Matthew Keegan
11 時間前

カンヌライオンズ、AI、そして信頼性

AIの不正使用を理由としたカンヌライオンズ史上初のグランプリ受賞取り消しは、非常に重要な転機となった。だがこれはAI時代のマーケティングにおける大転換の序章に過ぎないのだろうか?

カンヌライオンズ、AI、そして信頼性
* 自動翻訳した記事に、編集を加えています。

カンヌライオンズが議論の的となることは珍しくないが、今年はその議論がAIをめぐる内容となった。カンヌライオンズのような広告賞では長年、エージェンシーが賞獲得のために詐欺的な広告を提出したり、効果を誇張したり、さらには成果を捏造するといった問題が後を絶たなかった。しかし、AIを使用してコンテンツを生成・操作したという理由でグランプリ受賞作品が取り消されたのは今回が初めてだ。

最も注目を集めたのは、DDB傘下のブラジルの広告会社「DM9」の件だ。同社がワールプール(Whirlpool)のブランド「コンスル(Consul)」向けに制作した「Efficient Way to Pay」キャンペーンは、Creative Data部門のグランプリとCreative Commerce部門のブロンズを獲得していたが、両方とも取り消しに。AIが生成・操作した映像をケースフィルムに使用し成果を偽装したことで、不正確な審査が行われたとDM9が認めたためだ。

今や業界に広く浸透したAI技術だが、依然として賛否は分かれている。シリコンバレーを中心にその可能性を称賛する声がある一方で、雇用から個人のアイデンティティーまであらゆるものを根本から覆してしまうのではないかと懸念する声もある。AIは言語を模倣し、アートを創作し、知的財産を収集する能力を持つ。そして、一時的ではあってもグランプリを受賞するような作品を生み出す、新たな方法も編み出された。

 

本物と偽物を区別することがますます困難になりつつある時代に、こうした懸念をAIは増幅させ、エントリー作品の制作やプレゼンテーションにも拡大した。説得力のある偽りの物語を創作するのにAIが利用されるのであれば、どのようにして業界の信頼性を守れるのだろうか?

「AI技術は悪意のある者たちに、エントリーの偽造や改竄をする機会を提供しています」と語るのは、トリニティP3(Trinity P3)の創業者兼グローバルCEOであるダレン・ウーリー氏。「賞の運営者は、エントリー作品が有名になってから正当性が疑われるのを待つのではなく、審査前に検出する能力を高める必要があります」。

運営者は検証作業を業界に委ねるのではなく、より巧妙で新しい詐欺や無効なエントリーを検出するために投資すべきだとウーリー氏は考えている。「そうしなければ、悪評が続いて賞の信頼性と価値が損なわれ、エントリー費用の収入が激減するリスクがあります」。

一つ確かなのは、AIの影響力が徐々に増し、倫理面のグレーゾーンを生み出しているということだ。クリエイターやエージェンシーは作品自体へのAIの使用を隠し、審査員を意図的に欺こうとしているのだろうか? AIが生成した作品は今や、審査員(およびクライアント)でさえも違いを見分けられないほどシームレスで一般的のものとなったのだろうか? そして、AIの役割を明らかにする責任はエージェンシー、プラットフォーム、それとも賞の運営者にあるのだろうか?

「これはAIの問題ではなく、誠実さの問題」とムーン・ラビット(Moon Rabbit)のCSO、スティーブ・ウォールズ氏は述べる。「エージェンシーは賞を獲得するよう(持株会社から)インセンティブを与えられています。彼らは常に不正を働いてきました。AIは、その嘘を見破られにくくするための手段です」。

DM9の騒動を受けて、カンヌライオンズは生成AIの時代において賞の信頼性を維持するため、AI使用の開示義務付け、コンテンツ検出ツールの導入、AIや倫理の委員会の設置を含む一連の対策を発表した。しかし、これらの措置は信頼を回復するのに十分なのか、それともAI時代のマーケティングにおける大転換の序章に過ぎないのか、というのが大きな疑問だ。

ウォールズ氏は懐疑的だ。「『勝つか死ぬか』の状況が続く限り、エージェンシーは不正を続けるでしょう。特にケースフィルムが作品自体よりも重視される時代において、AIは新しい嘘の手段に過ぎません。エージェンシーが恥知らずな嘘つきで、不正行為を働く偽証者である限り、問題は解決しません。個人的には、ケースフィルムと受賞式を禁止すべきだと思います」。

さは必要不可欠

エージェンシーが大きなプレッシャーにさらされていることは、疑いようがない。広告賞には、名声やキャリアが懸かっているからだ。しかし、イノベーションを求める競争圧力と、誠実さや信頼性を守るという責務の境界線がAIによって曖昧になる中、エージェンシーは両者をどう両立させればよいのか?

「透明性は負担ではなく、あくまでもベースライン」と語るのは、ベンチメディア(Bench Media)の共同創業者兼COOであるシャイ・ルフト氏だ。「AIの使用について開示しないことは、マラソンにオートバイで参加するようなもの。AIがアイデア創出や脚本執筆、ビジュアル制作に役立ったのならば、それを公表すべきです。そうしても作品の価値は下がりませんが、すべてが人間の芸術性によるものだと偽れば価値が損なわれます」。

誠実さとは、作品の制作過程について正直であること。その点が明確でなければ、ルールを逸脱するだけでなく、アイデアそのものへの信頼が損なわれることになる。

「実にシンプルなことです。素晴らしいアイデアを生み出し、それが人々に影響を与えるように現実世界へと送り出し、その影響を測定する。そして自分が何をし、何を達成するかを報告する際には、しっかりと真実を語るのです」とエニグマ(Enigma)のCCO、サイモン・リー氏は語る。「もしも審査員があなたの作品を賞に値すると判断したのならば、おめでとう、あなたは受賞に値します。もしそうでなくても、問題はありません——仕事をやり遂げたという満足感は得られますし、さらに誠実さも保つことができるからです」。

近年の論争によって、説明責任を求める声はさらに高まっている。

広告業界は、社会から隔絶されているわけではない。C2PA のような電子透かしのプロトコル、「クリエイティブ・コモンズ(Creative Commons) の「CC Signals のような新しいフレームワーク、米国、EU、中国での政府による情報開示の義務化など、説明責任を求める声はますます高まっている。広告賞の運営団体、広告主、エージェンシーは先手を打つべきだ。

C2PA のようなプロトコルを使用すると、クリエイターはコンテンツに出所や来歴、AI使用の有無といった認証情報を付与できる。
 

「AI が作品に影響を与えているのであれば、そのことをクレジットに明記するべき。そうしないのは、クリエイターが記憶にふたをしているから」と語るのはR/GA の AI 製品担当グローバルエグゼクティブディレクター、ベン・クーパー氏だ。「この新しいクリエイティブのフロンティアは境界がまだ明確になっていませんが、情報開示は不可欠。罰としてではなく、制作への自分たちの姿勢を示す指標としてです。制作のプロセスに誇りを持っているのであれば、それを隠す必要はまったく無いからです」。

クリエイティブ・コモンズや C2PA などの組織は、既に先導的な役割を果たしている。コンプライアンスのチェックリストとしてではなく、クリエイティビティーを促進する触媒として、クレジット表示や倫理的なAI使用についてのフレームワークを構築しているのだ。

「AI はショートカットでも裏技でもありません。新しいメディアです」とクーパー氏。「そして他のメディアと同様、意志、好み、クリエイティブディレクション、そして人間のビジョンによって、どのようにAIを使うのかにかかっています」。

BBDOアジア(BBDO Asia)のエージェンシーコミュニケーション責任者である カミラ・グレディッチ氏は、エージェンシーは迅速な対応と新しいことに挑戦するというプレッシャーがある一方で、スピードや話題性を追求するだけでなく実際に価値を付加するために、意志のあるイノベーションを推進する責任も負っていると指摘する。

「課題は AI を使用することではなく、それをうまく使うこと。いつ積極的に活用し、いつ休止すべきかを知ることです。つまり、『どのように』使うかの前に『なぜ使うか』を問うことです」とグレディッチ氏。「これは一過性の流行ではなく、長期的なパートナーシップ。AI は急速に、職場における第二の伴侶のような存在になりつつあります。AI は話を聞き、反応し、時には私たちを驚かせることもあります。しかし、どんなに良い結婚もそうであるように、AIも明確さや意志、そして強いコミュニケーションがあって初めて成功するのです」。

人間+AIのアプロ

好むと好まざるとに関わらず、AIが消えることはない。今問われているのは、信頼を損なわない方法でどのように前進していくかだ。クリエイティブなストーリーテリングと、事実の誠実性の境界線をどこに引くべきなのだろうか?

「ガードレールを設けながら、迅速に動きましょう」と、アーキタイプ(Archetype)のAI&トランスフォーメーション責任者、サイモン・レッシュ氏は語る。「私たちは最初の草案、要約、バリエーション生成といった『退屈な』80%を生成AIによって加速させ、意味や評判を形作る部分については人間の判断に委ねています。これを私たちは『人間+AI』アプローチと呼んでいます。効率性を追求しつつ、透明性やプライバシー、そして『人間による最終判断』をすべてのプロジェクトに組み込んでいるのです」。

今年のカンヌは、AIをどのように使うべきではないかという問題に光を当て、AIが嘘や不正、欺瞞に利用される可能性を浮き彫りにした。おそらく、どれほど対策を講じ、倫理委員会や免責事項を設けようとも、ルールを逸脱しようとする者を阻止するには十分ではないだろう。しかしAIを無視するのではなく、どのように組み込むかが重要であることもカンヌは示した。

「問題を解決したり、実際に有用性を提供したり、新たなキャッシュフローや具体的なROIを生み出しながらも、芸術性や感情、社会的責任を犠牲にしていない受賞キャンペーンを見るのは素晴らしいこと」と、シンクHQ(Think HQ)のCCOであるアンディ・リマ氏は述べる。「この時代においても、誠実さと信頼性を維持する余地はまだあると思います。確かにバランスを取る必要はありますが、AIはクリエイティビティーの新たなフロンティアを示しており、そこでは新たなビジネスモデルや、より包括的な社会、持続可能な成長が共存できるでしょう」

結局のところ、AI には何ができるかではなく、AIをどのように活用するか選択することが重要なのだ。

「AI で限界に挑むのであれば、そのことを明確にすべきです。イノベーションは急速に進みます。しかし、それを意味あるものにするのは信頼です」とクーパー氏。「そして、よく分からないまま実験をしていては、先導するチャンスを逃してしまいます」。

 

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