Sabrina Sanchez
2022年1月04日

P&GのDEIへの取り組み、「まだやるべきことは多い」

プロクター&ギャンブル(P&G)の最高ブランド責任者が、VMLY&Rのエグゼクティブクリエイティブディレクター、ウォルター・ギア氏との対談で、DEI目標を達成するために、社内の批判にどう対処してきたか、エージェンシーにはどこまで圧力をかけるべきかなどを率直に語った。

10月、アドカラー(ADCOLOR)の授賞式に参加したプリチャード氏。(写真:Getty Images)
10月、アドカラー(ADCOLOR)の授賞式に参加したプリチャード氏。(写真:Getty Images)

日用消費財大手、P&GのDEI(多様性、公平性、包摂性)は前進しているだろうか? もちろん前進しているが、最高ブランド責任者のマーク・プリチャード氏はまだ満足していないようだ。

プリチャード氏は12月13日のインスタグラムのライブで、「もちろん変化は起きているが、まだ十分とは言い難い」と述べた。

「マインドはかなり変化していると思う。ブランドは業界全体でさまざまな取り組みを行っており、それらが後退する心配はないだろう」とプリチャード氏は続ける。「問題はスピードが十分ではないことだ。原因は構造上の根深い問題で、まずはそれらを取り除く必要がある」

この言葉は、マーケティングにおけるDEIをテーマに、VMLY&Rのエグゼクティブクリエイティブディレクターで活動家でもある、ウォルター・ギア氏が開催したオンライン対談の場で語られたものだ。ギア氏は、2021年のP&Gの取り組みについて率直に語ってもらうため、プリチャード氏をこのライブの対談に招待した。

ギア氏によれば、P&Gは世界最大の広告主として、多様性に欠けるエージンシーチームへの発注を拒絶することで、エージェンシーに、多様性にコミットさせる力を有しているという。


プリチャード氏は、構造上の問題に対処するため、従業員を教育しなおし、多様な人材を採用する取り組みを始めたと言う。また、その一環として、有色人種を経営幹部に起用するため、P&GのCEOは、エグゼクティブ人材カウンシルと直接折衝することを約束している。

この中には、広告制作のすべての段階で、有色人種のメンバーが関わるよう、採用、制作、スポンサーシップ、タレントマネジメント等のプロセスを監査し、変更することも含まれている。プリチャード氏によれば、市場調査の手法も見直し、すでに「大部分が白人」となってしまう「サンプル調査」は止めたという。さらに、「一般市場」という言葉も排除しなければならないとプリチャード氏は述べている。

「(一般市場)という言葉は、ほぼ白人の市場を意味している」とプリチャード氏は語る。「今は、より多文化的なマーケティングが主流となっている」

P&Gは目標を達成するために、黒人や有色人種の従業員からの批判にも耳を傾けている。

プリチャード氏によれば、6年ほど前、CEOのデイビッド・テイラー氏と当時の人事責任者マーク・ビーガー氏が、アフリカン・アンセストリー・リーダーシップ・ネットワーク(African Ancestry Leadership Network)の黒人幹部たちから、ダイバーシティの取り組みについて厳しい疑問を投げ掛けられるという出来事があったのだという。

「腹を殴られたような衝撃だった」とプリチャード氏は振り返る。

この出来事をきっかけに、P&Gは女優のクィーン・ラティファによる「Queen Collective」や、ヘアケアブランドの「マイ・ブラック・イズ・ビューティフル」への投資を開始した。当時、最も多文化的なフェスティバルの一つとされていた、シンシナティ・ミュージック・フェスティバルのスポンサーとなったのも同じ理由からだ。

プリチャード氏は、社内外で働く有色人種の従業員が、率直な考えや体験を共有できる「ガラス張りの対話」も繰り返し実施していると補足する。

また、P&Gは3年前、女性役員の比率がわずか11%だったことから、役員の女性比率を対等にする取り組みを開始した。現在、中南米地域では50%以上、米国でも50%を達成している。

さらに、P&Gはここ数年、アフリカ系米国人の問題に焦点を当てた「Widen the Screen」「The Talk」といったCM作品も制作してきている。

しかし、このように前進はしてはいるものの、他の企業と同様、P&Gにはまだやるべきことは多いと、プリチャード氏は述べている。同氏に言わせれば、目標達成への最善の方法は、「ただ単に始める」ことなのだという。

「私たちは誰一人として完璧ではない。そして誰もありたい自分に近づいてさえいない」とプリチャード氏は話す。「まず、社内から始める必要があるのだ」

プリチャード氏は、多様性の基準に達していない企業との契約打ち切りにまでは言及しなかった。しかし、エージェンシーには多様性に関する情報の提供を求めていくと述べた。

「合格基準は、米国の人口比、つまり、男女比は50対50であり、少なくとも40%は有色人種ということになる」とプリチャード氏は説明する。「(ただし)X日までに(それらの数字を)達成できなければ即アウトというわけではなく、達成できないなら『達成できない理由とそれを変えるために必要なことを教えてほしい』と伝えている」

「至るところに構造上の根深い問題があり、構造そのものを変える必要があることに気が付いた」とプリチャード氏は話す。「人は自分が期待されている、また責任を負わされていると自覚していれば何とかしようとするものだが、我々がそれを手助けしようとしても、誰も自分事とは捉えていないのだ」

プリチャード氏は、ギア氏が(プリチャード氏の)ビジネス界への影響力を過大に評価しているのではないかと指摘した。ギア氏はこの対談の後、PRウィークのインタビューに対し、プリチャード氏の回答に「部分的には満足」していると語っている。

「(その力が)ないというプリチャード氏の回答には同意できない。同氏にはその力がある。同氏は非常に大きな力を持っているが、(おそらく)独断でそのような要求を決めるのは難しかったのだろう。(そのような要求をするときは)他のリーダーたちの賛同も得る必要があるからだ」

「どのような企業でも、変化に影響を与える最大の要因はお金だ」とギア氏は言う。「それによって金銭的な損失が生じるなら、それに対処して改善する方法を探すだろう」

ギア氏は、P&Gは確かに前進しており、このまま前進し続けてほしいと述べている。

「P&Gは世界に手本を示すことができる。私が期待しているのは、彼らが社内での取り組みを継続し、自分たちの取り組みを広く紹介することで、共に仕事をするベンダーや企業にも働き掛けを行うことだ。そうすれば、真の変化が訪れるだろう」

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