David Blecken
2019年2月07日

「コントラプンクト」の哲学

世界的に名を馳せるデンマークのブランディング会社コントラプンクト(Kontrapunkt)。その共同設立者であるボー・リンネマン氏が、デザインからの学びや政治家と民衆のギャップなどについて語る。

ボー・リンネマン氏。東京にて。
ボー・リンネマン氏。東京にて。

コントラプンクトは、デンマーク政府機関のブランドアイデンティティを手がけたり、レゴのアイデンティティをデジタル世代のためにリデザインしたことなどで知られる(レゴは最終決定を出すまで1年以上、コントラプンクトの提案したデザインをオフィスの壁に貼って検討したという)。

共同設立者のボー・リンネマン氏は1985年の会社立ち上げ以来、日本を頻繁に訪れている。これまで大日本印刷のプロジェクトを手がけたり、武蔵野美術大学で教鞭を執るなどし、3年前には東京事務所を開設。現在はデンソーや三菱、日産自動車などのクライアントを持つ。再び来京した同氏に、日本市場の可能性やデザインプロセスの根本的課題、そして日本政府のブランディングなどについて尋ねた。

デザイナーとしての信条は何ですか?

私は基本的に職人です。今でも最も情熱を傾けているのは書体デザインで、私の原点でもあります。職人としての意識は、我々が手がけること全てに影響していると思います。

どのクリエイティブにとっても、一つのプロジェクトに多くの人々が関わってくるのは厄介な問題です。あなたはどのように対処していますか?

正しい決断をするためには、デザインプロセスにおいて正しいガバナンスを編み出すことが最も重要です。クリエイティブが一人でデザインを考案し、皆に提示して満足してもらう、というふうには機能しません。全ての要素を煮つめ、誰もが役割を持てるプロセスにしなければならない。ハンマーで何度もモノを叩いて打ち砕く作業に似ていますね。

昨今、「クライアントが仕事に十分な時間を与えてくれない」という声をよく聞きます。あなたにとっても問題ですか?

考える時間を持つことは極めて重要です。心が踊るような仕事は、取り組んでいる間は夢見心地です。でも終わって数週間後にその仕事を見直すと、別に大したものではない。徹底した仕事をするには、時間が非常に重要な要素です。とは言うものの、限られたスケジュールがクリエイティビティーを引き出してくれることも事実。プレッシャーを受けることで、普段以上の思考力が発揮されるからです。10年前、我々は1週間で「ノーマ」(Noma、コペンハーゲンのレストラン。英国の飲食業界誌が選ぶ『世界のベストレストラン50』で4年連続1位に輝いた)のエクスペリエンスデザインを手がけましたが、今までで最も価値ある仕事の一つとなりました。時間があり過ぎると、逆に焦点を見失うものです。

これまで最も困難なプロジェクトは何でしたか? また、それから何を学びましたか?

適切な答えではないでしょうが、現在取り組んでいる仕事が常に最も困難です。全ての仕事はさまざまな意味でやりがいがある。クライアントにとってそうでないのなら、我々がやりがいのあるものにします。40年間のキャリアを通して分かったことは、デザインが企業にどれだけ大きな影響を与えるかということ。我々のクライアントになる企業のほとんどは、新たなステージに移行する変革の過渡期にあります。そして新しいデザインは、彼らがターゲットとするオーディエンスにとって変革の証となる。例えば、環境意識を向上させた企業がそれを十分にアピールできていないとします。まったく新しいアイデンティティを確立すれば、消費者はその変化に気づくのです。

「ヴィジュアル面を変えるだけで本質の変わらない企業が多い」という意見もあります。

それも正しい意見でしょう。表面的なイメージだけを変えようとしている企業には、興味はありません。我々にアプローチする企業は、なぜコントラプンクトに仕事を依頼するのか −− その理由を把握するよう努めています。更にそれらのプロジェクトが、我々の目標や仕事の進め方といった戦略と合致しているかどうかを判断します。もしそうでなければ、他の会社と協働してもらうよう進言します。

デンマークのデザイン会社として、日本にはどのようなチャンスがあると思いますか?

日本には国際的活動をする企業が数多くありますが、彼らの考え方は非常に日本的です。ですから、他国に対する理解や海外でのブランディングに苦労する。それでも我々デンマーク人は、デザインに関して日本人と共通の認識があると思います。デンマークのデザインは伝統的にバウハウスの論理を取り入れ、それに人間味を加えてきた。バウハウスの概念はそもそも日本から来たものです。バウハウスの巨匠たちは皆、日本の伝統建築に影響を受けていますから。そうした意味で、我々のアプローチは日本人に共感してもらえるものだと思います。

個人的に、日本ではどのような点に触発されますか?

たくさんありますね。まずは、仕事に集中できることが大きい。先ほど仕事に対するプレッシャーについて話しましたが、日本ではじっくりと考え、それをできる限り完璧に遂行する時間を与えてくれる。正しい結果を出すための時間的余裕が、どこの国よりも持てるのです。

あなたはデンマーク政府のブランディングを手がけました。しかし、日本政府がそうした手法をとるとは考えにくい。なぜだと思いますか?

デンマークでは国家と国民との隔たりが非常に小さい。社会は開放的で、人々の政府に対する見方も大らかです。首相が街を散歩したり、自転車に乗ったりしていることも珍しくない。政治家や役人は地位や権力にあぐらをかくことはせず、民間の組織と同じツールを使い、同じように活動します。15年前に政権が変わった際、新政府は多くの行政機関を廃止しました。これらの機関は、社会に対して十分な価値のアピールができていなかったのです。そして我々は、省庁を差別化する仕事に携わった。例えば文化省は、教育省や財務省とはまったく異なる組織です。だからこそ、それぞれの立ち位置をはっきり表現することができるのです。

日本ではまったく逆のような気がします。行政機関は全てのもの、社会全体の上に立つ存在という意識がある。大衆に分かりやすい、アプローチしやすいコミュニケーション手段を活用しようなどという発想は持ち合わせていないでしょう。彼らは国民との間の「壁」を崩すよりも、築くことが自然だと考えている。いつかはこうした意識に気づくでしょうが……。

行政の意識は長年変わりませんが、なぜ今そう思えるのですか?

ブランディングに効果があるということを、彼らもいずれ認識するからです。ブランディングには理由があります。それは自分が人にどう見られるか操作するためではなく、オーディエンスに正しく理解してもらうためのものなのです。

2020年の東京五輪・パラリンピック大会のブランディングをどう思いますか?

五輪のブランディングに関しては、これまで掘り下げて考える時間があまりありませんでした。ただ、ロゴは知っています。目を閉じれば、似たようなロゴが頭に浮かんできますね。それでも、非常に日本的だと感じます。五輪のロゴは国のアイデンティティを象徴するべきものです。このロゴをどこの国がつくったか知らなくても、一見すればブラジルや豪州、英国ではなく、絶対に日本のものだと言えますね。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

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