Jessica Goodfellow
2019年8月22日

日本と中国を一つに:AKQA東京・新MD

文化もビジネスモデルも異なる日本と中国だが、両国を一つにまとめて戦略を立てた方が強みになる −− AKQA新マネージングディレクター(MD)が語る。

サム・スターリング氏
サム・スターリング氏

AKQAの中国オフィスでMDを務めるサム・スターリング氏が、日本オフィスのMDも担っていくことになった。アジア太平洋地域の二大市場である両国だが、文化的にもビジネス的にも大きな差異がある。同一人物が牽引することは極めて希だ。

同氏は1年半にわたって中国オフィスのMDを務めてきた。「与えられた責務は膨大ですが、心が躍る思いです」。今後は両国独自の戦略を探っていくとともに、国境を超えたキャンペーンでクライアントをサポートし、「相乗効果を狙いたい」と話す。

日本と中国で過ごす時間の配分はどうなるのですか?

現段階では日本で40%、残りを中国と考えています。幸いにも、今の中国オフィスのチームは強いリーダーシップを持っている。ビジネスの円滑な運営だけでなく、両国のクライアントに新たなビジネスチャンスを提供することができます。数年先の予定は、まったく分かりません。

澤井愛佳・前MDは5月の就任時に、「テクノロジーの分野で学んだことをビジネスに生かしたい」と話していました。日本でのビジネスではどのようなアイデアを持っていますか?

私は戦略を専門としてきました。今回の役職を受けた理由の一つは、この経験を違う形で生かせる機会と考えたからです。(クライアントから)多くのことを聞き出し、目の前の課題の本質を理解し、必要なツールを用意する。現地のスタッフの考えやインサイトを尊重し、全員がきちんと役目を果たし、納得できるビジネスのデザインをする。こうした能力を生かせるのでは、と。

私は、上に立つ人間は人を管理するのではなく、「バリア」に目を配るべきということを学びました。つまり、優秀な人材を集め、各人の能力や職場関係のバリアを除去する。それが成長を続けるための私の使命と考えています。

クライアントには、「両国の国境を超えたソリューション」を提供すると述べています。まったく異なる二つの市場で、どのように実現させるのですか?

両国のオフィスを一つにすることで、我々のチームは独自の機会を得ることができます。そして、ユニークかつ新たな課題への処理能力を身につけられる。機会とは、それぞれの市場の長所と強さを活用し、互いが必要とする専門知識や経験を応用できることです。それぞれの市場を分けるのではなく、重ね合わせることで大きな力を生み出せる。それは異なる両国の市場で新たなビジネスチャンスを発掘するだけでなく、共通点を見つけ、互いに必要なものを見出すことも意味します。

それぞれの市場の鍵となる強みは何だと思いますか?

日本の強みは「正確さ」「完璧さ」であり、中国は「行動力」「反復力」、そして「最適化する能力」です。また、日本は伝統に重きを置く一方、中国は動きがとてもスピーディーです。

中国で学んだことを日本の市場にどのように生かしますか?

今は、全体的なカスタマージャーニーの中で物理的スペースが異なる役割を果たしています。中国の小売業者はデジタルが実際の物販に悪影響を与えていると考えておらず、逆に物理的スペースをデジタル化し、デジタルツールとテクノロジーを活用することでそこから最大限の利を得ようとしています。

ブランドにとってのこれまでのカスタマージャーニー -- 商品の認知やロイヤルティ、そしてかつては購入の場であった物理的スペースといった要素ですが -- では、認知はOOH(屋外広告)やテレビといった従来型広告から生まれ、ロイヤルティは直接的なダイレクトメールやカタログなど、マスメディア以外の広告や購買行動から生まれました。しかし今の大きな流れでは、初めと終わりで物理的スペースがより大きな役割を果たしています。消費者がブランドを体験する場であり、消費者にとって新しい形で存在しているのです。ゆえに、こうしたスペースがオフラインの体験とどのような相互作用を起こすのか、またオンラインのオウンドメディアの役割はどうなるのかといったことを考察しなければならない。結果的に、中国ではカスタマーエクスペリエンス(CX)戦略とデザインのチームの人員を3倍に増やしました。

こうした流れが日本でどのように起こるのか、興味を持っています。インターフェイスそのものがブランドになるというコンセプトは日本でも浸透するでしょうが、それをどのように表現するかで違いが生まれると思います。

CX戦略とデザインのチームを3倍にしたということですが、逆に出資を減らした部分は何ですか?

それぞれの国によって異なります。コンテンツを作り、フェイズブックやインスタグラムに投稿するといったソーシャルメディアを利用する仕事はどんどん減っています。もうこうした手法は十分でしょう。今注力しているのはエンゲージメントの役割で、こうしたチャネルが全体の流れの中でどのように関わってくるかということです。中国ではもうEDM(メールやメールマガジンの配信)は行っていません。市場にそぐわないからです。活用しているのはウィーチャット(WeChat、微信)。このプラットフォームは5分ごとに新たなコンテンツを発信するので、我々は頻繁にその中に入っていき、技術的な限界や消費者のどのような行動に結びついているかなどを調べます。そうしたデータを取ることで、新たなソリューションやコンテンツのアイデアに結びつくのです。

MVPスタジオとは何ですか? 日本でも展開しますか?

素晴らしいアイデアを編み出すのと、それを実現するのとは別のことです。MVPスタジオはこの二つの機能を結びつける場です。我々は極めて迅速にプロトタイプを生み出す方法論を有しており、ビジネス上の課題や機会、インサイトを与えられてから3週間でソリューションのプロトタイプを生み出します。プロトタイプはエンドユーザーで有効性を確認し、集めたデータやさまざまな可能性の是非を提示し、更にはビジネス規模を数値化して実践します。こうしたプロセスは既にアプリケーションやチャットボット、AR(拡張現実)を活用して行ってきました。

この手法を生み出したのは中国オフィスです。日本のクライアントがこうしたサービスを欲するかどうか、今調査をしているところです。

テクノロジー面では、日本と中国のどのようなトレンドに注目していますか?

最も大きな期待を抱いているのは5Gです。そして、それがどのように一般に応用されるかということ。5Gはコンテンツの利用法からIoTやARに至るまで、驚くべき可能性を秘めています。さまざまな領域で革新を引き起こすでしょう。

それと、物理的スペースの変化にずっと興味を抱いてきました。我々の中国のパートナーはコネクテッドスペースを活用し、ユニークな試みを行っています。人の行動を特定のスペースでマッピングし、そこからどのような商業活動を行うのか、双方向的な指標を生み出そうとしているのです。それが分かれば、より消費者とつながりの深いショップや物理的スペースを作ることができる。とても大きな進化の可能性を秘めていると思います。

(文:ジェシカ・グッドフェロー、翻訳・編集:水野龍哉)

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