クライアントが我々に求めるのは、「ケーキそのものを焼く」ことなのか、それとも「ケーキの表面にアイシング(砂糖の衣がけ)を施す」ことなのか。広告の詳細な提案に移る前に、この質問をするべきだと強く感じている。
この時期のクリエイティブブリーフには、「ブランドリーダーシップ」や「ディスラプション(破壊的創造)」などといった用語が多く並んでいることだろう。
これらの用語は、有能なエージェンシーであれば聞き慣れた言葉のはずだ。変革を起こしたい、商品のカテゴリーに進歩を促したい、競合他社を圧倒したい。「後世に語り継がれるような広告にしたい」なんていう、驚くような要望もあるだろう。そして、崇高な理念やビジョンが作り出されていく。
ここまできて、ようやく実作業に移る。
そして実作業に入ってから、ようやく明らかになるのだ。本当は、クライアントは世界に変革を起こしたいわけでも、進歩を促したいわけでもないということが、だ。
そしてクライアントが、そのカテゴリーでビジネスを牽引していきたいわけではないことも。ありがたいことに事業は好調で、マーケティングで何かを変えなくとも儲けが出ている。
この場合におけるマーケティングの役割とは、広告の制作進行管理に限定される。これは例えるならば、すでに焼き上がっているケーキの周りに、アイシング(砂糖の衣がけ)をかけるようなものだ。
アジアの市場で利益を出すためには、今のところはそれで十分だという商品カテゴリーは多い。広告会社が担当する領域は限定されるが、これはもともと広告会社に求められていた役割だ。何ら問題はない。
だから、クライアントが何を求めているのかを、早い段階で把握することが必要なのだ。でないと、実現することのない変革のために議論を重ねて、膨大な時間を無駄にすることになるのだ。
ブランド間の競争が激しくなれば、商品やブランドの進化は起こるだろう。ブランド戦略コンサルタントのアダム・モーガン氏が「電話ボックスの中での刃物を使った戦い」と表現したように、逃げも隠れもできなくなるのだ。
そのような日が来るまで、われわれ広告会社に求められるのは「アイシング用の砂糖」をすぐ使える状態にしておくことだろう。
チャールズ・ウィグリー氏は、BBHのアジア太平洋担当チェアマン。
(編集:田崎亮子)
2017年11月30日
顧客が欲しいのは大きな変革か、それとも広告なのか?
エージェンシーが何をどこまで担当するのかを明確にすれば、労力や時間を無駄に費やすことも減るのではないか。BBHのチャールズ・ウィグリー氏はこのように述べる。
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