Brandon Doerrer
2024年7月04日

カンヌ審査委員たちは、「AI」をどう評価したのか

広告業界でも、AIを活用したキャンペーンが話題だ。今年のカンヌライオンズで、審査委員たちはその価値や影響力をどう判断したのか。選考の現場からの声をレポートする。

写真:カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル / プレスポータル
写真:カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル / プレスポータル

* 自動翻訳した記事に、編集を加えています。

今年のカンヌライオンズで注目を集めた話題は、「クリエイター」、イーロン・マスク、そしてAIだろう。

昨年同様、今年もAIは話題の的だった。だが、議論の中味は変わった。AIが登場した頃は、このテクノロジーで広告がどう変わるか盛んに話し合われたが、今はどうビジネスに取り入れるべきかという内容に進化した。

ハヴァスのヤニック・ボロレCEOは今週、AIなどの主要テクノロジーに今後4年間で4億ユーロ(約700億円)を投資すると発表した。

一方、OpenAIのミラ・ムラティCTOはアクセンチュアソングのデビッド・ドロガCEOと雇用の安定やAIの最大限の活用法について議論を繰り広げた。

AIはまた、メディアスポーツ・エンターテインメントイノベーションといった各部門のグランプリ受賞作品に大きく貢献した。授賞式ではその存在感を力強くアピール。今年は初めて、AIを利用した応募作品にはその開示が義務付けられた。

だが、カンヌの審査員たちに話を聞くと、作品がAIを利用したかどうかは審査の最終段階までほとんど考慮されなかったという。

イノベーション部門の審査員は、「まずアイデアの斬新さを話し合い、その後テクノロジーへの貢献度や消費者へのアピール度に着目した」と話す。

AIの使い方について話し合われたのは、その後。イノベーション部門の審査委員長を務めたAKQAのグローバルCCO、ディエゴ・マチャド氏はこのように語る。

「多くのグランプリ作品のアイデアは、1年前には実現不可能だったと思います」

その1つ、クリックヘルス(Klick Health)社がKVIブレイブファンド(Brave Fund)社のために制作したキャンペーン「Voice 2 Diabetes」。KVI社はAIを活用することで、2型糖尿病患者と健康な人との違いを声から見分けるアプリを開発。このキャンペーンはファーマ部門でも金賞を受賞した。

「ほんの数年前までは実現不可能だったようなアイデアを、ブランドはAIによって実現できるようになった」(同氏)

「今年は私がカンヌに関わるようになってから10年目。これまで多くのアイデアを目にしてきましたが、複雑すぎたり、予算がかかりすぎたり、あるいは他社の協力が必要だったりしたため、それらのおよそ70%は実現不可能だった。AIはその溝を埋め、様々なクリエイティビティーを具現化しています」

だがAIの重要性をあまり認めない審査員もいる。他部門の審査員の何人かは、「AIが直接的に受賞に貢献したわけではなく、人間のアイデアを具現化する上でささやかな役割を果たしたに過ぎない」と語る。

メディア部門の審査員を務めたオムニコムメディアグループMENAのエルダ・シュケールCEOは、グランプリ作品が「AIによる制作」と評価されたことに驚いたという。

「AIを使っていることは審査過程で話題にならなかったと思う。この作品の素晴らしさは、全くそれとは関係ありません」

Gutサンパウロ社がメルカドリブレ社のために制作したグランプリ作品「Handshake Hunt」は、メルカドリブレのロゴである「握手」シーンをAIを使ってTVコンテンツから抽出。握手シーンになると画面にQRコードが表示され、視聴者をブラックフライデーのお買い得商品に誘導するというものだ。

この作品で審査員が着目したのは、AIを使っているか否かではなく、キャンペーンの目的や消費者インサイトを基にしたアイデアのプロセス、そしてその質と影響力、ビジネス成果などだった。

AIと広告主、特にクリエイターとの関係は最近、とみにぎくしゃくしている。先週、トイザらスはOpenAIの動画生成AI「ソラ(Sora)」を使ったキャンペーンをスタート、クリエイターたちの怒りを買った。5月にはアップルのiPad Proの広告「Crush!」に批判が集中。AIに仕事を奪われることを業界の人々が危惧する中、機械が様々な芸術形態を破壊し、吸収していくビジュアルは極めて無神経、という声が上がった。

「エンターテインメント・フォー・スポーツ」部門のグランプリ作品でも、審査員たちはAIの存在をあまり考慮しなかった。

マルセル・エージェンシーが制作した通信会社オレンジの「WoMen's Football」は、女子サッカーの試合の模様をディープフェイクで男子サッカーのように見せ、女子サッカーも男子同様にエキサイティングであることをアピール。

「あの作品は10%がAI、90%が人間の仕事」と言うのは同部門の審査委員長を務めたフューズ社EMEA・英国 CEOのルイーズ・ジョンソン氏だ。

だがマルセル社のAIの役割に対する見方は異なる。同社のガエタン・デュ・ペルーCEOは、AIが「制作ツールとして有用だっただけでなく、アイデアが実現可能であることを認識させてくれた」と話す。

カンヌの審査員もまた、審査におけるAIの利用法を確立していない。「生成AIのお陰で様々な業界のことを知ることができた」とマチャド氏は話すが、審査員の仕事を減らすAI導入についての規範はなかったという。

シュケール氏も、「グループ分けされる前にAIを使っていた審査員はいたかもしれないが、審査段階でAIが使われることはなかった」と話す。彼らはこれまでと同じように、紙に印刷された応募書類を見ながら仕事をこなした。

だが、「将来的にはAIを使う可能性もあるだろう」とシュケール氏。

「紙に書かれた過去の全てのデータをAIに入力し、ある基準を与えて全ての動画をふるいにかける。そうすれば自動的に勝者を導き出すことができるかもしれません。確かに、面白い手法かもしれない。でも、審議の過程では膨大な議論があった。重要なのは人の視点です。そのためにこのような審議があるのですから」
 

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