし、効果的に独創性を伝えるためには、マインドセットを変えて消費者の目線を取り入れる必要がある。つまり『このメッセージを伝えたい』ではなく、『このメッセージはどう受け止められるだろうか』という視点が大事なのです」

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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