Joe Nguyen
2023年11月16日

広告業界に問う: メタバースの定義は何か?

メタバースは、究極の未来ビジョンか、単なるバズワードか。いずれにせよ、マーケティングやブランディングに際しては、その明確な機能と定義が必要だ。博報堂H+のジョー・グエン氏が自身の考察を語る。

広告業界に問う: メタバースの定義は何か?

多くの人々がメタバースについて語り、それを中心にビジネスを推進しようとしているが、メタバースを構成する要素についての標準的な合意はまだない。メタバースの一般的なイメージは、ゴーグルやメガネなどを付け「ジャック・イン」して、他の人たちと会話をする仮想現実や拡張現実の世界だろう。

リーグ・オブ・レジェンド、フォートナイト、ワールド・オブ・ウォークラフトなどのオンラインゲームプラットフォーマーは、多人数同時参加型のオンラインゲーム(MMO)がメタバースだと主張している。ロブロックス、マインクラフトのようなプラットフォームも多くの人々からメタバースだと見なされている。

広告業界は、これらすべての主張を受け入れつつ、これらの機能や環境を、製品、サービスのプロモーションにどう活かすべきか頭を悩ませている。私たちは、ゲーム内での広告やプロダクトプレースメント、NFTなどに注目しているが、メタバースの機能的な定義は持っていない。そもそも、メタバースという言葉は、SFの代表的なディストピア小説に由来しており、今も私たちの空想の中に存在している。

「メタバース」という言葉はどのように生まれたのか?

「サイバースペース」という言葉は、1984年に発表されたウィリアム・ギブスンの小説『ニューロマンサー』の中で用いられた造語で、インターネットでつながったデジタル世界と、デッキやコンソールを介した視覚的(および聴覚的)なインタラクションのあり方を予見していた。1992年には、ニール・スティーブンソンが著書『スノウ・クラッシュ』の中で「メタバース」という言葉を披露している。インターネットの黎明期に書かれた『スノウ・クラッシュ』のメタバースは、物理学や政府の制限を受けない、自然界を無限に再現した仮想現実の世界として描かれている。

2003年、リンデンラボによるセカンドライフは、フラットスクリーン上の仮想世界を提供してくれたが、本格的な普及には至らなかった。Web2.0が世界中に浸透した2011年、アーネスト・クラインの小説『レディ・プレイヤー・ワン』(邦題ゲームウォーズ)は、スノウ・クラッシュの仮想世界に似たOASISと呼ばれるメタバースを描き、ゴーグルでジャックして他者と交流するというコンセプトを確固たるものにした。しかし今では、ディセントラランド(Decentraland)のような仮想プラットフォームやモバイルゲーム、MMOゲームなど、このようなコンセプトとは無関係な多くの環境がメタバースと呼ばれている。

メタバースは、ブランドに消費者のアテンションとエンゲージメントをもたらす、現在成長中のセグメントだ。ゆえに私たちは「メタバース」の実用的な定義を持たなければならない。これは、単にコンセプトが明確になるだけではなく、ブランド体験をクリエイトし消費者との関係を構築するための、具体的な仕様やプラットフォームが明確になる定義でなければならない。

今現在、メタバースにはどのような特徴があるのか?

インターネットインフラに接続され、オンラインだということだ。プラットフォームと環境は「常時オン」であり、ユーザーがその宇宙に参加するためにはオンラインでなければならない。だが必ずしも、ユーザーはゴーグルやバーチャルリアリティのヘッドセットをつけている必要はない。携帯電話やタブレット、PCを使うこともできる。また有線LANネットワーク上にいる必要もなく、3G、4G、5G、無線LANを経由して交流することもできる。しかし、オンラインであること、つながっていることは、メタバースに不可欠な特徴だ。広告に関して言えば、「デジタル」であることが必須の条件だ。

もう1つの特徴は、メタバースではその環境とコミュニティの中で、複数のユーザーがインタラクションできなければならないということだ。これは、誰かとゲームで対戦をしたり、(音声やテキストで)チャットしたり、誰かと一緒に何かを見たり、アバターでバーチャルミーティングをしたりできることを意味する。

これは、人々がいつでも好きなように出入りできる共同スペースだ。Google MeetsやMicrosoft Teams、Zoom等で行うバーチャルミーティングもメタバースだと言える。これはメタがホライゾン(Horizon)ではアバターですべてのことができると言っているのと同じことだ。だが、広告の観点からは、それらはプライベートな環境であり、広告が配信できない可能性もある。

もうひとつの特徴は、「リアルタイム」性だ。フェイスブックはオンライン・コミュニティだが、私たちはそれをメタバースとは呼ばない。人々は自分の好きな時間に出入りするが、それは非共時的な交流だ。私たちは投稿し、共有し、反応し、コメントを残す。

私たちはソーシャル・ネットワーク上で、人々とリアルタイムに交流することはない。だがメタバースでは、人々はゲームをしたり、会話をしたり、つまり「今」を共有することを期待している。決して、後から来る反応を期待しているわけではない。デジタル広告業界に関して言えば、リアルタイム性は、クライアントのメッセージを適切なタイミングで適切な人々に届ける広告テクノロジーの能力をさらに進化させるものだ。

メタバース」とは…

これらの特徴をまとめると、メタバースとは、オンラインのリアルタイムのコミュニティだと定義できる。そしてメタバースには、プライベートなものとパブリックなものがある。メタバースには、プログラマティック広告やプロダクトプレースメント、スポンサーシップなど、クリエイティブなアクティベーションを実施できるものもある。

私たちはすでに、デジタル・タービン(Digital Turbine)、アイロンソース(Ironsource)、ビッドスタック(Bidstack)などの広告プラットフォームを介してゲーム内インベントリに広告を出稿しており、eスポーツのスポンサーシップ契約に取り組むブランドもサポートしている。また、ロブロックス、マインクラフト、フォートナイトで、ブランドが存在感を高めるための手助けもしている。これらの取り組みの中には、この定義に当てはまるものもあるが、いくつかの条件でこの定義には当てはまらないものもある。それらすべてをメタバース案件と言って良いのだろうか?

また、この定義はWeb3.0以降に進化しても通用するだろうか?おそらく定義は、平面的な2Dウェブだけでなく、3Dウェブの視覚効果も含まれるよう、洗練させていく必要があるだろう。メタバースの概念は、「デジタル広告」の一部をカバーしているに過ぎないため、もしかすると、いずれ意味の無い用語になっていくのかもしれない。しかし少なくとも広告業界においては、今現在、何が「メタバース」と呼ばれ、何がそうでないかを明確にするために、この定義は役に立つのではないだろうか。


ジョー・グエン氏は、博報堂/DACグループのデジタル・サービス・ネットワークであるH+のシニア戦略アドバイザー。コムスコアの元アジア太平洋地域担当上級副社長。

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