David Blecken
2019年7月25日

編集長からのお知らせ

創刊から3年を経て、Campaign Japanが変わります。短いながらも、様々な出来事があったこの3年間を振り返ります。

写真提供:Shutterstock
写真提供:Shutterstock

親愛なるCampaign Japanの読者の皆様へ

冒頭から私事で恐縮ですが、8月1日付でCampaign Japan編集長の職を退くこととなりました。Campaign Japanは今後も存続して参りますが、フォーマットやリニューアルの頻度が変わります。私自身もコントリビューティングエディターとして、引き続き定期的に日本関連の記事を担当していく所存です。

この正式なお知らせをするにあたり、2016年の創刊から今日に至る3年間に起きた様々な出来事を、感慨を持って顧りみざるを得ません。

まず脳裏に浮かぶのは、広告の「透明性」と不健全な労働環境の問題です。後者は企業で働く多くの方々にとって非常に身近な問題でありましょう。これらのトピックスが表面化すると、事態は改善に向けて動き始めました。特に電通は、職場環境の幅広い改革を実行しました。しかしながら、根深い負の企業体質を一夜にして刷新することは不可能であることも率直に認めました。

マーケティング業界がより「ヒト中心」になるように、全体的な取り組みを続けていかねばならぬことは明白です。クライアントや雇用主からの理不尽な要求は、燃え尽き症候群や重度の精神的ストレスにつながりかねません。そうした環境下にあるビジネスマンの方々のご意見に、Campaignは引き続き耳を傾けていく所存です。

広告の透明性の実現に関しては、多くの人々がブロックチェーンが解決策であると考えています。しかし、頭からそう決めつけるのは間違っています。ブロックチェーンは確かに興味深い可能性を示していますが、その実行性に問題があります。すなわち、業界全体が世界規模で単一の民主化されたシステムを構築するのではなく、各企業が独自のブロックチェーンを導入しようとしている点です。「既得権益」はテクノロジーの核心的意義を弱める恐れがあります。広告界の多くの人々がいまだにブロックチェーンを理解していないことは言うに及ばず、適切に活用している人々は極めて少ないのです。

2017年の最も大きな話題はADKとWPPの確執でした。結局はベインキャピタルによるADKの買収という形で決着したことは周知の事実です。このドラマは実にヒートアップしましたが、これまでのところ社員のリストラ以外に目立った動きはありません。ADKはこれまで通り、順調に歩んでいます。極めて知的で勤勉なスタッフを抱え、いくつかのブティックエージェンシーもスタートさせました。これらのエージェンシーは必ずや刺激的な仕事を成し遂げることでしょう。しかしながら、この先半世紀以上を考えた場合、持続可能性を裏付けるような戦略はまだ打ち出されていないように思えます。言い換えれば、全ての広告代理店やメディアエージェンシーは程度の差こそあれ、同じ課題を抱えているのです。

2018年には広告業界の「ドラマ」は下火となり、再び日常生活に関わる変化が起きました。その中でも興味深いものの一つは(少なくとも他国から見て)、長年の懸案だったテレビ広告素材のオンライン化でした。世界有数の先進国で長年テクノロジーの進化を阻んできた既得権益が崩された −− 多くのオブザーバーたちは感慨を持ってこの報を聞いたものです。しかしオンライン化のプロセスはまだ終わっておらず、その誓約の達成は容易ではありません。

またこの年は麻生太郎財務相の失言をはじめ、築地市場の移転問題、住宅事業宿泊法(民泊新法)の施行など、コミュニケーション面で政府が度々失態を演じ、PRの重要性が行政の最高レベルでも十分に理解されていないことが露呈しました。次の大きなアジェンダは政府が「統合型リゾート」と称するカジノの建設ですが、政府のPRに対する理解力が再び試されることになります。

PR業界自体は大きな発展を遂げました。しかし、その価値をもっと享受できるはずの人々へのコミュニケーションという点でまだまだ不十分です。業界が高いレベルに到達するには、PRのプロたちがただ依頼された仕事をこなすだけでなく、戦略パートナーにもなり得ることを証明していかねばなりません。

ジェンダー平等はCampaignが世界的にサポートしてきたテーマであり、政府が労働力の均衡化を訴える日本では特に重要な課題です。広告業界における企業幹部の男女比を示す統計はありませんが、女性が健全な家庭生活を営みつつ、キャリアを磨き、幹部の地位を得られるよう更に多くの取り組みがなされなければならないことは誰の目にも明白です。

こうしたいくつかの課題を抱えつつも、日本は依然としてマーケティングコミュニケーションの分野で世界的レベルの作品を生み出しています。これは大いに誇りとするべきことでしょう。英国では、ロンドン五輪・パラリンピック大会のあった2012年にクリエイティビティーのピークを迎えたと言えます。来年の東京大会に向けて、日本でも同様の隆盛を迎えることを期待しています。そして日本、及び日本のコミュニケーション業界に生まれた楽観的なムードが、大会後も末長く続くことを願っています。

この3年間、皆様のために仕事ができたのは私の大きな喜びでした。少しでも皆様のお役に立てたのであれば、誠に幸いです。これまでCampaign Japanをご支援くださり、ご愛読いただいたことに心から感謝を申し上げます。

デイビッド・ブレッケン

(翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

関連する記事

併せて読みたい

1 日前

世界マーケティング短信:Cookie廃止の延期、テスラの人員削減

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

2 日前

大阪・関西万博 日本との関係拡大・強化の好機に

大阪・関西万博の開幕まで1年弱。日本国内では依然、開催の是非について賛否両論が喧しい。それでも「参加は国や企業にとって大きな好機」 −− エデルマン・ジャパン社長がその理由を綴る。

3 日前

エージェンシー・レポートカード2023:カラ

改善の兆しはみられたものの、親会社の組織再編の影響によって、2023年は難しい舵取りを迫られたカラ(Carat)。不安定な状況に直面しつつも、成長を維持した。

3 日前

私たちは皆、持続可能性を前進させる責任を負っている

持続可能性における広告の重要性について記した書籍の共著者マット・ボーン氏とセバスチャン・マンデン氏は2024年のアースデイに先立ち、立ち止まっている場合ではないと警告する。