David Blecken
2017年1月06日

「電通、苦難の1年」を振り返る

昨年暮れ、電通の過重労働問題は佳境を迎えた。代表取締役社長執行役員である石井直氏が1月に辞任する意向を表明。これまでの経緯を改めて振り返る。

「電通、苦難の1年」を振り返る

一部の業界関係者の間で囁かれていた石井社長の辞任は、2015年12月に起きた若手社員の過労自殺の責任を電通が認めたという意思表示として捉えられよう。石井氏はトップとして6年近く、同社を率いてきた。日本で最も大きな影響力を誇る企業の1つが今、失墜した信用を取り戻すという前代未聞の難局にある。大きなスキャンダルに発展したこれまでの過程を整理する。

2015年12月:東京大学卒の新入社員、高橋まつりさんが過重労働を苦に自殺。亡くなる前には家族や友人に対し、行き過ぎた長時間労働に関する悩みを打ち明けていた。

2016年9月:電通及びグループ会社の一部がトヨタ自動車など複数の広告主に対し、デジタルサービスで組織的な過剰請求を行っていたことが判明。石井氏は内部調査を経て、この問題の詳細な全容と影響を受けた広告主への謝罪を記したニュースリリースを発表した

2016年10月:高橋まつりさんの自殺は職場でのプレッシャーによるものだったとして、労働基準監督署が労災を認定。時期を同じくして、厚生労働省は蔓延する長時間労働の実態などをまとめた初の「過労死等防止対策白書」を公表。さらに、高橋まつりさんが過剰請求に関与した部署に所属していたことも明らかに。東京労働局などは違法な長時間労働を容認、推奨してきた証拠を押収するため電通本社などへの立ち入り調査を実施した。

2016年11月:電通は過重労働の解消に向けて、労使協定による時間外労働時間の上限引き下げ(月70時間から65時間へ)、全館午後10時消灯、若手社員や中間管理職の意見を労働環境の改革に反映させるチームの組成など複数の対策を導入。また、国が子育て支援に熱心と認めた企業に与える「くるみん」マークの認定(2007年)を返上した

2016年12月上旬:電通社員の仕事の心得である「鬼十則」を社員手帳から削除 。1951年に当時の社長が定めたこの鬼十則は、仕事に全力で粘り強く取り組むよう諭したもの。前向きで鼓舞されると評価する人々も多かったが、高橋まつりさんの自殺を受け、「取り組んだら放すな、目的完遂までは殺されても放すな」という件が批判の的になった。同社は社員に仕事をより公平に分配するため、全社員の約10%を配置転換し、各部署にはHRマネージャーを置くことを発表。また、中途採用者や仕事経験のある新卒者をもっと雇用していくとも。さらには、改革へのフィードバックを反映させる諮問機関も発足させる。

2016年12月下旬:労働問題に取り組む弁護士やジャーナリストらのグループによって不当な労働条件を従業員に強いる企業に与えられる、「ブラック企業大賞2016」を電通が受賞。東京労働局は違法な長時間労働をさせた労働基準法違反の疑いで、電通と同社幹部を書類送検した。その直後、石井氏が辞意を表明。後任は1月の取締役会で選ばれる。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)

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