Jessica Goodfellow
2022年3月04日

ジェンダー平等、求められる「パラダイムシフト」

広告業界ではクリエイティブ系管理職のダイバーシティーが一向に進まない。業界のウィークポイントを克服するには、何が必要なのか。

写真左より:ナタリー・ラム、ハンナ・メランソン、トゥオマス・ペルトニエミの各氏
写真左より:ナタリー・ラム、ハンナ・メランソン、トゥオマス・ペルトニエミの各氏

毎年、広告賞のシーズンが訪れ、クリエイティブ関連の受賞者のリストが公表されると、必ずや論議の的となるのは「ジェンダー不均衡」だ。ダイバーシティーは業界を挙げて長年取り組んできた課題だが、いまだに受賞者の圧倒的多数を占めるのは男性。業界のリーダーやダイバーシティー推進の運動に関わる人々には、取り組みへの再考が求められている。

業界全体を見渡せば、ジェンダーダイバーシティーは決して向上していないわけではない。それでもこうした状況が改善されないのは、各社の目標設定や取り組みにきめ細かさが欠けていることにある。

エージェンシーの大多数は、すでに社内全体のジェンダーバランス改善に乗り出した。だがこの数年、多くの関係者が認めるのは改革の詳細なチェックを怠り、上級管理職の人事にほとんどメスを入れなかったことだ。

分野別のジェンダー見直しを図る企業はほとんどない。その結果、特にクリエイティブやテクノロジーといった部門で管理職に男性を重用する傾向はほとんど変わっていない。クリエイティブ部門の広告賞受賞者のジェンダーが不均衡なのは、エグゼクティブクリエイティブディレクターやチーフクリエイティブオフィサーといった役職をほとんど男性が占めている現実の反映だ。

こうした現状は、単に女性をクリエイティブの上級管理職に登用するだけでは変えられない −− 今回Campaignがインタビューした3人の業界リーダーたちはこう口を揃える。クリエイティブ業界には根深いバイアス(偏見)やステレオタイプ(固定概念)があり、女性の尊厳を守る取り組みが欠けているというのだ。

アジア太平洋地域(APAC)のクリエイティブ業界を牽引する彼、彼女らは業界における女性の地位向上に熱心で、これまで様々な取り組みを行ってきた。このような議論を再び繰り返さないために、業界はどのような解決策を探るべきなのか。

国際女性デーを前に、業界を蝕むジェンダー不平等とバイアスについて改めて考える。

CampaignAPACにおけるダイバーシティーへの取り組みで、クリエイティブに従事する女性は十分考慮されていると思いますか?

ナタリー・ラム(ピュブリシス・グループ APAC及び中東・アフリカ担当チーフクリエイティブオフィサー)

いいえ、まったく十分ではありません。これは想像よりも広範で、根が深い文化的問題です。アジアの多くの国々はいまだに男性社会で、男性と女性の役割や行動規範が厳格に定められている。私ですらこの問題で家族と衝突しますし、業界の通念になっていることに驚きは感じません。私は決して対立を好む人間ではないし、ガチガチのフェミニストでもない。それでも残念ながら、ジェンダーに対する社会の考え方はとても遅れていると感じざるを得ない。日常生活で、「なぜこんな扱いを受けるのか」と思ってしまうケースが非常に多いのです。

体系的な変革を起こすには、まずジェンダー不平等が厳然と存在することを広く認識し、それから行動を起こすこと。残念ながらこの問題に鈍感な人が極めて多く、眼前で問題が起きていても気がつかない。業界の最重要課題として認識することがまず大切です。

トゥオマス・ペルトニエミ(RGA APAC担当エグゼクティブヴァイスプレジデント兼マネージングディレクター)

取り組みは十分と言いたいところですが、業界全体で目に見えるような変革は起きていません。このテーマは少なくとも直近10年間、業界で議論の中心でした。しかしいまだ議論が続いていることが、DEI(多様性、公平性、包括性)向上への取り組みが不十分であることを示しています。

ハンナ・メランソン(ディジタスANZ コピーディレクター)

この質問のカギは「十分」という言葉でしょう。残念ながら、答えはシンプルにノー。APACの上級管理職層でダイバーシティーが向上していることは間違いありません。しかし「十分」な取り組みが行われていたならば、年々もっと大きな進展を遂げていたでしょう。

多くのエージェンシーが今、収益を増やし、会社規模を広げ、多くの新規ビジネスと広告賞を勝ち取っている。それが我々の業界で起きていることです。なぜダイバーシティーへの取り組み −− そしてクリエイティブ分野の女性管理職の増加 −− だけが遅々とした歩みなのでしょう。

我々に必要なのは、給与の格差を埋めたり、採用のプロセスを見直したりといったレベルをはるかに超えるソリューションです。それは、パラダイムシフトに他なりません。

この課題を解決するため、貴社はどのような取り組みを行っていますか?

ラム:

アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を除去する認知力の向上、インタラクションにおける行動様式の見直し、自分たちの制作物に描かれる不公正なステレオタイプの認識などです。大切なのは誤りの認識だけでなく、なぜ間違っているかという理由を説明できること。そうすることで、皆が完全な理解力を身につけることができます。

現在はAPACと中東・アフリカでクリエイティブ分野の女性中間・上級管理職を対象としたメンターシッププログラムを展開し、潜在力の向上を図っています。プログラムの内容は2種類で、キャリアアップとクリエイティビティーの向上。私はこれまで、能力によってではなく単にクオータ制を満たすために女性を雇用・登用する人事をたくさん見てきました。これでは個人にとって成功とは言えません。今の短期的目標は女性によるたくさんの優れた作品を世に出し、クリエイティブ分野における女性の地位を確立させること。将来的にはジェンダー平等など一切気にせず、制作だけに集中できる環境をつくっていきたいと思います。

米国では、DEIと社会正義を実現するためにピュブリシス・グループは7項目のアクションプランを発表しました。今後3年間で、この取り組みに4500万ユーロ(約58億5000万円)を投じます。他の地域でも同じような取り組みが始まっています。最も成功した市場のアプローチからは、具体的な改善点と今後の問題点という学びを得ることができるのです。

ペルトニエミ

今後も一人ひとりのオープンな雇用と昇進を鑑み、ダイバーシティーを実現する「ショートリスト」(配属に関する従業員リスト)の作成を進めていきます。また年に一度、報酬の公平性を精査し、APAC域内で給与の配分にバイアスが生じていないかチェックをしています。

しかし、雇用と昇進だけでは職場にダイバーシティーを実現することはできません。我々の組織では従業員の誰もが公正な機会を得、公正に意見を述べ、強い自信を持てなければならない。そのために様々なプログラムを実施しています。その1つが自社で考案した「ウーマンアップ(WomanUp)」。月に一度催すフォーラムで、女性が管理職になるまでのプロセスをサポートします。また、長年行っている「RGAiD」は職場におけるDEI促進を目指し、認知度向上のためのプログラムやワークショップを実践しています。また、管理職を目指す女性をサポートするために上級管理職が直接指導するプログラムもあります。まだ完全とは言えませんが、我々のモットーはそれを目指して進化し続けること。公正性を確立するため、あらゆる変革を推進していきます。

メランソン:

ディジタスでは7年間働いていますが、その間にダイバーシティーとインクルージョンをサポートするいくつかの取り組みに参加しました。いずれもピュブリシス・グループとの共催で、APAC全域で女性がクリエイティビティーを競い合うプログラムに関われたことは特に誇りに感じます。

ピュブリシスは今、女性や有色人種の社会進出に注力するオーストラリアの女性活動家ウィニサ・ボニーと協働し、クリエイティブ分野の女性管理職の数を増やす取り組みを行っています。現在実施している入念な調査の結果が出れば、ピュブリシスやその傘下のエージェンシーは間違いなく女性管理職にとって「ハブ」になるでしょう。

肝要なのは、ピュブリシスが従業員だけではなく、社会全体を見据えていること。国連機関UNウィメンが主導する「アンステレオタイプアライアンス」豪州支部の創設メンバーになったのはその証です。この取り組みは広告業界における有害なステレオタイプを除去し、クリエイティブの全過程でダイバーシティーを優先しようというもの。制作に関わるスタッフだけでなく、消費者の意識も変えていく重要なステップです。

課題解決に向け、エージェンシー各社にはどのような行動を望みますか?

ラム:

他者への根本的な敬意を忘れないことです。会社の重職に就くことは、他の従業員の上に立つことではありません。むしろあらゆる人々から学ぶオープンな姿勢を取って、その肩書きがふさわしいことを証明しなければならない。企業が変革を遂げ、成功を収めるには男女問わず、役員全員の力が必要です。こういうことは言いたくないのですが、「ボーイズクラブ」的体質と男性の自尊心はクリエイティブに携わる女性にとって障害になる。こうした障害が除去され、仕事に専念できる環境を醸成することが一番です。

今、私が働くのは世界基準を満たす組織です。従業員の半数は女性で、管理職の40%も女性。でも、その中でクリエイティブ分野の女性は少ない。だからこそ私は女性の視点を打ち出します。我々は真のダイバーシティーを確立しようと積極的に活動しています。それもクオータ制を満たすためではなく、仕事のクオリティーを上げるため。我々は近い将来、クリエイティブに携わる女性に最高の職場環境を提供できる企業になりたい。そして、全ての優れたクリエイティブの担い手が集う場にしたいのです。

ペルトニエミ:

女性がエージェンシーの要職に就いて力を発揮するには、ワークライフバランスに関して意見が言える、真の意味でフレクシブルな職場環境を提供することが一番でしょう。RGAは「You do you(あなたがあなたのことをやる)」という方針を打ち出し、今は世界中で実践しています。従業員は会社に行くことを強制されず、一人ひとりがどこでどう働くかを選択できる。そうすることで、より公正な職場環境が生み出せると確信しています。女性も日常の雑事に煩わされることなく、キャリアアップの機会をより多く得られるはずです。

メランソン:

クリエイティブ分野の女性管理職が少ないという、裏付けの乏しいエビデンスは様々なところで耳にします。しかし詳細なデータは存在しません。もしエージェンシーが、大手クライアントを相手にする時と同じくらい熱心かつ真摯にこの問題に取り組んでいたなら、女性管理職の数はもっと増えていたことでしょう。

各エージェンシーが、女性従業員一人ひとりの入社時から役職に至るまでのデータを細かくモニタリングすると仮定してみてください。クリエイティブに関わる女性が経験する悩みを、単なる逸話や噂話で特定することはできないのです。業界に有意義な変革を起こすのならば、なぜ女性が低く見られるようになったかをまず理解する必要がある。

女性管理職の体験談をフォーラムなどで直に聞き、皆で共有することは重要でしょう。しかし、目に見える有意義な変革を起こす力は、データの中にこそあるのです。

(文:ジェシカ・グッドフェロー 翻訳・編集:水野龍哉)

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