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2018年11月13日

広告界に蔓延する、長時間労働の文化の真実

広告界の長時間労働の文化によって、どのように心が蝕まれているかを、あるシニアクリエイティブがつまびらかにしてくれた。

広告界に蔓延する、長時間労働の文化の真実

心の健康。重いテーマですよね? 私は10代の頃から断続的に、抑うつ状態に苦しんできました。確かに楽しい話題ではありません。でも凄まじく過酷な業界で働く同僚や友人たちを守るために、声を上げねばならないと感じています。

つい数週間前の世界メンタルヘルスデーには、広告会社が従業員の精神衛生を改善すべく実施していることについても話題に上りました。それはヨガ教室であったり、瞑想や従業員サポートのホットライン、栄養に関するセミナーだったりします。

しかし誰もが触れたがらない、もっと根本的な問題があります。労働時間です。

金融会社と同様、広告会社には夜遅くまでの仕事や、長時間労働といった過酷な労働文化があることが知られています。しかも一つの部門に限ったことではなく、アカウントエグゼクティブからシニアプロデューサーに至るまで全ての人を巻き込み、全体に蔓延しています。「クリエイティビティー」を追求するために自分の生活を諦めるよう、常に求められている状態です。

誤解しないでいただきたいのは、クリエイティブに携わる人間として、もし毎週末をオフィスで過ごすことになっても、それがD&AD賞の受賞につながるのならば、長時間の労働は(少しの間だけならば)可能でしょう。しかし実情は驚くほど不本意なものとなっているのです。

全身全霊を仕事に捧げる。

クリエイティブブリーフの内容に少し変更が生じる。

また身も心も仕事に注ぎ込む。

でも結局、クリエイティブディレクターが選ぶのは自身のアイデア。

クライアントは見向きもしない。

そして、その繰り返し……。

クリエイティブに携わる者の役割は、容赦なく過酷です。最初に思いついた企画がベストではないため、それは仕方ないことでしょう。クリエイティブなプロセスには通常、(クライアントからのものも含めた)大きなプレッシャーがあり、多くの人間が関わり、しっかりと成果を出すよう求められます。多くの時間が必要ですし、それが仕事です。

しかし常に夜遅くまで働くことが求められ、心身ともに疲れ果てているならば、役割を果たすことは難しくなります。午前4時まで働いた後、明日は少し遅く出社してもいいかとシニアマネージャーに尋ねたことがあります。すると答えは「オーケー。じゃあ午前10時までに来て。それなら1時間余計に眠れるでしょう?」。私は「ふざけるな!」と返しました(残念ながら頭の中だけでですが)。その日は18時間働き、4時間寝るか寝ないかという状態だったのですから。休みなしの深夜までの仕事が続く日々の中、「こんなのは間違っている」と言える勇気があったらよかったと思います。しかし私は、下を向くことしかできませんでした。

当初私は、充血した目は名誉の印のようだと感じていました。初めて週80時間も働いたときの、誇らしげな気分を今も覚えています。まるで自分のやる気や熱意の証のように思えました。なぜなら、そういうものだと聞かされてきたから。もし午後6時に退社していたのなら、クビになっていたでしょう。「誰よりも早く出社し、一番最後まで社に残るべし」などといったナンセンスが、まかり通っていたからです。「長時間労働イコール勤勉」という慣行化された考えを捨てない限り、私たちは破滅の道をたどる運命にあるのだと、今になってみれば分かります。一生懸命働くからといって、1日15時間、週7日も働く必要はないのです。断ったら仕事を失うかも、と怯えてはなりません。「ノー」と言うのです。

「ノー」と言う力

もちろん夜遅くまで、あるいは週末に働くことが必要な時もあります。締め切りは常に追いかけてくるもの。しかしその分の時間は、後で取り戻すべきです。心身の健康のために、強く要求しなくてはなりません。ストレスだけをみても、うつや不安障害、心臓発作、脳卒中といった、長期にわたる複合的な病の原因になることが知られています。あなたがどう思っているかは分かりませんが、私はこういった病気にかかりたいとは思いません。

疲労も蓄積すれば、体調不良、悲しみ、怒りといった悪循環につながります。疲れれば、精神的に弱くなるからです。そして何か考えようとしたり、集中しようと努めると突如として、黒い犬(うつ病の象徴)がオフィスの隅からこちらをぼんやりと見ていることに気付くのです。

私は今、本当に病気です。そう、はっきりと言えます。

来る日も来る日も、疲れきった同僚の顔を見るのに疲れました。約束をキャンセルしたり、友達をがっかりさせたり、家族を傷つけたりするのにも、もううんざりです。バラ色の奴隷船で働くことに、疲れました。予定を立てるのも、いつしかやめていました。どうせ仕事をすることになるのは明らかだからです。おかげで自分は、価値ある存在や尊重される存在でなく、会社の所有物になったような気がしました。心身ともに虐待されていると感じたのです。でも一体、何のために?

私たちは工場で働いているわけではありません。数十億ポンドもの規模を誇る業界で、広告会社で働いているのです。政府の最新の調査によれば、毎年英国のクリエイティブ産業は、経済に918億ポンドもの貢献をしています。我々の報酬も、(時給に換算しなければ)それほど悪いわけではありません。広告会社で働くことは大抵の場合において、素晴らしいこと。才気あふれる人たちと共に働き、クリエイティブなアイデアを実現させる過程には、大きな楽しみがあります。しかし、求められる犠牲があまりにも大きすぎることもあるのです。

過酷な労働文化に終止符を

あまりにも長く存在してきた過酷な労働文化を改めようと、既に多くの広告会社が努めていますが、そんな労働環境は「仕事の一部」だ、「誰もがうらやむ」広告の仕事に就けたことに感謝するべきとの声も、いまだにあります。しかし、広告業界で働ける私たちがラッキーなのではありません。私たちのような存在がある広告業界こそが、ラッキーなのです。このことを忘れてはなりません。

従業員の労働時間について、広告会社にもっと責任を問うようにすれば、より効率的な運営につながり、必要な場合にはフリーランスの力を求めるようになるでしょう。オックスフォード大学の最近の調査によれば、週4日労働は従業員の幸福感と生産性を大きく向上させるのだとか。もし週に5日、午前9時から午後10時まで働いたら、それは週8日間働いていることと同等になります。これは生産性をかなり低めている、とは言えませんか?

まだ何も着手していない広告会社が今すぐできる、きわめて重要なことが一つあります。従業員のメンタルヘルス改善に努めることです。それはヨガのレッスンを30分間提供するといったことではなく、常識的な時間に従業員を友人や家族の元に帰したり、休みを与えたりすることなのです。

過重労働に疲れ、ストレスを抱えている時よりも、幸福で、価値があるとみなされ、尊重されていると感じる時の方が生産性が向上することは、これまでに何度も証明されてきました。

あなたはまだ、病んではいませんよね?

(編集:田崎亮子)

Campaign UKに初出の記事を書いたこの著者は、匿名を希望している。

提供:
Campaign UK

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