Thomas Kolster
2021年7月09日

ブランドは「プライド」を賞賛するのではなく、行動すべき

「Mr Goodvertising」こと、トーマス・コルスター氏は、プライド月間を振り返り、ブランドが組織のあらゆる階層で、いかにダイバーシティを体現すべきかを語った。その範囲は、ガバナンスやオペレーションから、バリューやパーパス、製品やサービス、ブランドの影響力にまで及ぶ。

ブランドは「プライド」を賞賛するのではなく、行動すべき

あらゆるブランドがネルソン・マンデラのような人権擁護派を自称するようになり、消費者はブランドの取り組みに対する疑念を強めている。自分たちのブランドを危機に陥れたくないのであれば、今こそブランドマーケティングに携わるすべての人は目を覚まし、新たな方向に進むべきだ。

懐疑的になっている消費者を責めることはできない。コカ・コーラは、かつて「ハピネス」をテーマにしていたが、ある時から突然、「ユナイテッド・カラーズ・オブ・ベネトン(多様な人々の融和を含意するキャッチフレーズであり、ベネトン直営店の名称でもある)」のレンズを通して見た80年代のライフスタイルや多様性尊重のテイストを取り入れ始めた。今ではとにかく、多様なものを大切にする姿勢をアピールしている。若者風に言うなら「オープンっぽくない?」といったところか。

ブランドには一貫性が重要だとされているのに、方向が定まらず迷走しているブランドも多い。「プライド」は、単にバッジを付けるという話ではない。あらゆる部分でのダイバーシティの実現を意味する。ブランドがレインボーフラッグを手放したとしても、パーパス(ブランドの存在意義)、多様性、価値観は、いかなる市場においても、もはやそれを無視することはできない。レゴによる、人種差別的とされた「ジェミマおばさん」ブランドの廃止やプライド月間をテーマにしたレゴセット「Everyone is Awesome(誰もが素晴らしい)」の発売、従業員の多様化を進める取り組みなどといった「アクション」は、一時的には注目を浴びるかもしれないが、結局は真の勝者がいない「善行マラソン」になるのが目に見えている。

むしろ、人々は違いを見て、感じて、体験することを欲している。ブランドは、どうすれば人々の自己実現を助けることができるだろうか。そして各自のバイアスやステレオタイプと向き合ってもらうにはどうすればいいのだろうか?

ダイバーシティはゴールではない。アクション全体がそうあるべき

自分のブランドがアンステレオタイプ・アライアンスに加盟し、広告で常に多様なタレントを起用していれば、問題ないと思っているかもしれない。だが、それは間違っている。「多様性のあるブランド」というゴールに到達することは永遠にない。それはダイバーシティの概念が常に進化しているからだ。筆者は数年前からある大学でダイバーシティの授業を担当しているが、ダヴが2004年に開始した「#RealBeauty」キャンペーンの広告を今の学生たちに見せても、それは先進的なものではなく、ごく一般的なものに見えるらしい。これは目的達成への漸進的な勝利ともいえるが、同時に、コミュニケーションだけではなく、あらゆる面で多様性を受け入れるようにという、ブランドへのプレッシャーでもある。「上げ潮はすべての船を持ち上げる」という格言の通りだ。

「それでは、ダイバーシティをより良く理解するとどうなるのか?」と疑問に思うかもしれない。答えは、全体に多様性が行き渡るということ。つまり、ダイバーシティの理念が組織のすべての階層に広がり、存在していることだ。その範囲は、ガバナンスやオペレーションから、バリュー、パーパス、製品やサービス、ブランドの影響力にまで及ぶはずだ。

ガバナンスの観点から言えば、役員室から工場にまで、多様な意思決定者を揃える必要がある。例えば、資産運用会社のステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ(SSGA)は、「Fearless Girl(恐れを知らぬ少女)」キャンペーンで称賛を受けながらも、結局、ジェンダーの代表性が不十分だとして批判されることとなった。

オペレーションに関して言えば、女性のコーヒー農家から購入している「Cafe Femenino(女性のカフェ)」プログラムなどは多様性を支援している好例だ。

製品やサービスにも素晴らしい実例がある。イケアの「ThisAbles」プロジェクトでは、身体障がい者にとって使いやすいモジュール式の家具を開発している。スコシアバンク(Scotiabank)は、女性顧客を獲得する狙いで、男女間の賃金格差の解消を目指す「Bank on Equality(平等な銀行)」キャンペーンを展開しており、これも称賛に値する。

ブランドとしての影響力を持つダヴは、モデルの人材バンク「#ShowUs」をゲッティイメージズと共同で設立。あらゆるブランドが多様なモデルの画像を活用できるようにした。最後に挙げる生理用品ブランドのリブレス(Libresse)は、女性が自分を肯定的に受け入れられるよう一貫して支援し、「#Wombstories(子宮の物語)」を伝えるなど、タブーを破り続けている。まさにブランドパーパスだ。

ダイバーシティを義務ではなくチャンスと捉える

ダイバーシティを市場機会と捉えることには、非常に多くの可能性が秘められている。カスタマイエティ(Customiety)というスタートアップの例を紹介しよう。同社は、見落とされていた市場である低身長症の人々向けにファッショナブルな服を提供する企業だ。低身長症の人々は全世界に70万人以上いる。また、女性専用のマッチングアプリのバンブル(Bumble)は、IPOで25億ドルもの資金を調達し、ユーザー数と利益を着実に伸ばしている。身体障がい者を例にとってみよう。身体障がい者は世界最大のマイノリティー(13億人)で、推定8兆ドルの市場を形成している。そしてもちろん、モルティザーズ(Maltesers)のCM「New Boyfriend(新しいボーイフレンド)」のように、彼らは当然人として扱われるべきだ(これを書かなければならないこと自体が信じられない!)。

人々の情熱と創造性をブランドのメガホンに変える

オールウェイズの「#AlwaysLikeAGirl(女の子らしく)」、アリエールの「#ShareTheLoad(仕事の分担)」という2つのスローガンは、人々に語りかけるだけでなく、変化に参加してもらうことで何が起きるかを証明している。しかし、間違いなくそれ以上のこともできる。「#MeToo」や「#BlackLivesMatter」は、私たちが業界としてやるべきことは、キャンペーンよりむしろ何かを可能にすることだと示唆している。人々が本当に関心を持っている問題に気づくことができたら、彼らの創造性を活用できるようになる。優れたストーリーテリングとは、意図的に一部を隠した円環のようなもので、受け取った人が考えたり、空想したり、笑ったりすることを促す。パズルのピース1つを空白にしておくことで、好奇心や胸の高鳴り、脳の活性化を促すことができる。コミュニケーションとは、工場で焼かれてスライスされた味気ない既製のパンではなく、自分で好きなように作れるパンであるべきなのだ。

今はダイバーシティを前に立ち尽くすときでも、沈黙を守るときでもないが、ダイバーシティをポテトチップスの新しいフレーバーのように扱わないよう注意した方がいい。ブランドはダイバーシティについて活動家のような立場を取る必要はなく、ただ高まる圧力に対応するだけで良い。ブランドの影響力は確かに武器の一つだが、おそらくガバナンスやオペレーションを整理する方が先だろう。私たちは皆、自分自身のバイアスやステレオタイプと向き合わなければならないが、ブランドは、新しい視点で世界を見る手助けをしてくれる友人のような存在になることができる。ダイバーシティの必要性を説教する伝道師は不要だが、それに向かって一緒に走ってくれるコーチは必要なのだ。


トーマス・コルスター氏は自称マーケティング活動家、作家、基調講演者、「Goodvertising(グッドとアドバタイジングを組み合わせた造語)」ムーブメントの提唱者。

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