David Blecken
2016年10月26日

日本のモバイル決済市場を変革できるか ― Origami Pay

ますます競争激化が予想されるモバイル決済市場。新たなスマートフォン決済サービス「Origami Pay(オリガミペイ)」にとっては、利用者の拡大とデータの増加が差別化のカギとなる。

康井義貴氏
康井義貴氏

日本という国には、往々にして両極端の面が存在する。例えば、世界有数のインターネット通信速度を誇りながら、いまだにファクスが使用されていること。同様にモバイル決済の先駆者でありながら、いまだに現金決済が圧倒的に多く、クレジットカードの利用率は15%程度(普及率は80%以上)に過ぎないこと。非接触型決済の分野で日本は他国に大きく遅れをとっている。2015年のNFCワールドの調査では、非接触型決済が最も普及しているのはオーストラリアやシンガポール、台湾などだ。

Origami Payは日本発のサービスで、日本の高いスマートフォン普及率を活かし、非接触型決済を新たなレベルに引き上げることを目指す。運営会社のOrigamiは2012年に発足、すぐさま電子商取引のプラットフォームを立ち上げた。やがてシステムの進化とともに、電子商取引と電子決済の垣根を取り払ったOrigami Payを誕生させた。

サービスは今年5月から本格的に開始。導入店舗と消費者双方のコストを抑えることで、NTTドコモやソニーが提供する国内サービス、やや不安なスタートを切ったアップルペイ(10月25日のサービス開始直後、アクセスが集中して適切に機能せず)などとの差別化を図っている。謳い文句は代金決済の簡素化や店舗が負担するクレジットカード決済手数料の減額、さらには消費者向けの割引価格やプロモーションの導入などだ。

では、どのようにこれらのサービスを実現していくのだろうか。その決め手はデータ。同社は既存のロイヤリティープログラムが十分に機能していない点に着目している。Origami創業者で代表取締役社長の康井義貴氏は、「既存のCRMプログラムでは店舗側が欲しいと思う顧客情報を効率よく集めることはできません。ポイントカード型のプログラムに登録する人は比較的少なく、回答してもらう情報項目も極めて限られているため活用が難しい」と言う。「実店舗と個々の消費者がオンライン決済システムでつながれば、より多くのデータが入手可能になります。消費者の関心に応える情報やインセンティブの提供がしやすくなり、状況は劇的に変わるでしょう」。

「価値のある店舗内データを小売業者が収集し、マーケティングやCRMに生かせるプラットフォームを我々は作り上げたのです」。Origami Payのネットワーク上で「マーケティングソリューションが提供できる機能」も近々加えられる予定で、現在は複数の提携店舗がこのテストフェーズに参加しているという。

康井氏はOrigami Payのユーザー数を明かさないが、阪急百貨店のような高級百貨店からトッドスナイダー、TOMS、アレッシィといった独立系ブランドまで、既に多くの大手小売企業がこのサービスを導入している。同社の当面の目標は、「できるだけ多くの大手小売企業と提携すること。店舗側は、思った以上に新しいサービスの導入に前向きです」。

同社はまた、他の決済サービスとの協業も視野に入れる。「中国の決済プラットフォームと提携できれば面白いでしょう」。中国の消費者は訪日客も含め、セキュリティー上の懸念からクレジットカードの利用を躊躇する場合が多い。Origamiはこの点に着目、訪日客向けの決済方法を簡素化することで事業機会を狙っている。

Origami Payにとっての最重要課題は、もちろん、日本における主要な決済サービスとしての地位を確立することだ。だがどの先進国を見渡しても、日本ほど現金決済に依存している国はない。サービス規模の拡大にはそれなりの時間がかかるだろう。康井氏は海外進出の可能性にも言及する。同氏が起業した背景には、「なぜ日本からはイノベーションが生まれないのか」という世界からの疑問に答えるため、日本発の革新的な企業をつくりたいという想いがあった。海外進出の具体的な時期は明らかにしないが、進出先としては「アジアと米国に関心を持っています」。

Origami Payの先行きは明るいと言えよう。だが起業家の視点からすると、康井氏は日本の市場はまだまだ成熟していないと言う。国内市場を語る際、よく言葉の壁や起業家精神の欠落といったマイナス面が指摘されるが、同氏はそれらを否定する。「根本的な問題は、資金不足です。何しろこれに尽きる。昨年、日本のスタートアップへの投資はわずか10億米ドルでした。米国ではその70倍以上です」。

康井氏は、日本のテクノロジー産業が前進するためには既存の大手企業からの支援が欠かせないという。「今の大企業は手元に資金を置いておくことしか考えません。スタートアップなどの中小企業への投資が事業上のメリットを生むこと、つまりオープンイノベーションのメリットに大企業が目覚めれば、テクノロジー産業のエコシステム全体に変化がもたらされるのです。逆にそれが実現しなければ、いかに素晴らしいアイデアや素晴らしいチームを持っていても、100倍以上の資金調達ができる中国や米国のスタートアップ企業と互角に渡り合うことは難しいでしょう」。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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