Victoria Chew
2021年5月26日

ブランドは、東京五輪の「価値」を見直すべし

開催を巡っていまだ賛否両論が絶えず、祝祭ムードが一向に盛り上がらない東京五輪。それでも、ビジネスチャンスになる可能性は十分にあるだろう。

ブランドは、東京五輪の「価値」を見直すべし

開幕まであと2カ月に迫った東京五輪。パンデミックによる不確実性は高く、スポンサー企業は「待ち受けモード状態」だ。

通常ならばこの時期、各スポンサー企業はアスリートたちの熱い躍動を描いた五輪キャンペーンを大規模に展開しているはずだった。

だが、今回は違う。「五輪は開かれるのか?」といったヘッドラインが世界のメディアで踊り、日本の大会組織委員会は「安全な大会の実現」をひたすら強調する。リオやロンドン大会の直前は五輪一色だったマーケティング・PR業界も、狂騒とは無縁だ。

国際オリンピック委員会(IOC)のグローバルスポンサーによる派手なキャンペーンは一切なく、開幕日は淡々と迫る。英国での数少ない例外が、日本の大会組織委員会と英国オリンピック委員会が公開した動画と、英国選手団のスポンサーによるソーシャルメディアへの投稿だ。

ブランドはIOCと大会組織委員会によるゴーサインを待ちつつ、慎重に歩みを進める。いまだ明らかになっていないのは、世界最大のスポーツイベントのために綿密に練られたブランドアクティベーションだ。主要スポンサーは舞台の袖で、静かにその時を待っている。

トヨタ自動車のグローバル企業チャレンジ「Start Your Impossible」は、まだエンジン全開ではない。世界的企業の取り組みは極めて重要で、消費者との関係性を濃密に訴求するものだろう。「グローバルチーム・トヨタ」のアスリートストーリーが、早く日の目を見ることを期待したい。

今月には日用消費財大手プロテクター&ギャンブル(P&G)が五輪キャンペーン「#Leadwithlove」と「Good is Gold」(長年展開するシリーズ『Thank you, Moms』をベースにしたもの)を公開した。従来の路線を踏襲し、視聴者の琴線に触れるような作品群だ。

保留となるキャンペーン

パンデミックが大会に及ぼす影響には、誰もが憂慮を深めている。そんななか、ブランドに求められるのは順応性だ。スポンサー企業のキャンペーンは保留となるか、あるいは中止 −− ビジネス上の需要と課題の変化により −− に追い込まれるケースが目立つ。

マーケティング予算の刷新を図るブランドもある。いくつかのIOCワールドワイドパートナーは、2024年パリ大会を見据えようとしている。

だが、IOCのグローバルスポンサーは長期契約に基づいている。状況がどう変わろうが、必ずや恩恵をもたらす。五輪の知的財産(商標やロゴなど)権を生かした長期的マーケティング投資は、コンシダレーション(カスタマージャーニーで購入の可否を考える段階)やロイヤリティーといったブランド評価に重要な影響を及ぼすからだ。その効果が出るまで、少々時間がかかるが。

予算見直しを図るブランドには、ファンが自国からリモートでアスリートを応援するのに備え、アクティビティーを国内に限定するところもある。

一方、五輪をテーマとしたプロダクトのクリエイティブを担った人々が憂うのはコンテンツの「鮮度」だ。大会が1年延期され、2021年に合わないコンテンツを発表すれば、プロダクトの整合性が損なわれてしまう。ただ、パンデミックの最中にわざわざコンテンツを作り直すのは不適切と感ずる向きもいよう。

また、キャンペーンに登場するアスリートが大会への出場資格を失い、コンテンツが使用できなくなるケースもあるだろう。

将来へのビジネスチャンス

大会延期となって、思わぬ良い面も出た。ブランドがパンデミックに迅速に対応し、スポンサーとしてのアセットを様々な形で柔軟に活用したことだ。例えば、従業員エンゲージメントの向上や従業員の健康・福祉増進を目指したプラットフォームの設立。また、ブランドアンバサダーを起用してウェビナーを催したり、自国民にホスピタリティーを示すテレビ向けイベントを企画したり。

五輪という機会活用に、今ほどブランドとアスリートに柔軟性が求められているときはない。IOCの明確な規定と知的財産権を踏まえつつ、ブランドは認知度を上げるためより一層努力しなければならない。

こうした取り組みはすべて、我々の目に見える形となる。そして必ずや、機会創出につながるのだ。

英国オリンピック委員会はすでに大会延期から恩恵を受けた。クラウドプラットフォームの「GoDaddy」、ヨーグルトブランド「ヨープレイト」とスポンサー契約を結んだのだ。東京大会の半年後に開かれる北京冬季五輪大会から、スポンサー企業はさらなるメリットを獲得できる。

東京大会では、かつてない規模でブランドアクティビティーの「ビッグバン」が起きるだろう。海外からの一般客なしで行われるため、大会のほぼ一部始終がテレビ中継されるメガイベントになるからだ。

世界の五輪への関心は、この数週間で急激に高まる。勇気と果敢さを持ち合わせたブランドは、ユーモアや感動にあふれたコンテンツを活用して最大限の利を得るだろう。パンデミックの最中に催される五輪のテーマとなるのは、ダイバーシティーやインクルージョン(包摂性)、日本文化への敬意、そして世界の団結だ。アスリートを取り上げた革新的なデジタルキャンペーンも人々の創造性に訴求するだろう。

すべてのアスリート、そして各ブランドがそれぞれの「オリンピックストーリー」を作り上げることを私は信じてやまない。それらは通常のオリンピックとはやや異なるものになるだろう。だが、今我々が切に求めている「活力の源」となることは間違いないのだ。

ヴィクトリア・チュー氏は、マーケティングエージェンシー「フューズ(Fuse)」の共同経営者。

(文:ヴィクトリア・チュー 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign UK

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